淡いピンクにジェラシーを添えて

第41話 ファッションレズ再び

 長月の上旬。

 幕張メルシアで東京ゲームショウ(TGS)が開幕した。

 世界中のクリエイター、プレイヤー、eスポーツ選手が集まる「E3」「Gamescom」と並ぶ世界三大ゲームショウだ。

 新作ゲーム、ソーシャルゲーム、インディーズゲームなど展示は様々。巨大会場内はゲームに魅せられた人達の熱気で溢れている。

 その熱気の中にピンクのツインテールがトレードマークの元アイドルがいた。TGSは全四日あり、前半の二日間はビジネスデイ、後半の二日間が一般公開日となる。元アイドルのいた日は後半の一般公開日。彼女はコスプレイヤーのお姉さん二人にマイクを向けていた。


「とってもナイスバディですね! それって何のキャラですか?」


「私の爆死ガチャからは逃れられないわ!」


「キメ台詞ですかね」


「これはジョーウダン。光のジュッテンシュウのカッコデース」


「な、何ですか? ジュッテンシュウとか凄そうですね」


 光のジュッテンシュウのお姉さんは、ヘソ出しビキニ姿で弓をカメラに向けた。


「もう一人のお姉さんもジュッテンシュウなのかな?」


 光のジュッテンシュウのお姉さんの隣には、銃を担いだお姉さんが立っていた。


「私はジュッテンシュウではない。ライバルって所かな」


「そのキャラクターの好きな所は?」


「瞬間火力が高い所だ」


「な、なるほどー。お二人共ありがとうございましたー!」


 お姉さん達はカメラに向かってそれぞれの武器である弓と銃を持ちポーズをとった。この様子はネコネコ動画というクロネコがトレードマークの動画配信サービスで放映され、全世界の人達が中継で見れるようになっている。

 

 リポートを終えた元アイドルは、次のイベントステージに向かう為、場所移動をした。そのステージでは「ジュラシックバスター」というVRのハンティングゲームの番宣が行われる。

 元アイドルは過去にこのゲームのボイスやスーツアクターの仕事をしていた縁でステージにお呼ばれされていた。一度干された彼女にとっては、信じられないほど嬉しいオファーだった。第二回メンズ・オークションでの失態で、親しい人間の大半は離れていった。人間不信にもなった。でも親友と呼べる存在がいた事で腐らずに済んだ。捨てる神あれば拾う神あり。今回東京ゲームショウの仕事を貰えたのも、親友から説得されて第三回メンズ・オークションの司会進行を引き受けたのがきっかけだった。


「それではバディ役のパステル・パレットさん、どうぞ!」


 ジュラシックバスターのステージお姉さんに促され、元アイドルは観客の前に出て行った。


「こんにちはー! ジュラシックバスター五周年おめでとうございますー!」


「わーありがとうございます!」


 元アイドルとステージお姉さんは配信動画に流れるジュラシックバスター五周年のお祝いコメントを眺めた。


「凄いですねー皆さん遊んでく下さって」


「パステルさんはバスター歴どのくらいで?」


「ごめんなさい。クリアしてからはお休みしてまして……」


「今回五周年の大型アップデートがありますので、この機会に復帰してみてはどうでしょうか」


「はい、ぜひぜひ」


 元アイドルはハイテンションでステージに臨んだ。ジュラシックバスターのゲスト出演に向けて、ゲームの予習もこなし予備知識も必要最低限調べた。だから不安はない……はずだった。


 『ファッションレズ再び』


 このフレーズがステージバックのスクリーンに流れた。それは元アイドルの視界にも入った。流れた文字はネコネコ動画の書き込みと連動している。やはり三年半前の第二回メンズオークションの事は忘れられてはいない。元アイドルの脳裏から『ファッションレズ再び』という言葉が離れなくなった。どうしても思い出してしまうのだ……あの苦い過去を。

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