その名は 『HE−MAN!』

ズバP 

第1話 DQN事変・・前

 いつもは姉弟きょうだいふたりきりでも暖かさを感じる家だった。


そのふたりの家が燃えていた。


「家が、燃えてる・・ぼくらの家が・・姉ちゃん、久美姉ちゃん!どこだっ!返事してくれっ!」


高校生にしては童顔で体型も【ポッチャリ】が思い浮かぶ男の子が燃えて、今にも崩れそうな一戸建ての自宅の前で泣き叫んでいた。


中にいるはずの姉は大学院生で彼の自慢の姉だった。


当年22歳、有名国立大の助教手伝いを1回生からするほどの才援で、まだ大学生の内から両親が交通事故で亡くなった保険金を元に遠い親戚の者と研究開発財団を共同で設立。


日夜、勉強・研究に励み自分の研究を発展させた特許を取得して生活を安定させるほどだった。


その上、弟の彼に対しては唯一の近い肉親と言う事もあり傍から見て溺愛するほどであり、またすらりとした体型だが胸はDカップをほこり普段は控えめな性格だが筋の通った考え、柔軟な発想に人を魅了する表情の変化。


肩を越えた黒髪も美しく、正しく才色兼備の生ける女神【〇大のアルテミス】と大学内でも噂の美女だった。


 その姉がいる自宅が燃えているのだ、しかもスマホでの連絡にも出てくれない。


ガラガラガラッ ドドオーーン! 遂に二階が燃え落ちた。辺りにプラスチックの灼けた異臭がひろがる。


「姉ちゃーーん!」


霜降 満しもふり みつるは一縷の望みをかけて群衆に姉の姿を探したが、見出すことは出来なかった・・。


 いつしか自宅は燃え燻り焦げた異臭が徐々に薄まりつつあっても、未だに消防隊員達により現場への立ち入りは許されていなかった。


そのいまだに座り込み泣き続ける彼の傍らには、幼稚園からの幼馴染の体格のやや大柄な美少女JKの三条 美月みつきが彼の肩に白い手指をかけ心配そうに寄り添っていた。


「みつる・・。」



 その後警察の調査も入り、玄関付近に持ち主の分からない大量の血液の流れた跡が見つかり世間では雑誌などで面白おかしく、


「天才美人女子大生が!謎の行方不明?、自宅焼失!血痕も?」


と興味本位で書き立てて満や美月、そして美月の両親もこころを痛めていた。


京都府警で刑事を務める美月の父親である三条 実方さねかたは家族で相談して娘の幼馴染であり、長年の知人であった姉弟きょうだいのうちひとり残された弟の満を自宅に引き取ろうとしていた。


自宅の居間で実方さねかたは満に話を切り出した。


「どうだろうか、満君。・・もし君が良ければ是非うちに来てくれないだろうか?お姉さんもまだ見つからずにいるし、いくら遺産が有ると言っても君はまだ高校生だ。不安な事もあるだろうしなによりも家の美月も妻も君の事をとても心配しているんだ。」


満にとってはありがたい申し出だったが、姉が今にも顔を見せそうに思えて、すぐには決心がつかなかった。


「もう少し、時間をいただけますか・・おじさん。」


「わかった。しかし家と学校はどうする?」


しばらく考えたのち満は美月の父に答えた。


「なら、身の振り方が決まるまで申し訳ありませんが、お世話になります。」


美月の父はニッと年齢にはあり得ないほどのさわやかな笑みで、

 

