サムライ・リメイク

芦林

第1話



青い光と煌めく白銀の髪、その美しさとは正反対な鉄塊と呼ぶべき両手剣と血に染ったワンピース。

「少年よ」

少女は問う、己が何故呼ばれたのか。

「何を殺せばいい」

その存在理由を



夢があった。ちっぽけで身に余る夢があった。

夢を叶える術はなく。夢を叶えた者は皆死んだ。

受け継がれた物は武勇と異質な魂のみ。

それでも僕は━━━━━━━━━━━━━。

手を伸ばした途端意識は現実へと引き戻された。

目の前には完成することの無いレポートと一冊の小説。

「……。」

積み上がった写本に切り取られた朝日が部屋を照らす。時計は午前六時を指し示し、カレンダーには今日という日に赤い丸が付いていた。

「…終わったな」



国立魔道士育成学校

近隣諸国が戦争に溺れ、我が国も軍人の再育成を始めた。

様々な兵器の開発の最中うちの国の偉い人が言った。

「鉄もったいなくね?」

その一言で軍人は頭をコツンと叩き、急遽魔法兵の育成の為魔道士学校の建設を始めた。

兵器が未来を探る学問ならば、魔法は過去を探る学問。

━━と、魔道士が偉い人に助言したところ、この学校には神話、伝承、秘匿実験、魔法に繋がりそうなものをバンバン集められた。門外不出と言われた記録も国家権力にものを言わせ、誇りやら努力やらを無視した結果、その莫大な情報を求める魔道士貴族が自らの子供に必ず入れ、と口酸っぱく言い続けるような、一流の魔道士になるならここが登竜門だと言われるような学校になっていた。

かく言う僕もそれらの資料を目的に入学した魔道士である。いや、「おそらく」魔道士である。

「よぉ、能無し」

校舎を前にして僕の尻に何かが当たった。

振り向いた僕に、その足を踏む彼。

「おはよう」

「おはようございます、だろ?能無し」

彼はブルーノと言った。魔道士の名家の息子なんだそうだ。

「俺は二年、お前は一年、先輩には相応の態度を取らねぇとなぁ」

「はは、同い歳じゃないか」

「『同い歳』だからこそだろ」

彼は優秀な生徒だ。文武両道、されど性格に難あり。

彼が飛び級したんじゃない。僕が落第したのだ。

「そういえば、今日だったか?実技のテストは」

僕の表情を見て彼は大層嬉しそうだ。

「うん、進級できるかわかんないけどね」

焦りを飲み込み笑みを浮かべる。彼が僕を煽るのはこれが最初じゃない。こうするのが一番早く終わるのだ。


━━━━━━━━━━━━━━━


魔道士の家系でなく、経験を積めず、紙に書かれた物は御伽噺のようで、それでも諦めきれないと足掻き続けた。

その集大成は水銀と血液を混ぜた魔法陣、「夢」の記録とその者の存在証明を書き連ねたレポートを触媒にした魔法の使えぬ僕が作り上げた召喚魔法であった。

言霊を告げ、忠誠を誓い、願いを込めた。

レポートは燃え、紙吹雪のように舞う。

━━━━━━ああ、これが、これが魔法というものか。

真っ暗な研究室は青い光に包まれた。


風が巻き起こり少女の長い髪が靡く。

己の体より大きい剣を背負いながら、少年の夢とは程遠い乙女と呼ぶべき華奢な体をしていた。

少女は問う

『少年よ。私は何を殺せば良い』



━━━━━━━━━━━━━━━


昼食前の昼下がり、私は少年に手を引かれ、大きな競技場へと連れられた。

十数人の少年少女と教師が一人。彼らは教師の合図と共に魔法を放ち石人形を砕いてゆく。

近づく者どころか一歩も踏み出さぬ者ばかりだった。

そんな中、私を呼び出した少年は木刀を振るっていた。

腰は引けて、急所を見つめ、目線の先に木刀を振るう。

近づいては殴り飛ばされ、殴られ殴られ殴られ。少年は体を震わせ何度も立ち上がった。

立ち上がる度、殴れる度、どこからともなく嘲笑が巻き起こる。

『夢があるんだ』

嗤(わら)われる少年は私にわかる言葉でそう言った。

『強くてかっこいい。僕らには狂人にさえ思えるけれど』

読み古された小説を抱きしめ夢を語る。

『矜恃と忠誠を身にまとった、人間の極地と呼ぶべき種族』

旅立つ鳥のように目を輝かせ夢を語る。

『僕はなりたいんだサムライに』

夢を諦めきれない、少年はそう言った。


『私、なりたいんだ』

通るはずのない刃、身を結ばぬ努力


叶うはずのない夢。


『━━━━━━━━━━』

旅立つ前、少女は笑顔でそう告げた。


少年は手を伸ばす。地に伏す木刀へ、辿り着きたい未来へ。

しかし、手が届く寸刻前、木刀は私が拾い上げてしまった。

『なぁ少年。痛いか』

当たり前の事を問いたくなった。当然少年は頷いた。

『嗤われるのはつらいか』

今はただ、否定したかった。

『それでも、まだ刀を取るか』

夢を諦めた少女を。

まだ目の前の光に怯える少女を。

『うん』

少年の目は未だ輝いていた。



少女は駆ける。そして木刀はゴーレムを軽々とすくい上げ、鉄塊を背負いながら跳躍、いいや、飛翔した。白銀の髪を翼のように広げ、天に昇る姿はさながら天使のようだった。

天空の一振は岩塊を粉砕し、砂埃が降り注いだ。

『これがお前の目指すモノだ。えものを取れば全てを切り捨てる』

砂塵の幕の中少女は問う。

自分を何故呼んだのか。

『夢を語るならば刀を取るがいい。さすれば道を示してやる』

その存在理由を。

『名をなんという』

『アドネ、アドネ・ベリオ』


『ではアドネ、お前を主とし、同時に弟子としよう。私はセルリア、今は無きモノノフの魂を継ぐ者だ』





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