第1話 始まりの日
「お~い、早く起きろ~!遅刻するぞ!」
「う、ん~~~~。」
1階から聞こえてきたお兄ちゃんの声で目を覚ました僕は、体を起こすと軽く伸びをしながら未だしっかりと覚醒出来ていない体に刺激を与え、ベットの横にある窓のカーテンを開け放ち、体全体で太陽の暖かさを感じる。
季節は6月。
最近は暫く雨が続いていたのでここまで天気が良いと気持ちが良い。
「さて、っと!」
軽い掛け声と共に僕はベットから出ると、直ぐに僕は寝間着から普段着へと着替えを済ませる。
僕の名前は
つい先日11になったばかりの現役小学生である。
そして、ついさっき僕に声を掛けたのは年が離れた
「よし!」
着替えが終わった僕は、急いで階段を下りて1階のリビングへと急ぐ。
すると、既に仕事に出ているのかお父さんの姿は無かったものの、先に朝食を取っていた制服姿の暁斗お兄ちゃんと、僕の朝食を準備してくれているスーツ姿のお母さんがいた。
「おはよう!」
リビングに入って開口一番、僕は2人に元気に朝の挨拶を済ませる。
すると、2人とも優しい微笑みを浮かべながら僕へと挨拶を返し、何かを思い出したように暁斗お兄ちゃんが僕へと声をかける。
「そう言えば、響史も今日は午前中授業だろ?お父さんから昼のお金預かってるから公園で一度待ち合わせで良いよな?」
「あれ?今日はお母さんは昼に戻ってこないの?」
僕が住む町は、小中高が全て徒歩数分の距離にあり、僕と暁斗お兄ちゃんが通う学校もとても距離が近い。
それに、お母さんは町の役場に勤めている関係で家と職場が近く、僕が午前中で帰る時などは昼休みに大抵家に戻って来ることが多いのだ。
「ごめんなさいね。お母さんは今日昼に大事な会議が入ってて戻って来れないの。」
申し訳無さそうにそう告げるお母さんに、僕は用意されていたトーストをかじりながら「別に良いんだけど。」と簡単に答えを返した後、暁斗お兄ちゃんに「じゃあ昼に何時もの公園で待ち合わせだね。」と答えを返す。
「それにしても、いったいどうなってるんだろうな。」
暁斗お兄ちゃんはそう呟きながら、目の前にテレビに視線を向ける。
つられて僕もそちらに視線を向けると、テレビで数日前に起きた中国南東部にある研究施設の爆発事故と、それに伴い中国及び周辺国家との通信が突然途絶えてしまうと言う未曾有の緊急事態についてのニュースが流れていた。
「やっぱり、ネットで噂になってたみたいに、またテロが起きたのかな。」
現在、度重なる不況や自然災害、増加する失業率により世界各地で治安が悪化しているとネットニュースに書いて有った。
それは他人事では無く、日本も10年前に発生した首都直下型の大地震の影響であまり景気が良い状態とは言えないらしい。
そして、それに伴い世界各地でテロ行為が頻発しており、そう遠くない将来大きな戦争が起こるのでは無いか、などとネットでは騒がれているのだ。
「はいはい、朝からそんな暗い顔しない!ほら、暁斗も響史も、もう7時過ぎてるし、早く朝食を済ませないと遅れるよ?それにほら、響史は今日は朝の当番なんでしょ?」
「げっ!?そうだった!」
お母さんの一言で、漸く今日僕は早く家を出ないといけなかった事を思い出し、慌てて朝食を掻き込むと、急いで歯を磨いてランドセルを掴み、慌ただしく家を飛び出すと学校へと急いだ。
僕の学校は、3年生までは近場で同じ小学校に通うメンバーと集団登校を行うのが基本なのだが、4年生からはそれぞれ個人で登校するようになる。
理由としては、4年生から部活が始まる影響で、防犯の関係から遅くまで練習が出来ない運動部が朝練などを行う影響であるとか。
また、最近では中学受験をする人も増えており、その対策に早くから課外授業を受ける生徒も増えている影響が出ているのだとお父さんが言っていたような気もする。
そして、そうやって個別登校に切り替わる影響なのか、4年生からは日替わりで朝の当番が当たっており、当番の人は早めに登校してホワイトボードの掃除や教室の簡単な掃き掃除をする決まりになっているのだ。
(まあ、でもこの時間だったらまだ余裕!)
