赤い幸せ屋

青井かいか

無題

〝魔法〟を夢見る少年がいた。


 少年はいじめられていた。

 魔術の才が無く、頭が悪く、環境と運に恵まれなかった。

 周囲は少年を蔑む。

 魔術の才がないくせに、思い上がるその少年を。

 魔術の才がないくせに、あり得もしない魔法を夢見る愚かな少年を。

 魔術の才がないくせに、努力をやめない鼻に付く少年を。

 それでも少年は魔法を夢見た。

 その昔、御伽噺で読んだ魔法使いの話。

 彼が魔法を唱えると、世界が変わった。

 彼が魔法を唱えると、邪魔者は消えた。

 彼が魔法を唱えると、全ては思い通りだ。

 その世界で、魔法は絶対であり、彼は絶対だった。

 魔法さえあればいい。

 魔法さえあれば、少年は誰にもいじめられない。

 魔法さえあれば、誰も少年には逆らえない。

 魔法さえあれば、全ては少年の思い通りだ。

 少年は魔法を夢見た。

 やがて少年じゃなくなっても、いじめられなくなっても、魔術の才があると認められても、その夢を見続けた。

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