「よしっ!これで美月と家のハニーも安心するよ!」


とふたりに話しに行った。


その場にしばし一人になった満は


「姉さん・・・」


と小さくつぶやいた。


 それからひと月、結局は美月のご両親の好意によって満は幼馴染の美月とご両親とに見守られ同居生活を始めていた。


姉のような知的美人ほどでもないが、美月もクラスではベスト3に入る健康的美少女で胸だけならあの姉にも余裕で勝っていた。


「ねえっ満、もうクラブ決めた?」


ふたりで下校途中の会話だ。


初めの頃こそ満を気遣いひやかす事をしなかったクラスメイトも


「ふたりで同棲っ!」


「マンガみたい~!」


「うらやましぃ~!」


と声を掛ける。


それもみんなの気使いかもしれないが・・そんな中で、高校生になった美月が満に体育系クラブを勧めていたのだ。


白人のハーフであるおばさんと精悍なおじさんの娘の美月はやや白人系の血が入ったクオーターと言うのだろう。


その高校生の美月は金髪というよりも濃いブラウンの髪の鼻筋の通った美少女になっていた。


もっとも満が幼稚園で初めて出会った時の美月の印象はまだ丸々としたタヌキッ娘だったのだが・・。


「おれ、ぼくはやめとくよ・・。」


美月はちょっとシュンとしてしまい、すねて口をとがらせてから


「なんでよ~前は合気道とかしてたじゃんか~。」


と怒るでもなく言った。


「あたしが好きになるほどカッコ良かったのにな!満は・・。」


誰が見ても太っていて背も低い僕にもこんなに言ってくれて嬉しかったが、今度の事で姉についてわかる範囲でいいから調べようと思って決めていたのだ。


「ぼくは今ちょっと考えていることがあるから。」


美月はチラと長いまつ毛の美しい、黒に近いような濃紺の瞳で満を見やるとまるでおとなの女のように憂いの雰囲気のため息を吐くのに合わせて囁いた。


「ふ~ん?そーなんだ。・・でも、ひとりで危ない事だけはしないでいてね、久美姉に続いて満まで居なくなったら・・あたしも・・許さないんだから。」


いつもの他愛もない会話だったハズがこの勘の鋭いことも美月の大きな特徴だといえる。


僕の事は何でもズバズバ当てられてしまう。


そのとき美月の蛍光ピンクのスマホがさっきの余韻も全く無く 

「るるるる るん るるるる るん!」 と可愛く鳴り出した。


「ん?父さん・・仕事中には絶対かけてくるなって自分で言うくせして・・」


ぴっ「もしもし、あたし美月・・珍しいね父さんが・・・えっ・・・ホントに。・・・うそだ・・・・ホントに?・・・うん、わかった、なるべく早く満と帰る!」


「おじさんなんて、・・。」


「またテロリストだって、規模が大きくて今テレビでやってるって言うんだけど、それがまたバカみたいな名前でさ、【DQN帝国】って名のってるんだって。」


「また、馬鹿々々しいわけわかんないのが・・ふえたんだ。」


最近は、政党でも「〇〇〇を殺す党」だの、NPO法人で「日本人の子供は会」とか、良く分からないモノが増えた。テロリストも「すぐ死ね団」ってのが時折自爆テロをする異様と言ってもいい昨今だ。


僕たちの話が聞こえたのか離れて少し先を歩いていた同じクラスのヤンキーっぽい赤い髪に染めた田村君と金髪の大西さんのカップルが同時にこちらをすごい勢いで振り向いた。


「きゃっなによふたりとも・・!?・・ねえ満。・・・田村君たち何かようすが変じゃない?目が真っ赤だよ!」


振り向いたふたりの目は眼球すべてが真っ赤で表情は歪み普段のケンカの時よりさらに恐ろしく、まさしくゲームに出るモンスターのグールか吸血鬼のようなリアクションだった。


「DQN.DQN.DQN!・・DQN.DQN.DQN!うるるるる~!」


「るるるっ!ど・DQN、DQN・・・。」


「ヤバッねぇ!ふ、ふたり共、なんか変なカッコでせまって来てるよぅ・・何か、怒らしちゃった?」


普段とはちがうふたりの異様なその姿にたじろぐ美月。


「美月、逃げろっ!ふたりとも普通じゃない!」


満は美月と共に駆け出そうとした。


そのとき満の頭の中に走馬灯のように記憶と言うのか姉さんの映像が走った。


その内容に僕は電気に撃たれたようなショックを感じて道に転がり倒れてしまった。


「きゃーっ!満っ!しっかりして。」


逃げようとした美月が制服のスカートをひるがえして戻ってくる。


「なんだ【HE-MAN】って。ねえさんは何してたんだ?僕が、何だって?・・。」


どこか近所の家のテレビ音だろうかアナウンサーの声が聞こえる。


「・・彼らは【DQN帝国】を名乗り周囲の市民に無差別に襲い掛かったとのことです・・これは各地で撮影されたその様子です・・」


「満ーッ助けてーっ!」


美月の声に痛む頭を振りながら見ると大西さんに両肩を押さえられた美月が馬乗りになった田村にシャツの胸を引き裂かれているところだった。


怒りに我を忘れた僕は後ろから田村の後頭部と首筋を何度も蹴った。


「美月をはなせ!このヤロー!」


確実に何発も頭を蹴ってるのに効いてないようだ。


あまりにもウザかったのか手で足を払おうとして僕に蹴られて田村の右腕が鈍い音をたてた。


ゴキリッ! 


