第12話 裏切りの双曲線
「ちぃっ!またかよ、わしの体格じゃあ・・あの鳥忍者スーツなんて入らんし・・体型が似合わんのだがなぁ~。」
頭を抱えてちょっとイラつく様は全くらしくは無かったが、大恩ある知人の勧めでもあり何よりも身の寄せ処としてはこれ以上は申し分ないとは思える。
しかし、つい数日前までは
正直言って気が引けると・・考えなくもないな。
しかし、HE-MAN と実際に会って戦った事で気心も知れて来たあの生意気坊主。あいつに植え付けられた・・孫悟空の頭の輪っかの名前から付けた。
『緊箍児(きんこじ)』細胞を己の体内で増やされてからは特に不自由も無く、(無任所快人だったので規則がそれほどうるさくは無かったが、)それまで以上にさらに自由に考えたり行動したり出来るようになっていた。
だからだとは言えど・・態度を変えすぎるのも何か?と思って・・。
ワシらに何かやれるもんならやってみろってんだ!とひとりで息まいた。
(とはいえ、HE-MAN を裏切る事なぞは考えたくもないし・・先の『緊箍児(きんこじ)』細胞と名付けた細胞がわしの体内にあるせいで実際にHE-MAN を裏切るような行動を取れば全身に激痛が走るだろうと言う事が行動しなくてもわかった。)
その半面、DQN帝国の裏切り防止機構も同様に機能をしなくなっているのでひと安心。
つまりあたまと股間がいきなり破裂して死ぬハメにはならないという事なので大いに安堵し更に気が大きくなった。
そこへ着替えから明るく戻った【
(引きこもりの時の雰囲気や面影はもはや微塵もない。もうコードネームではない人間の少女としての別の名前がいるか?と考えた。)
それに汚辱にまみれた記憶の存在する、生前の名は出来れば使いたくはないだろう事も・・。
「ぱぱ、見てッ!トリさん忍者・きにー・・だよ!似合う?」
とカラス(色からすると白鳥?)の翼状マントを可愛くひるがえして見せた。
その下はミニスカでマントもスーツもそれはごく薄いイエローがかったホワイトだったが普段のキニーの肌色や雰囲気になじみ、新しいジュニア・アイドルのメンバーなのかと見間違うほど愛らしく素敵なデザインの服装と仕草だった。
まだ細く白い太ももがむすめのものだというのにイヤに眩しく見えてしまってドギマギした。
【ステテコ親父】こと元大阪府警警部補・椎名 陸造だった男は諦めたようにため息をついた。
とりあえずは、このむすめの身の安全の為にも烏忍者用移動基地の「きゃりべぇⅡ」に住み着くことにするかと腹をくくるのであった・・。
そうすることでワシとキニーふたりが別々に収容される事は無くなり、この移動基地でDQNの殲滅活動を継続する限りはすぐには解剖される事はないだろうし・・活動しながら根回ししてゆけば一応はアンチに対する防壁にもなってはくれるだろう。
結果的には万々歳!ってところだろうか・・、ただ懸念としては本来ワシとキニーは死人だということだけだ。
それに、ワシは以前の人脈と道場の繋がりがあるのでかまわんが、キニーには国家権力で戸籍を新たに作ってやらんといかんな。
あと最後は、3人目のカラス忍者の人選。もう一人の最後の
―先日―
満は慣れた身体で超高速移動しながら奴から彼へと名前と信頼度を変えた脳内双子に軽く告げた。
「近くで坂巻のオッサンたちが大ピンチのようだ。A I メットの通信傍受でわかった。」
(いや、もう遅いかもな・・。オッサンの生命反応が弱い。)
「!?・・ちぃっ!ボクのミスだ。助けられそうか?」
(まて、脳波センサーで計測中だ。坂巻の身体をかっさらって【ステテコ親父】の旧ベースを借りよう。)
「了解。」
満は今できるトップ・スピードまで加速して、行きがけの駄賃とばかりに【赤シングレット】を次に【黒シングレット】のふたりの首をダンベル・バーベルの得物ごと以前の技に『風鈴剣』の切れ味を加えた。
『ベノム・シャープスラッシュ!』
で切り飛ばして復活しないように頭を割っておく。
さらに、Hi-ps 細胞の能力を解析されないように細胞自爆発火能力を作動させておいた。
どむっ! ぼぐっ! ごうぅ~っ!パチパチパチ!
