第9話 東京奪還作戦①
作戦開始当日の早朝、朝日が登り始めるよりも早い時間に僕らは拠点を出ると、天城さん達が用意していた装甲車10台に乗って東京を目指していた。
実際には、東京奪還作戦と言っても【デスペラード】の支配する関東一帯の解放作戦のため、最初の戦闘の舞台となるのはさいたま市付近からの出発になるらしく、最初の1日で埼玉を解放後にその勢いのまま東京都内に夜襲をかけて一気に制圧していく、と言った感じの流れになるらしい。
だが、埼玉を開放した段階で何らかの通信及び監視が行われ、東京都内にいる本部に僕達の存在がバレれば夜襲をかけるアドバンテージが薄れるため、状況によって臨機応変に作戦を変更していくらしいが。
「我々の所有する魔道兵器では、魔人に対して有効なダメージを与えることが出来ません。ですので、作戦開始後の魔人討伐は君達に全て任せるしか有りません」
そう語る天城さんに、僕は「任せて下さい」と肯きを返す。
正直、こう言った魔人による支配地域の開放作戦を行う時には、何やかんや言いながらもアヤメは手伝ってくれるものの大抵やる気を出そうとしないので、これ程の大規模作戦で有れば何時も以上に面倒くさがっているのでは無いかと危惧していたが、今日は珍しく気合いが入った表情を浮かべているので少しだけ安心していた。
(やっぱり、何時もとは比べものにならない数の人の命が掛かってるから、流石のアヤメでもやる気が入るんだろうな。そうなると、最初のさいたま市解放はすんなり行くかも知れないな)
そんな事を考えながら、とりあえず不安材料が1つ減ったことにホッと胸をなで下ろすが、それでもまだ大きな不安が残っている。
(そもそも、僕に力が入り過ぎてるんだよな)
はっきりと言って、自分でも自覚出来る程今の僕は力が入り過ぎている。
昨日も心を落ち着けようと何時ものように基礎訓練を重ねていたのだが、不安や焦りを振り払うために一心不乱に訓練へ没頭していたら、気付いた時には既に日が落ちて結構な時間になっていた。
おかげで早めに休むつもりが何時もより遅いくらいの時間に寝るハメになったし、慌てて食堂に戻った時には既にアヤメも食事を終えた後だったのか1人で晩ご飯を済ませる事になってしまった。
(今回の作戦は、今まで開放してきたどんな集落とも比べものにならない規模の人命が掛かってるんだ。それで緊張するな、って方が難しいけど、やっぱりあまり緊張しすぎると妙なヘマをやったりする危険性が有るから、どうにか上手く肩の力を抜かないといけないな)
そんな事を考えていると、ふと視線を感じたのでその方向へと視線を向ける。
すると、僕の緊張を見抜いているのかアヤメがこちらの顔色を窺うようにじっと視線を向けていた。
「ええと・・・・・・どうしたの?」
「・・・・・・別に」
アヤメは簡単にそれだけ返事を返すと、視線を天城さんの方へ向けて口を開く。
「それで、町を占拠している魔人は極力生きて捉える。投降の意思が無ければその場で始末する、って方針で良いんだよね」
「ええ、構いません。・・・・・・本当で有れば、彼らにもきちんと罪を償って我々に協力して欲しいところですが、手心を与えたがために余計な被害が出るようでは元も子も有りませんからね」
僕は今までに魔人による不当な支配から人々を解放するため、何人かの魔人化した人間の命を奪っている。
だが、どのような悪事を働いていたとしても僕は出来る限り魔人の、同じ人間の命は奪いたくない。
しかし、僕が今の力を手に入れて最初の方に倒した魔人が、こちらが進める降伏も拒否し、徹底抗戦の構えを見せているにも関わらず僕がそいつにトドメを刺す事を躊躇ったため、その後に多くの人命が犠牲になるという悲劇を起こしてしまったことが有る。
だから、それ以降僕はこちらの降伏勧告に従わない魔人については問答無用でトドメを刺す事を決めている。
