第6話 世話役の美少女
ゆきひとはクレイの後をついて行く。神々しいエレベーターの前で立ち止まる二人。ドアが開いて乗り込んでから数十秒後に十五階で止まる。二人が降りたフロアはインペリアルフロア。入口に受付カウンターがあり奥に宿泊者専用ゲートがある。クレイがゲート前に立つと透明なゲートが開く。顔認証があるみたいだ。
二人はゲートを通過する。そこは一歩踏み入れるのも躊躇しそうな重厚感のある赤い絨毯の続く通路に、まっさらなクリーム色の側壁で挟まれる形で構築されており、一般人とは縁もゆかりもない空気感を漂わせていた。そんな空間にゆきひとは落ち着かない。
クレイの進む先に一人の少女が立っていた。日に焼けた肌に白いワンピースがよく映え、風が吹いていないのにブラウンの長髪がなびいているように感じるほどの独特な雰囲気を携えていた。
「セラ、この男に部屋の案内を頼む」
「姉様、了解です」
セラはゆきひとの様子をまじまじと見る。
ゆきひとはキョトンとした。
「初めまして。私の名前はセラと言います。これから私達姉妹とは長い付き合いになると思います。よろしくお願い致します」
「長い付き合い……とは?」
「ゆきひとさんが結婚された後も、姉はボディーガードを、私は身の回りの世話を致します」
「……はぁ、結婚かぁ」
「まぁ乗り気ではないですよね……。無理やり連れてこられた訳ですし」
「でもこのイベント、成功させないといけないんだろ?」
「はい。できれば」
セラは小さく微笑む。
「楽しみにされいる方は大勢いらっしゃると思いますよ。……姉はこのような堅物ですが根はとても温厚な人なのでご容赦下さいね」
「コラ」
そう言いながらもクレイは笑っていた。
ゆきひとはクレイの笑顔をまじまじと見る。するとクレイの表情はものの数秒で元に戻り、何かを思い出したような表情を見せた。
「そうだゆきひと。貴殿はメンズ・オークションのメインステージにて特技を披露しなければならない」
「ヴィーナさんも言ってたな」
「何かあるだろう」
「ステージで俺の野生を披露する」
「意味がわからないが」
「あ……ボディビルのようにステージでポージングを披露するって意味です」
「なるほど。そう運営には伝えておこう」
クレイは耳に手を当てる。きらりと黄緑のイヤリングが光って見えた。
ナノマシン通話で運営に連絡しているようだ。
「ゆきひとさん。お部屋ご案内しますね」
クレイに注目していたゆきひとに声をかけるセラ。
案内されたその先は上質な空間が広がっていた。ゆきひとはモダンなインテリアの数々を見て回る。人を誘うかのように佇むリクライニングソファ。高級感のあるカップボード。加えてティーセットやミネラルウォーターもある。そして奥には倒れ込んだら深い眠りに落ちてしまいそうな巨大な白いベットがどっしりと構えていた。ゆきひとは今まで得た情報を全て信じた訳ではなかったが、自分がVIP待遇を受けているのは理解できた。
「ゆきひとさん。お腹は空いていませんか?」
「空いていない訳じゃないが……」
ベスト・ワイルド・ジャパンの大会前だった為、食事制限していたゆきひと。今何かを口に入れる気分にはなれなかった。取り敢えずサングラスを外して執事用のデスクに置いた。
「冷蔵庫に飲み物はありますので、気が向いたら其方もご利用下さい」
何事にも丁寧な説明をするセラ。だが、ゆきひとにとって一回りも年下だと思われる少女と二人きりで同室にいるのは気まずかった。
「セラちゃんは幾つ?」
レディに年齢を聞くのはまずいと思いながらもつい口に出してしまう。
「十四歳です」
「何でその歳で働こうだなんて」
「私は今まで自分の国、家から出たことがなかったんです。世界中を回って仕事をしているクレイ姉様が羨ましくて……。姉には猛反対されましたね」
確かに野獣のような男と可憐な少女を同室に二人きりとは正気の沙汰ではない。ゆきひとは考え込む内に「首が飛ぶと思ってほしい」と言われたのを思い出す。じんわりと冷や汗が流れた。
「これは秘密ですが今回姉のコネを使ってお世話係を出来ることになったんです」
「君のお姉さんってそんな凄い人なの?」
「姉が凄いと言うより関わっている人が凄いんです。例えばフランスの皇室の王……女とか。でもまぁ姉も凄いということになりますか」
「へぇ」
「それではシャワーとか浴びられたら」
「その前に、筋トレがしたいな。体がかったるくって」
ゆきひとは肩と腕を回す。
「あの、アレやりたいですアレ! 腹筋する時に足抑える奴!」
「手伝ってくれるなら頼んます」
ゆきひとは周りの家具にぶつからないよう腹筋を始めた。セラはゆきひとの足首を押さえる。男の足首は少女にとって太く、セラは滑って手が外れないように力を入れた。次にゆきひとは態勢を変えて腕立て伏せ。セラはゆきひとの広い背中に座る。ゆきひとは難なく腕立て伏せをこなした。
「やっぱり男性の体は凄いですね」
「お褒めに預かり光栄です。姫君」
和やかなムードで二人は完全に打ち解けていた。
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