またたくまにバラバラになった頭蓋部分が炭の粉に変わる。
【赤シングレット】【黒シングレット】ふたりの周囲にいた者でも何が起こったかとらえきれずに、突然の死に恐怖もあらわにあたりを何度もみてキョドるだけだった。
DQNの徴発部隊だけにコマンダークラスは居なかったが、一人前のDQNer《ドキュナー》として特徴的な特技・能力を持っている。
【赤シングレット】【黒シングレット】ならば、ダンベルやバーベルを自在に扱う能力を持っていた。
先の【ステテコ親父】ならばアシュトレー(灰皿)、【金ジャラ】は銀色の金属バット。
【ミミィ】は攻撃手段としてでは無く自衛方法として(アイアン・)クローを使っていた。
ちなみに【
回復に特化していて、攻撃手段を持つというよりも敵から攻撃を
受けないようにする方向にチューンされているようで、リアル・
スカウター兼センサー類でもあるので、気配を消す「隠形」系能力と避ける為の身の軽さ「体術」をさらに磨きあげるため、武術の達人である【ステテコ親父】に習っている様だ。
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
シュー シュー シュー
警察病院内V I Pルームエリアの特別ICUからの出来事のやり直しの様で、さながらデジャヴと言えそうなほどだった。
京都府警の警察官で元 N-SAT隊第2班 リーダーだった坂巻巡査長が再び、センサー、心肺装置、輸液チューブなどに繋がれており
またまたベッドの虜囚のようになっていたからだ。
ベッドサイドには
しかし、ここは小学校内の【ステテコ親父】に聞いていたDQN達の隠しアジト内だ。
警察病院内とは違う、やや見慣れない型の器具や装置がやはり警察・自衛隊や現代一般社会よりも先進の科学技術を持っていると思えた。
だが、瀕死のオッサンにはそれだけではたりずに満は彼と一緒にHi-ps 細胞を植え付けて再生を促すように働かせた。
満はHE-MANの姿のままでオッサンの彼女?奥さん?と対応していて、身元を隠すために解除しなかった。
「あなたが、HE-MAN?うわさの・・いえ、渦中の男というよりもまだ未成年でしょう・・あの人をどうするの?」
「なんで皆、身長だけで未成年って決めつけるんだ?」
小声でぶつくさ言うボクに・・。
(なに~!チ〇長~?そりゃお前、「やっちまったな!」)
「笑えねぇ・・。」沈黙の5秒間。
(・・悪かったよ・・。)
「そんなにイラつかなくっても良いよ、坂巻のオッサンには世話んなってるからね、いま死なれるといろいろと困るし。」
と気さくに話しかけるようにしながら、アジト内の医療器具の微調整に入った。
「あ・・。」
久しぶりに覚えのない過去のビジョンの片鱗を見た気がした。
微調整の先生はA I と彼なんだけど・・なぜかこの機械の構造・性能をボクが知ってた。
ただし、デザインの細部は微妙に違ったが・・。
そして、再生機のセッティングついでに坂巻のオッサンにHi-ps 細胞を【ステテコ親父】の例も有るから保険として植え付けたんだ。
彼のアドバイスだがオッサンのやられようがヒドイらしくて、DQNの再生機だけじゃ五分五分で確実性に欠けるってんでボクの中のHi-ps 細胞を使って助けないとって考えたのもあってさ・・オッサンを連れては来たんだけど、
いや、どうして追って来られたか分からない。
A I センサーにも脳波センサーにも怪しい物はかからなかった。
「!?誰・・。」
HE-MANの殺気が膨れ上がったが、女は白のズタズタの
超加速しているHE-MANのスピードにすごく遅れながらもギリギリで見失わずについて来ていたのは本当に驚きだった。
「それは、こっちが知りたいわ。あたしの主人をすぐに返してくれる?ハァハァハァハァ!」
彼女もキズを負っているのか息づかいも荒く今にも倒れそうだった。
「いま返したら、死ぬけどいい?」
ボクはつっけんどんに突き放すように言った。オッサンには少しのかかわりが有るけど、おんなの事まで面倒見切れない。
「騙されないわよ・・その機械、再生装置ね。」
さりげなく指さす彼女。
「知ってるなら話は早いけど、ボクとA I の予測ではパワー不足のはずなんだ。・・で、ほっとけば彼は死ぬ。」
ボクは彼女にわざと隙を見せて機械を操作していた。A I に聞いた分かりやすい説明を入れて使い方をおんなにも教えこんでいきながらの操作だった。
「あんたをムダに恐れさせないためとオッサンを見ててもらう為だよ。あんたは・・一応はオッサンの大事な人だと思うからね。」
