第21話:揺さぶり

「余に娘があればよかったのだが、残念ながら子供は王太子のカミーユ一人だ。

 そこで王妃と相談していたのだが、バクルー王家のベアトリス第一王女が、ゴードン侯爵の婚約者には相応しいのではないかと考えたのだ。

 悪い話ではないと思うが、ゴードン侯爵はどう思うかな」


 私だけでなくリアナまで王宮に呼び出したから何事が起こったのかと思ったら、こういう方法でラゼル公爵家にゆさぶりをかけてきたか。

 いや、俺とリアナの兄妹愛を裂こうという事か。

 ゲームマスターなのか、それともこの世界の神なのかは分からないが、どうしてもリアナを殺すエンディングにしたいというのか。


 リアナがとても不安そうな表情をしている。

 仲のよかった兄弟姉妹が、結婚して家族を持ってから、金銭争いで憎しみ合う事がよくあるのは、前世の日本もこの世界も同じだからな。

 私に婚約者ができて、性格が変わる事を恐れているのだろう。

 だが私には、顔も知らない王女よりもリアナの方がはるかに大切だ。

 だが下手な断り方をすると、王と王妃の顔を潰すことになる。


「申し訳ありませんが、私には他国の継承権争いに加わる気はありません。

 ベアトリス第一王女殿下は、モーガン王太子殿下が誕生されるまでは王位継承権が一位で、取り巻きの貴族も多かったと聞いています。

 私の財力を当てにして、巻き返しを図ろうとしている可能性があります。

 ベアトリス第一王女殿下にモーガン王太子殿下と争う気がなくても、将来の権力がかかった貴族達が何をしでかすか分かりません。

 私はそのような争いに加わる気などありません」


 リアナがホッとした表情を浮かべています。

 もう少し俺の事を信じて欲しいと思ってしまう。

 他国の王位継承争いに加わるなど、家の浮沈にかかわる重大な事だ。

 いや、母国の王位継承争いだって同じだ、下手に敵味方を明らかにする事などできない、とても大切な事なのだ。

 ベアトリス王女が女王になった時に王配になれると浮かれ、国王の謀略に陥りるほど俺は馬鹿ではないよ、リアナ、もっと俺を信じなさい。


「随分とあっさりと断るな、上手く立ち回れば王配になれるかもしれないのだぞ。

 普通の貴族ならよだれを流して飛びついている所だ。

 何か情報でもつかんでいるのかな、ゴードン侯爵」


「情報など何も持っておりません、国王陛下。

 ただ王妃殿下の実家の争いを激しくするようなことがあれば、王妃殿下が哀しまれるかもしれないと思っただけでございます。

 この国に嫁がれて王妃になられたとはいえ、元はバクルー王家の御出身。

 姪と甥が争い、兄であられるフランキー国王が苦しまれるのは忍びないでしょう。

 また、下手をすればマライーニ王国がバクルー王家の争いに巻き込まれてしまい、内戦が始まり、それを好機と見た他国が侵略してくるかもしれません。

 ここは何もせず静観するのがよいかと思ったのです」


 さて、この返事にどうこたえる、国王、王妃。

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