「DQN、・・」


何、不思議そうに腕を見てんだ・・。


普通は痛くて泣き叫ぶはずだろうが・・。


田村は折れた手を気にせず、そのまま左手だけで美月の下着をぬがそうとする。


「ひい~!」


叫ぶ美月の様子がヤバい、気絶でもされたらふたりを相手に美月を抱えて逃げだす事も出来なくなる。


僕は思いっ切り力を込めて首筋を横から蹴った。


再度、異様な音が響いた。


グシャリッ!とか聞こえたように思う。


田村はやっと首を押さえて倒れ込んだ。


手応え?からして命にかかわるかも知れなかった。


だから、僕はちょっと ぼうっとしていたんだと思う。


そのとき僕の首に大西さんの両手が伸びてきていたかと思うと信じられないほどの力で絞めて来た。


「な、んだ・・こい・・つ・・ら」


ボロボロになったシャツを寄せ集めるようにして美月はうずくまると泣きながらスマホを拾い上げ電話をかけ始める。


トゥルルルルル トゥルルルルル トゥルルル


「お願いぃーッ 早く出てーッ みつるが死んじゃう!」


僕の方は意外と冷静に大西さんの様子や美月の取り乱しように心の中で突っ込んでいた。


いくら悪ぶっているヤンキー予備軍だとしても真っ昼間過ぎの通学路で公開で婦女暴行未遂と乱闘沙汰になっているのに、周囲の第三者の人たちの反応がうすすぎる。


それと美月よ今から電話で誰を呼んでも間に合わんと思うぞ。


僕は、渾身の力を込めると大西さんの両手を引きはがした。


意外な自分の力にも驚いたが勢い余って相手の手首を引っ張りすぎた。


大西さんの両腕から コキ、コキリッゴキ!と関節が外れたか、骨折したような音が鳴った。


大西さんは染めた金髪を振り乱したようにしたまま、両手をだらんと下げて進んで来る。


しかし、僕にぶつかると止まる。


何がしたいんだ、一体?・・僕は大西さんを脅威対象から外すと無視して美月の手を引き立ち上がらせて、ふたりで走り出した。


もちろん、僕は幼馴染の美少女を裸同然の姿でみんなに紹介したいわけでもないので、とりあえず僕の体操着の上を貸してその上からさらに僕のカッターシャツをはおらせた。


美月は興奮と羞恥に頬を赤らめて、豊かな胸を僕から隠しながらも用意を整え無理に笑顔でこちらに頷いた。


「大丈夫!もう行けるよ、みつる。」


「よし、行くぞ!」


ふたりで物影から駆けだすと、ふらふらと大西さんがついてくる。

本当にゾンビのようで・・映画なんかを思い出して背筋が

ゾッとした。


逃げる間にも、僕たち同様の揉め事を何回か見かけたが逃げた。


ただの高校生カップルの僕たちに何が出来よう。


【からだにまとう・・を触媒にして・・】


まただ。


姉さんが白衣を着て何かを説明している様子が脳裏に・・。


記憶?【常人にない力を・・】なんだ、この記憶・・。


僕にはまるで覚えがない。


今度は寝ている僕を知らない爺さんとふたりで指さしている。


【頭脳は元より・・骨格や筋肉までをも・・変容せしめ・・】


もう少しで美月の家なのに、視界が歪む。


【ただし、この個体は旧人との交配をも可能とし・・】


何言ってるんだよ、姉ちゃんは・・。


【この種を我々は『H=high E=energy MAN,成功例no.0001』こと呼称HE-MANとして・・】


そこで僕の意識は途切れた。


 気が付くと自分の布団に寝ていて、重いとおもったら美月が泣きながら寝入っていたようで、僕の腹の上に頭を乗せ寝息を立てていた。


なるべく美月を起こさないようにTVのリモコンを取りさぐって付けてみた。


「昨日より続発している『DQN帝国』と名乗る者たちによる、連続暴行事件の続報です・・。


各地で発生した事件の総数は判明しているもので現在482件。


犯人たちはいずれも昨日の午後14時ごろより人が変わった様に凶暴になり、暴れ始めたとの報告があり警察の調べで事実だと判明しています・・。」


少しTVの声が大きかったのか、美月が目を覚ましかけぐずり始めた。


「う~ん・・みつる・・。」


えっ!僕を呼んだ?そのとき、美月の胸の柔らかさと温もりを太腿に感じて、その上に微妙な場所付近を美月の右手がもぞもぞと動いているので、さらに胸が僕の心臓がドキドキをとても激しくした。