おんなは分かったのか、思い違いしたのか・・。ボロを引き寄せるとそんな物でどうにか出来るとでも思うのか刀をとりだした。
切っ先は折れて、刃はこぼれおちてとても業物とは言えないモノ
になり果てていた。
とはいえ、拵えを見ると元は余程のお宝に近い名刀だったと思えた。
刃を一応ボクに向けてはいるが・・本当に『一応』の用心の為の様だったようだ。
(俺たちにゃあ意味ねぇけど・・おいっ見ろっ!)彼が刀の一部にズームで注意を寄せさせると刀身の背に『理』のひと文字があった。
ピーーッ
「解析終了・頭部解析!」
ピ!「頭蓋骨骨折」ピ!「脳挫傷」ピ!「硬膜下・クモ膜下出血」ピ!「動脈裂傷・出血」ピ!「軟膜破裂」「その他・・。」
ピー!「腕部」ピ!「粉砕骨折」ピ!「腕部圧搾切断」ピ!「失血」・・・・
「総合再生・総合強化・・61時間、74%」
機械のアナライザー音声がオッサンの生死を酷く簡単に出した。
「って言う事で、ざっと3日ほどは最低でも見ててもらわないと、と思ってさっき教えた。OK?」満の代わりに彼が言った。
「誇り高い、歴史ある
小声で呟くホワイト・クロウのおんな。
「何としてもこの再生マシンを我が手に・・そうすれば
そのあと夫、坂巻の行方不明が正式に発表された。戦闘からすでに3日過ぎていた。
満が藤林小の秘密アジト内にオッサンこと坂巻を見舞うため復帰の準備が近くなり、あれから何度目かに入った折に覗いて見ると・・。
はたして、物資には荒された跡があり、おんなの姿は無く。
部屋の中に入るとグチャグチャに荒れ果てていて再生装置が無かったし、やっと何とか9割がた治ったはずのオッサンは喉を刀で裂かれていて汚れた床上で虫の息だった。
「オッサ・・坂巻さんッ!」 ヒュー ヒュー ヒュー
と浅い息使いしか反応が無いし瞳孔の反応もなく体温も低いし、あたりはまあまあな量の出血あとが・・。
(ヤバかったな・・オッサンにHi-ps 細胞を入れて無ければ完全にアウトだったぜ。ま・元に戻すのにまたざっと1週間か・・。)
「いや、再生マシンが無くなってるし喉の傷・・。」
(刀創か、あのおんな・・やってくれたぜっ!)
「次善の策としては・・。」(
仕方ねぇな、場所も設備ももうなんにもねぇからな。)
ボクたちはオッサンをHi-ps 細胞でマユ状に包み安全に運べるように梱包して【能力】超高速移動レベル(中)を使って三条家に
数日ぶりに戻った。
ガラララッ
「
恐るおそる奥へと声を掛けると、ドタ ドタ ドタ ドタともの凄い勢いで前掛け姿で包丁をなぜか腰だめに逆刃で構えた美月の母の三条・朧・エルーサさんが!?
「死ねやあぁっ!」
という叫びと共に腰を低くしてまっすぐに突っ込んで来た。
びぃッ!学生服ズボンのベルト通しを裂いてすれ違うとはだしの
グリップを生かして綺麗なターンを描きふたたび構え直して
「ふしゅるるるう~っ!」と意味不明な言語なのか息使いかで明らかな敵意を示すオバサン。
満はその切れ味と殺意に叫ぶだけだ。
「うわぃっ!」
(あっ!あぶ、あぶな・・。)
とっさにHE-MANの能力の片鱗を使って三角跳びのように包丁の軌道からボクの身体を逃がしてくれる彼だった。
次に奥から
「満くんっ!帰ったのか?無事か・・良かった。美月は?・・
美月は一緒か?」
そのオジさんの言葉はボクの心を停止させ、次の言葉がクリティカルヒットを与えた。
「えっ!いないんですかぁっ!・・美月ぃ!家に!」
ボクはこの時・・この世で一番の愚か者の顔をしていたと思う。
「一緒じゃ・・ないの・・か?」
「いつから・・いないんですか?スマホで連絡は・・。」
自分の声がA I の自動応答のように聞こえる。彼が代わってくれたんだ。美月に何かあったとしたら・・ボクは自分を絶対に許せない。
このまま皆の前で『脱着!』して、自分が死ぬまでDQN達を狩り続けるだろう。
「・・・。」
「三条さんっ!しっかりしてっ下さい!詳細を教えて下さい!」
どんな時にも、どんなピンチにも崩れた事のない
最後のそれは絶望の表情が地獄の叫び声を上げたかのようだった。
「ゥガァアアァァーーーッ!美月ぃーーッ!」
三条のその声を聞いて満は後悔と絶望に翻弄された。
次回予告
「HE−MAN」満は美月を探し当てる事
が出来るのか?三条はどう動く?
政府特務部隊『
政府特務部隊『
坂巻を襲ったホワイト・クロウは?
DQNのマシンをなぜ満が知っている?
そして次は何?快人だー!
バリバリ肩痛 第13話 消えた美月
レッツ!リハイドレイト!!
って主役が・・変わる?エエーッ!
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