第40話 三色後日談
そこは日本SWH本社ビルの社長室。見晴らしのいい窓ガラスをバックに、ヴィーナはオフィスチェアに座って落ち込んでいた。大桜ゆきひとの三番目の結婚相手である和宮萌香が、早々に結婚生活を打ち切ったことが理由だ。萌香の要望通りにお見合いの母親役に臨んだ。何がまずかったのか。
京都の話に戻ってしまうが、ヴィーナはゆきひとが萌香のメールを受け取った場面にいた。二人のプライバシーに配慮して内容は聞かなかったが、あのメールに原因が書いてあるという確信がヴィーナにはあった。ゆきひとから何か言ってくれることを期待していたが、男はよそよそしくして何も語らなかった。本当に何がまずかったのか心当たりがない。
このことを何時までも考えていたって仕方がない。
次の予定を決めなければならない。
二週間京都にいたこともあり仕事は山積み。悩んでいる時間は無い。
現在ゆきひとは東京ヒュージホテルに留まってもらっている。
ボディガードのクレイと世話役のセラは、休暇を打ち切る形で呼び戻した。二人の休暇時期はタイミング的に良かったが、エジプトでの襲撃があった為、本来であればボディガードは外せなかった。しかし下手に襲撃の件が広まるのもまずい。結果的に萌香のボディガード及び世話役を外す要望を呑んだ。そう萌香の要望は可能な限り応えたのだ。だからますます萌香の気持ちがわからないのだ。
気が付いたらまた悩んでいる。
ヴィーナは考えるのをやめてPCを起動した。
OSはWinkers100。PC画面に方向指示器が表示され点滅する。デスクトップ画面が開いた所でテレビ電話を起動。話す相手はギフティ・トルゲス。アメリカSWH代表取締役社長でヴィーナの上司であり妹でもある。
「ギフティ社長、お久しぶりです」
「久しぶりです。ヴィーナ社長」
テレビ電話に映るギフティの顔は冷めた表情で落ち着いている。
この姉妹のやりとりも三年近い。ヴィーナはもう慣れていた。
「これからゆきひとさんの待遇について、お聞きしたいのですが……」
一回目のメンズ・オークションに出品されたアメリカ人男性は、最初に選んだ女性とそのまま結婚。
二回目のメンズ・オークションは失敗に終わっている。
三回目の日本人男性は現状たらい回しの結婚生活だ。この方式に変えた理由は、二回目の失敗を補う為でもある。
様々な要素を考えるとヴィーナの独断で決めることは出来なかった。
「もう考えてあるわ」
ギフティのあっさりとした声。
「えっ、そうなんですか? 流石です」
「二回目のメンズ・オークションは失敗に終わりました。その中で結婚生活を送ってない二人に相手をしてもらいましょう」
「それってつまり……」
ヴィーナはギフティとのテレビ電話を終えてため息を吐いた。
そろそろ来る、別の妹が。
「冗談じゃない!」
ヴィーナから事情を聞いたソフィアは社長室に飛んで来た。
テレビ電話が終わってから数分後のことだ。
「私があの男と結婚生活とかありえないんだけどっ!」
第二回メンズ・オークションで入札者として参加したのは、アラブの女帝タンナーズ・ライオネルと、第三回メンズ・オークションで司会進行をこなしたパステル・パレット、そしてヴィーナの妹ソフィアだ。
ソフィアが乗り込んで来るのはヴィーナにとって想定内。第二回メンズ・オークションに(運営側なのに)出場したことにより、ネットで散々叩かれた。ただヴィーナはそれとは別に気になることがあった。そもそもソフィアは異性に興味があるのかということだ。ヴィーナはソフィアのセクシャリティを把握していなかった。
「もう決定しちゃったから仕方ないわよ」
「おねーちゃーん。ギフティに何とか言ってよー」
「貴女もギフティのお姉ちゃんなんだけど……取り敢えずパステルさんが先でいいかしら」
「いいんじゃない? ついでに私の期間もあげるから」
「そんなことは出来ないわよ。それより……」
ここは話題を変えよう。
ヴィーナは咄嗟に浮かんだことを口にした。
「過去に戻れるタイムマシンは完成するの?」
タイムマシンの生物利用は未だに過去から未来、現在から未来への一方通行。過去には戻せない。この時代に無理やり連れて来た男子達を過去に返す時が来るかもしれない。本人達の意志がどう転ぶかわからないが、どの道タイムマシンは必要になる。ヴィーナもソフィアと同じく科学者だったが、専門分野が違いタイムマシンのことには疎かった。
「……来年の春頃には完成するかな?」
歯切れが悪い。
ヴィーナは妹の表情に不安を覚えた。
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