第10話 アンドロイドファッションショー

 軽快な音楽が鳴り響きスポットライトが彼方此方を照らしていく。更に色とりどりのカラーボールが彩りに加わる。

 今回メンズ・オークションの三人の入札者が使う通路が、男性型アンドロイドのランウェイとして使われた。皆王子のようなイケメンで長身。出品される日本人男性はワイルドな肉体派で、キャラが被らないように配慮がされた。アンドロイドの歩行や表情は自然で生きている人間と殆ど区別がつかない。男性型アンドロイドが笑顔を振りまくと艶やかな声援が沸き上がる。女性達は夢中になりながらイベントを楽しんでいた。


 ランウェイを歩き終えた男性型アンドロイド達が、中央ステージに十体ずつ出品される。アンドロイドのオークションイベントだ。計三十体のラインナップ。一体一体アンドロイドが紹介されて、当のアンドロイド達はポーズを取るなり手を振るなり観客にアピールしていた。


 観客は欲しいアンドロイドがいた場合、スマホに金額を打ち込み送信する。金額がつり上がる様子はスクリーンに表示され、落札される度に入札者の名前と金額が映し出さた。会場は熱気で溢れ、パステルの司会進行は何時の間にか自然なものになっていた。


「今から二時間の休憩に入ります! 午後四時から後半の部がスタートです! 三十分前には戻る準備をして下さい。お姉さんとの約束だぞ!」


 パステルの声にテンションの上がっている女性達は「はーい!」と返す。前半の仕事を終えたパステルはスカイパージから関係者用バルコニーに飛び降り、額から流れる汗を腕で拭って一息ついた。


 東京サークルドームのファーストフード店内。ベーシックな色合いのテーブルや椅子が並び、窓からの日差しが観葉植物に降り注いでいる。溌剌とした女性店員のオーダーを読み上げる声が響き、カウンターで談笑を楽しむ淑女達や可憐な少女達の賑わいで活気が溢れていた。

 テーブル席に向かい合い座っているパステルとソフィアも談笑を楽しむ女性達の中の一組。チーズがとろけるハンバーガーとカリカリに揚げられたポテトがテーブルに並んでいた。


「ねぇソフィア。お昼付き合ってくれるのは嬉しいけど、他の姉妹とはいいの?」


「だってお姉ちゃん忙しいみたいだし」


「妹とはどうなの?」


「仕事以外で顔合わせるのはちょっと……。ママと食事してるんじゃないかな」


「え、会長も来てるんだ。すごいわよねー未だにあの容姿を保ってるんだもん。とても四十代とは思えないわー」


「ママの前で年齢の話は禁句だからね! 一応永遠の十七歳で通してるんだから」


「わかってるわよそんなこと」


 冗談を言うように笑うパステル。


「でさでさ、今度のメンズはどうなのよ」


 パステルの言葉を受け、ソフィアはキョロキョロと周囲を見た。視線を感じた気がしたのだ。出品される男性が二十代の日本人であること以外は伏せられている。パステルが司会進行役とはいえ、出品前に詳しいことを口外はできない。


「かっこいいんじゃないかな。私は嫌いだけど」


「ははーん。ヴィーナお姉ちゃんを取られそうになったのかな。ソフィアはお姉ちゃん大好きだもんね」


「その話はやめて。怒るよ?」


「ごめんごめん、機嫌悪かったのね」


「別にそんなんじゃないわよ」


「でも大丈夫なのよね? 今回ダメだったら私終わるんだけど」


「安心して。何が何でも成功させるから」


「そっかー。まあそうよね。大好きなお姉ちゃんの進退がかかってるものね」


 ニコニコ笑いながら話すパステルに、作り笑いで微笑むソフィア。


「それよりパステル。このイベントが終わったらカラオケ行こうよ」


「いいねいいね。行こう行こう」


 パステルとソフィアはイベント開始前の不安を忘れて食事を楽しんだ。テーブル下の彼女達の健康的で健やかな足は触れ合い絡ませ遊んでいた。

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