魔女の子

グレー

第1話 捨て子



人は死ぬと、誰もが知っていた。死なない生物などいないと、それ故に不死を望む者がいた。

しかし、あるときからその考えは大きく変わった。不死性を持つ者が現れた。いや、そのように変化したのだ。

その者達は火や水、あるときは動物も操る。人々はその者達の存在を恐れ、魔に取り付かれ、従うものとして、「魔徒」と呼び、その中でも強力な存在を魔女や魔人と呼び、さらに恐れた。

魔素というものを体の細胞に取り込まれることで身の回りのものからエネルギーを吸収して、魔術を行使したり、不死性を保つという。





私は人間が嫌いだ。力を持ってるだけで追い回され、迫害され、疎まれる。しかも勝手に二つ名までつけられて指名手配される始末。弱いくせに勝手がすぎる。

15の時に大量にて魔素を取り込んでから私の生き方が大きく変わった。

親に捨てられ、貧民街で暮らし、そんな生活が嫌で、がむしゃらに走って偶然森に迷い込んで魔素を取り込んだ。それから20年、不死性はもちろん、自然や動物達に力を貸してもらう事も、物質を変換することもすぐにできた。他の魔徒に話を聞けば、それは相当すごいことだそうだ。

そんな感じでさらに約80年過ごして、たまに人間と戦って、そうやって暮らしていたら魔女と呼ばれていた。

人間との戦いで動物達に手を貸してもらう私は、終わった後には死んだ子達を思って泣いていた。戦いの中で戦意を無くした奴らは見逃すようにしていた私は、いつの間にか二つ名が付けられていた。癪だが、通りもいいのでいまはそれを名乗っている。

{涙の魔女}リア

それが私の名前だ。


いつも通りの朝、家の窓を動物達が叩いて起こしてくれる。

私は森の中で動物達と暮らしている。森の植物や、動物達の食料を分けてもらって生活している。たまに魔術を使って植物を育てたり、すこし遠くの森で狩りをしていた。

生活に困ることはあまりなかった。魔徒になったばかりはさすがに生活に困ったが、とある魔人にお世話にになったおかげで魔術の実力も上がり、数年で一人で生きていけるようになった。

今では、獣魔術を主に使い、動物達と意思疎通しながら共存している。家具などの物を造るのは変質魔術、料理などで水や火を使う時は自然魔術を使っている。


私たち魔徒に使うことが許された魔術は三つある。

獣魔術 自然界に生きる動物達と意思疎通を計ったり、強力な獣魔術を使える者は操ることもできるそうだ。

変質魔術 物質を変換させ、全くの別物に変換させる。強力なものだと生物ですら別のモノへと変化させる。しかし、それには対象の性質を完全に理解していたり、生物の場合は臓器の一つ一つまで一度に変換させないといけないので、とても労力がかかる。

自然魔術 名前の通り、「自然にあるもの」を生成する。火や水、雷、土や風、上達すれば、温度や光まで操れるという。

ただし、これらの魔術は本人の素質や実力に左右されたり、体内にある魔素の量にもよるため、魔徒内や、魔人と魔女の中でも優劣は激しい。

けれど、魔徒の大抵が人間と反発しているためか、魔徒同士での抗争は少ない。その中でも魔徒同士の抗争はあるにはあるらしい。テリトリーや、使う魔術の系統、狂気的な思想を持つ魔女もいるそうだ。


家は自然魔術と変質魔術を使ってウッドデッキの様にしている。起きる頃には家の周りに動物達が集まってじゃれていたり毛繕いをしている。

「おはよ、みんな」

目を擦りながらドアの外に出て挨拶をかける。みんなはそれぞれの鳴き声で応じてくれる。大体がおはよう、と声をかけているが二匹ほど、が聞こえた。

「ん?みんな一回静かにして。そこの二匹ふたり、どうしたの?」

自由に話すみんなを静かにさせ、話していた二匹に声をかける。

どうやら、人間が私のテリトリーに入ってきたらしい。たまにあるから、注意して終わりだろう。

「わかった、行ってくるからみんなでここにいて。危険かもしれないから」

話してくれた子に案内してもらって、近くまで向かう。

「もういいよ、戻ってな」

そう言って二匹とも帰すと、茂みの奥に人影が見えた。

「・・・あれは・・・子供?!なんで?」

そこにいたのは6才くらいの男の子だった。

「とりあえず、近くの町を教えて帰すか・・・」


「あの~?君?ここは危ないよ・・・?」

言ってて気付いた。この子は私と同じ、親に捨てられた子供だ。汚れた布切れを纏い、白い髪と細い体。そして睨みつけて来る青い目。

「オマエ、ダレダ」

こちらに向き合って片言で話す少年には、明らかな敵意が感じられた。

「・・・私は魔女よ。{涙の魔女}リア。近くの町から逃げて来たなら名前くらい知ってるはずだけど」

少年は一拍おいてこちらに向き合う。

「キイタコト、ハ、アル。・・・ケレド、ヨクシラナイ。オマエ、オレ、コロス・・・?」

家がなくても名前は知れ渡ってるか。それにしてもすぐコロスって聞いてくるとは、あの町も殺伐としてきたな・・・。

「殺さないわよ。いいから早く町に戻りなさい、動物達に送らせるから」

そう言って頭の中で動物達に呼びかける。すぐに茂みが揺れ、狼が二匹顔を出す。この子なら何かされても大丈夫だろう。

「・・・イヤダ」

ところが、少年は狼達が近づくとその子は町に帰るのを拒否してきた。

「マチ、イバショ、ナイ。カエル、トコロ、ドコニモナイ」

少年はどこか悔しそうに俯いたままそう言って手を握りしめていた。

・・・なるほど、やっぱり町の浮浪者の類か。どうするか、帰すにしても状況が悪いから逃げて来たんだろうし。

「・・・仕方ない。君、うちでよかったら引き取ってあげる。家事とかしてもらうけど、それでいいなら付いておいで」

家政婦とでも思っておけば邪魔にはならないだろう。わざわざこの子を無理に帰す必要も無いし、なによりこのままだと昔の自分と重なっていて放っておけない。

「!アリガトウ・・・!」

・・・笑った。昔の自分には有り得なかったことだな。





これが、涙の魔女と後の救済の魔人の出会いである。

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