そう考えながらも、僕は一応小走りで歩き慣れた登校ルートを進む。
結果として、僕が教室に辿り着いた時にはまだ女子の当番も来ておらず余裕だったのだが、元々体を動かすのが大好きな僕にとってはこれぐらいの朝の運動は大したものでは無かった。
まあ、いずれは運動神経の良い暁斗お兄ちゃんのように、剣道で大きな大会に出られるようになるのが目標なので、これぐらいの運動で音を上げているようではダメなのだが。
そうして慌ただしく始まった一日は、特に何時もと変わりなく過ぎていく。
教室での話題は、昨日から突然午前中授業に切り替わった原因である中国の事件やそれに関連する話題ばかりだった。
その多くはおそらくガセネタで、中には『未確認飛行物体が多数目撃された』とか、『交信が途絶える前の香港にいる友達から、化物が写った写真を受け取った人がいる』とかそう言ったものもあった。
正直、幾つかそう言った写真を見せてもらったが、頭が二つあるライオンみたいに大きい犬だとか、二足歩行で歩くトカゲの化物が都市部で暴れ回っている写真を見せられて、それを現実だと信じる人がはたしてどれだけいるのだろうか。
(嘘をつくなら、こんな突拍子も無い嘘じゃ無くて、大規模なガス爆発が起きたとか、研究施設から漏れ出した汚染物質で大気の汚染が、とかもっと現実味のある嘘をつけば良いのに。)
それらの情報に触れる度、僕は大方こんな考えでいた。
おそらく僕以外の友達も大抵そんな感想だったからこそ、ネットに上がったこれらの情報をこれだけ面白おかしくネタに出来たのだろう。
まさか、これらの情報がとても笑い話では済まない情報だと、この日の内に思い知ることになるとは知らずに。
そんなこんなであっと言う間に半日が過ぎ、その日の授業は終りを迎える。
小学校と高校では午前の終り時間が違うため、僕は一足先に待ち合わせ先の公園へと向かうことにする。
まあ公園とは言っても、時計や簡単な遊具、様々な置物がある程度でそこまで広くは無いのだが、ランニングを行えるコースが設置されているのに合わせて近場に屋根付のベンチなども置いてあることから、僕と暁斗お兄ちゃんは良く待ち合わせ場所にこの公園を使う。
それに、大きな道に面しているのでさほど危険が少なく、周りにあまり飲食店などが無い事から昼間の時間でも余り人が多くないのが、適当に時間を潰すのにもってこいの場所なのだ。
「あれ?」
そして、公園に辿り着いたところで僕は1人の非常に目を惹く少女の姿を見つける。
現在は公園の一角に設置された銅像に視線を向けているせいで後ろ姿しか見えないが、140も行かないであろう小柄な少女で、腰まで届くだろう艶やかな黒髪をツインテールに結んでおり、真っ赤なワンピースタイプの服を着た非常に目立つ外見をしていた。
更に、少女は1人でそこに立っているのにも関わらず、先程から誰もいない空間に向かって聞き慣れない言葉を話していた。
(僕より背が低いし、下級生かな?でも、あんな目立つ子がいれば直ぐ噂になりそうだけど・・・・・・・・・。)
そんな事を考えながら視線を向けていると、その少女は僕の視線に気付いたのか不意にこちらを振り返る。
そして、振り返った彼女の顔を見た瞬間、僕は思わず言葉を失う。
一言で言えば、今までに見たこと無いような綺麗な少女だった。
それこそテレビとかに出てくるような人と遜色ない、どころかそれ以上と言っても良いほどの整った顔立ちをしており、こちらに向けられている、それこそこちらも見た事も無い金色と言う珍しい色の瞳に僕は目を奪われていた。
(いったい、彼女は?)
彼女から視線を逸らすことが出来ず、その場に僕は暫く固まっていたのだが、何故か彼女も僕を見つめたまま動こうとしない。
そうして暫くの時間が過ぎた時――
「お~い、響史~!待たせたな!」
不意に背後から聞こえた声に、僕は思わず後ろを振り返る。
するとそこには、こちらに小走りで近付いて来る暁斗お兄ちゃんの姿があった。
「あっ!お兄ちゃん!」
そう声を上げると、僕は急いで暁斗お兄ちゃんの下へと駆け寄る。
そして、その腕を引きながら慌てて先程の少女がいた方向へと視線を向け――
「あれ!?」
既に彼女の姿が何処にも無い事に気付いた。
「どうしたんだ?」
暫く、不思議そうに辺りへキョロキョロと視線を彷徨わせる僕に、暁斗お兄ちゃんは不思議そうな視線を向ける。
「ねえ、さっきあそこにいた子見た!?」
そう尋ねる僕に、暁斗お兄ちゃんは少し困ったような視線を向けながら「ボクは見てないかな。」と、少し申し訳無さそうに答えを返す。
「ええ~!確かにさっき――」
そう言葉に仕掛けたところで、僕は視線の先、その空の上に何か大きいものが浮かんでおり、その周りに細かい点が幾つも浮かんでいることに気付いた。
「なんだ、あれ?」
そう口にしたのは暁斗お兄ちゃんだった。
おそらく、飛び方が不自然なので飛行機やヘリコプターでは無いのだろう。
だからと言って鳥にしては大きすぎる。
姿がはっきりと見えない、これだけ遠くにいる状態で黒い影が見えているくらいだからかなりの大きさがあり、その周りの黒い点も決して小さいものでは無いはずだ。
「う~ん。なんか、こっちに近付いて来てる、のか?」
そう呟きながら1分ほど暁斗お兄ちゃんは目を細めながらそれらの物体に目を凝らし、やがてその表情が凍り付く。
「うそ・・・だろ?」
「え?」
問い掛ける僕に、暁斗お兄ちゃんは暫く硬直したまま近付いて来る何かに視線を向けたまま動かない。
「ねえ!いったい何なの!?」
再度尋ねても言葉を返さない暁斗お兄ちゃんに、僕は多少痺れを切らしながらその体をグイグイと揺さぶる。
すると、漸く正気に戻った暁斗お兄ちゃんは顔を青くしながら掠れた声で僕に告げる。
「逃げるぞ。」
「え!?」
「逃げるんだ!!」
突如叫んだ暁斗お兄ちゃんに、僕は戸惑いの表情を浮かべながら慌てて問い掛ける。
「ね、ねえ!いったい何なの!?」
「いいから!早く!!」
なおも焦りの表情を浮かべる暁斗お兄ちゃんに、僕は更に困惑を深めながらも強い口調で再度問う。
「だから!いったい何がこっちに来てるのか教えてよ!!」
「ドラゴンだ!ドラゴンの群れがこっちに向かってきてるんだよ!!」
その答えに、いったい何の冗談かと一瞬僕は疑問を抱くが、直ぐ後にその背後の影から放たれた火球で、少し離れた所の住宅地から火柱が上がった事で、決して暁斗お兄ちゃんが冗談を言ったわけでは無いのだと嫌でも理解させられる事になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます