第3章 新政府の樹立

第0話

「本気でそんな事を言っているのか、天城たかしろ!」


「冗談でこんな事を言うもんですか! もはや滅びに向かいつつある今の日本を立て直すにはこれ以外の方法など無いんです!」


 薄暗い会議室の中、耐えること無く男達の怒号が飛び交う。

 ここは、関東にある政府が所有する施設の1つ、その地下に存在する会議室の中だった。


「度重なる作戦の失敗。これ以上はもはや武器も弾薬も確保は無理です! それに、食料だってこれ以上の調達の目処は立っていない。ならば、我々が国民のために出来る事などそれぐらいしか無いのでは有りませんか!?」


 先程、天城と呼ばれた若い男は目の前の初老の男性にそう告げると、じっと答えを待つかのように視線を向ける。


「それは・・・・・・」


 しかし、その初老の男にも反論出来るだけの言葉が見つからないのか、そのまま口を噤んでしまった。


獅童しどうさん。すみませんが、私も現状では天城さんの案に乗る以外、日本と言う国を存続させる道は無いと思いますよ?」


藤岡ふじおか、お前まで・・・・・・」


 獅童と呼ばれた男は暫く考える素振りを見せた後、深くため息をつきながらガシガシと頭を掻き、やがて降参だと言わんばかりに手を挙げる。


「分った。そこまで言うので有れば俺はこれ以上反対はしない」


「それじゃあ――」


「ただし! その交渉は天城、お前が成功させろ」


「え?」


 その言葉が予想外だったのか、天城と呼ばれた男は驚きの表情を浮かべる。


「これはお前が言い出した事だろ? それに、俺や藤岡のような年寄りには魔物が溢れる外に出て行き、この関東からが有る西日本方面までの旅は難しいだろ」


「それは・・・・・・」


 その言葉に悩む素振りを見せる天城に、獅童は険しい表情を浮かべながら強い口調で問う。


「それとも、自身の命が危険に晒されれば揺らぐ程度の覚悟だったか?」


「いいえ! 決してそのような事は――」


「それでは、何故答えを言い淀む必要が有る?」


 その獅童の問いに、天城は暫く考えるような素振りを見せた後に徐に口を開く。


「私のような若輩者一人で、はたしてあの者達がまともに話しを聞いてくれるのかと」


「そこまで気にする必要も無いのでは有りませんか?」


 その天城の不安に答えたのは藤岡と呼ばれた男だった。


「聞いた話しでは、あちらの代表となるのはまだ10台の少年少女だと言う話しですし、こちらが誠心誠意頭を下げれば話しを聞いてくれると思いますよ」


「しかし、噂に寄れば彼らは東京を占拠した魔人や魔物たちより、ずっと強力な力を持っていると言われています! そんな子供たちが相手で、碌に戦う力も持たない私の言葉が聞き入れと貰えるとは――」


「だけど、同時に彼らは魔力を持つ者、持たない者を分け隔て無く受け入れ、保護しているとも言われていますよね? だからこそ、その彼らに東京奪還を以来してみようと天城さんも考えたのですよね?」


「それは・・・・・・そうですが」


 弱々しく言葉を発する天城に、藤岡は優しい笑みを浮かべながら諭すような口調で語り掛ける。


「それに、相手がこちらと話しをする気が無いので有れば、どちらにせよ私達が同行したところで望む結果は得られないでしょう。そして、そうなれば天城さんに出来る限りの戦力を預けて向かってもらうのは今の最善です」


「・・・・・・分りました」


 藤岡の言葉に、天城はとうとう首を縦に振るとその瞳に決意を宿す。


「必ず、必ずこの交渉を成功させ、東京奪還の戦力を確保して見せます」


「期待してるぞ」


「だけど、決して無理だけはしないで下さいね」


 獅童と藤岡からそれぞれ激励を受けると、天城は「それでは早速準備に移ります」と一言告げ、深々と頭を下げるとそのまま会議室を後にした。


「・・・・・・それで? お前にはこの結末も見えていたのか?」


 完全に天城の足音が聞こえなくなったところで、徐に獅童が口を開く。


「はい、勿論ですよ。それに、彼が無事に交渉を成功させて援軍を連れて来てくれるところまでは見えています」


 獅童の言葉に、藤岡は穏やかな笑みを浮かべながら答えを返すと、何処か遠くを見つめるように視線を彷徨わせる。

 そして、数秒の沈黙を挟んで再度口を開く。


「しかし、その先の未来についてはなんとも」


「その東京奪還作戦が上手く行かない危険性もある、と?」


「それは分りません。ただし、見えないと言うことはどのような可能性でも有り得る、と言うことだけは確かです」


 藤岡の言葉に、獅童は眉間に皺を寄せながらも再び言葉を発する。


「そもそも、その神器とか言う不思議な力は当てになるのか?」


「何を今更。今までだって何度も私の言ったとおりになったじゃ無いですか。それこそ、今日の天城さんの提案だって」


「それはそうだが・・・・・・」


 そう言葉を濁す獅童に、藤岡は柔らかな笑みを浮かべながら言葉を発する。


「どちらにせよ、今は世界中が有り得ないような力に満ちているんです。そうなれば、私が言うように未来を見通す鏡があったところで不思議では無いですよね?」


「そう、なのか?」


 半信半疑と言った風の獅童に、藤岡はあえて全てを語らない。

 天城が連れてくる戦力は2人。

 そして、彼の神器、『八咫鏡やたのかがみ』が見せる未来の中にその2人に匹敵する脅威が待っており、その存在の影響で上手く未来を見通す事が出来ないのだと言うことを。


「ですから、我々のような老人は希望有る若い力がこの国の未来を開いてくれることをただ静かに祈るのみ、です」


 彼は最後に、まるで自分に言い聞かせるようにそれだけを呟いた。

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