第31話 ゴールデンカジノクイーン

「ゆきひと、待っておったぞ」

 

 そう言ってタンナーズは立ち上がった。

 黒服のアバヤに金色の装飾、体格も相まって迫力がある。ゆきひとは重圧感のある施設を眺めながらタンナーズのもとに行き挨拶。タンナーズはそのままゆきひとを抱きしめた。男の顔面は巨大バルーンに挟まれる。


「く、くるしい」


 豊満な胸に挟まれる経験など無い男。アニメで見るような展開に戸惑いを隠せない。本来であれば嬉しさと幸せが満ち溢れる所なのだろうが、タンナーズの力が強すぎて苦しさが勝っていた。水面から顔を出すかの如く豊満な胸から「ぷはぁっ」と脱出したゆきひとは、取り敢えず感謝の言葉を述べた。

 

 ゆきひとは専用の寝室に案内され、そこで一夜を過ごすことに。ここからクレイとセラとは別行動になる。ボディガード無しでもこの摩天楼内は安全だろうという自信がタンナーズにはあった。


 次の日、ゆきひととタンナーズはカジノにいた。

 まずはポーカー。トランプを使うゲームジャンルで、様々なビデオゲームやソーシャルゲームで採用されていた為、ゆきひとにも知恵があった。同じ数字が三つのスリーカード。同じ数字が二セットのツーペア。五枚のスート(トランプに書かれたマーク)が全て同じのフラッシュなど、ゆきひとは次々と当てていく。勝負事に勝てると人間夢中になるもので、一時間、二時間と瞬く間に時間が過ぎていった。そんな時を忘れたゆきひとの傍にいるタンナーズとディーラーは目配せをしていた。このポーカーはある程度ゆきひとが勝てるように仕組まれていたのだ。

 ポーカーに続いて、スロット、ルーレット、そしてダーツ。

 タンナーズの投げる手投げ矢は、円形のダーツボードの中心に何度も刺さった。動体視力の高さが伺える。矢が刺さる度に周りの上客達から拍手が沸き起った。

 ディーラー、バニーガール、警備員までが、タンナーズに拍手喝采を送る。

 そう、彼女はこの摩天楼におけるカジノのクイーンなのだ。


 ゆきひとは一日中カジノを楽しんだ。次の日も、そして次の日も。普通の人生では味わえないような経験に熱中して、時間は勿論のこと、悩みや結婚生活なども忘れていた。楽しい、とても楽しい。

 ヴィーナから貰った黒いサングラスをかけ、近くで購入した棒付きの飴ちゃんを口に銜え、スロットマシーンを何度も何度もガチャガチャ回した。いくらコインを使おうが全てタンナーズ持ちだ。金銭面を気にせずにカジノを遊べるという幸福感は男の金銭感覚を狂わせた。

 だが、ゆきひとはふと冷静になる。


「このままだと俺、スロット中毒になっちゃうっ!」


 昼間からパチンコに興じている親父達とやっていることが変わらない。つい台パンしてしまい、スロットマシーンの叩いた箇所をスリスリと撫でる。このままではダメだ。完全にカジノの魔力に取り込まれている。

 どのぐらい日数が経ったのかとスマホを見ると七月に突入していた。

 急に体がむずむずしてくる。体中の筋肉が疼く。思えば筋トレをここ数か月間していない。勿論オフで筋トレを休む期間を作る時もあるが、基本毎日しているゆきひとにとって、筋トレを長期間休むのは気持ち悪い状況であった。


 ゆきひとはタンナーズを探す。

 タンナーズはビリヤードを楽しんでいた。台に腰かけ足を組みながらキュー(長い棒状の道具)を放つ。白の手玉を突き、カラーボールを四方八方に弾かせ全てポケットに放り込む。手慣れている。


「タンナーズさん、相談なんですが……」


「何じゃ?」


「俺、見た目だけじゃなくて戦える筋肉がほしいです。実践経験を積めるとか何とか言ってた気がするんですけど」


「良いぞ」


 ゆきひとの要望は二つ返事で決まった。

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