(それでも、救える命は例え敵で有っても救いたい! さいたま市を拠点に支配を行っている【デスペラード】の魔人は3人と言う話しだけど、1人でもこちらの話しに耳を傾けてくれたら・・・・・・)
そうして、薄らと空が白み始め、もうじき夜が明けると言った時間になった頃、僕らは作戦開始の予定ポイントまで到着していた。
ここから僕とアヤメの2人で市街地まで乗り込み、魔人3人を引きつけながらそれを制圧。
その隙に天城さん達が部隊を率いて囚われている市民を開放していくと言う手筈になっていた。
しかし、ここでアヤメが予想外の提案をし始める。
「本気で言ってるの?」
「うん。感じる魔力の気配から、敵の魔人は大したことない。だったら、相手はボクの悪魔達で十分だし、キョージはいざという時の守りで控えておいて」
「でも!」
「それに、そんな余裕の無い表情を浮かべた状態で戦って、余計な力が入り過ぎたせいで不要な被害が出るのは嫌でしょ?」
「それは・・・・・・そうだけど・・・・・・」
「まあ、とりあえず今回はボクの戦いを見ながら、余計な肩の力を抜きなよ。ボクがちゃっちゃと2,30分くらいで終わらせるからさ」
アヤメはそう告げると、『
それから6分後、早朝のためか、はたまた自分達が襲撃されるなど欠片も考えていなかったのか、あっさりとアヤメの駆使する悪魔達に拘束された魔人が3人僕らの目の前まで運ばれてきた。
「・・・・・・なあ、アヤメ。ちょっと早すぎない?」
「こいつら、なんか思った以上に弱かった。と言うか、ボクの悪魔達にびびって全く抵抗してこなかったんだけど」
まあ、でもそれも仕方の無い事だろう。
そもそも、気合いの入ったアヤメは何時も以上に滅茶苦茶で、あろう事かこの3人を捕えるために72体の悪魔全部を召喚したのだ。
そして、この場で魔力を持った異形と戦えるのはこの3人だけのため、必然的に1人当り24体の悪魔を相手にしなければならい。
況してや、寝起きで碌に状況の分っていない段階で人語を解する24体の異形に囲まれてまともに戦おうなどと言う気が起こるわけも無い。
「それにこいつら、元々力が弱くて上の奴らに良いように使われてただけで、別にこの力による支配を望んでやってた訳じゃ無いみたいだし」
アヤメのその言葉を聞き、これならばあっさりこちらの言葉を聞き入れてくれるかも知れないと安堵する。
そして案の定、自分の家族や恋人を救い出してくれるのならばとこちらへの協力をあっさりと承諾してくれた。
「とりあえず、あの3人の話しによれば今の【デスペラード】を実質的に仕切っているのはジャスティスと呼ばれる男のようだね。そして、逆らう者は容赦無く粛清されるだけじゃ無くて、その大事な人達も問答無用で粛清対象に入れられることから誰も逆らうことが出来ない」
「だったら、その頭を潰せばあっさり【デスペラード】は崩れるかもね」
「まあ、それでもジャスティスに心酔する幹部が何人かいるみたいだし、そいつらとの戦いは避けられないだろうね」
「・・・・・・だね。そして、心酔してるとなれば、こちらの説得に応じる可能性も無いんだろうね」
僕とアヤメはそんな会話を交しながらも、ここを開放したことが東京の本部に知られていないか、魔力やそれ以外で監視、通信が行われていない事を確認していく。
そして最後に、魔物や他の魔人の襲撃でせっかく開放してここを危険に曝さないように『アイギス』で守りを固めると、開放した市民の救護を続ける天城さん達の手伝いに合流した。
こうしてあっさりとさいたま市を開放し、その後の処理も昼前には終わらせた僕達は、本命となる今夜の作戦に向けて気を昂ぶらせていくのだった。
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