頼むから!手を、手をのけてくれっ!反応しちまう~っ!そう思い少しずつ布団を滑らせ抜け出ようとして悪戦苦闘していると、


「んあぁ・・。」


変な声を出して美月が朦朧としたまま起き上がった。


タイミング良く部屋のドアがノックされる。 


コン コン


「満君、美月~入るわよ。いいわね準備できた~!」


美月の母親のエルーサさんだ。


いったい部屋の中の僕と美月のどんな状態を想像しているんだろ

う、声を掛けてから入るまでの少々長い間がちょっと怖い。


ガラララッ


「あっ満君もう起きてたのね、ヤダ!この娘はもう!あなたが寝てどうするの?看病にならないじゃないの。」


さすが母親、座って ぼーーっとしている美月の状態を正確に見抜いているらしい。


「すみません、エルーサおばさん。」


と返した僕の口を人差し指一本でふさぐと・・。


「お・か・あ・さ・ん!」


といい僕を睨みつける彼女・・。


「もしくは、エルーサでもいいわよっ!」


顔を見るとどうやら本気らしい。


「・・すいません!ハードル高いです。もう少し下げてもらえませんか?」と僕、


「じゃエルーサ様、ベイビー、マイハニー!さあどーれだ?」


もうダメだ、僕の処理能力の限度を超えている。


「美月!悪いが助けてくれる。僕ごときじゃ太刀打ちできない

ヒトだよ。ねぇ美月?」


僕は美月に助けを求めたが・・これだけ騒いでいるのにまだ寝ていた。


「くー すー ふー・・」


そして、そのままこちらに身体を預けて来る。


むにゆっ!倒れてきた美月を押しとめようとして、今まで見るだけだった無敵の胸部装甲に手を付けてしまった。


一瞬(きゃ~!と)叫ばれると思ったが、とろけた表情で僕の手に胸をこすりつけて来る。


「み、みみみ美月・・」


「あはぁ・・い、いい!」


と切ない声をだしさらに胸をこすりつける様にする幼馴染。


それを見たエルーサさんときたら・・。


「あら、あらあら!ふたりとももうそんな事まで・・まぁいいけど・・満君。」


おばさんの視線がとっても怖い。


「は、はい。」


「高校だけは絶対に無事に卒業させてやってね、お願いよ!」


ガチだおばさんのお願いは、僕がいったい何をどこまでして美月を高校中退させると思っているのか?


皆でワイワイやっているところで、


「おい!満君、気が付いたか!」


実方さねかたさんが颯爽と入って来た。


「おじさん、すみませんでした。おれ、僕は美月を守ってやれませんでした。」


「何言ってる、全部美月から聞いているよ、ありがとう。」


僕は今、二番目に聞きたいことをおじさんに聞いた。


「襲ってきた田村と大西さんは・・」


とたんに渋い顔になる実方さねかたさん。


「命に別状はないが・・ふたりとも全治1か月の重傷だ・・それと女の子の大西さんは拘束されて2日目、まだ檻の中だ脱臼の治療はしたがね。男の子は・・田村君だっけ?奇跡的に意識を回復して。今では催眠暗示?も解けている。満君が蹴った首すじの皮下組織と筋膜の間に5センチほどもあるダニみたいな寄生昆虫のような物がいてそれが人を操っていた様なんだ。」


そんな事が・・。それとふたりとも生きていてくれて良かった。僕はヒト殺しじゃ無かった。


「ま、おかげでDQN達に対するやり方が確立されたんで、排除がやりやすくなった。」


叔父さんの目が優しい。


「それに、お前さんの状況が状況だったんで、自分と美月の身を守るためって事で緊急避難・正当防衛で無罪放免になりそうだしな。」


きっとおじさんが走り回ってくれてたんだろう。


「有難うございました。」


僕は頭を下げて感謝の心を示した。


おじさんは照れて頭をガシガシかいていた。


「よせよ、俺は何もしちゃいないよ。」


そこに抱かれたままの美月が回りがうるさいのか身じろぎした。


「うん〜気持ちい・・みつる」


と寝ぼけてつぶやくと美月の御両親はふたりの様子をまじまじと見直してみて・・。


「満くん・・ただしその右手は有罪だな!」


僕はいまだに極上の触感のままの右手に我にかえった。


「あっ!」


「「ギルティ!!」」


美月のご両親、おふたりが僕に叫んだ!


そのあと実方さねかたさんがそっと言った。


三条家うちで終身刑だなこりゃあ。」






 次回予告

『DQN帝国』とは、一体何なのか?

幻に見た「HE−MAN」とは何なのか?

謎が謎を呼ぶ 霜降 満 の高校生活はどうなるのか

そして愛する姉は今どこに・・。


第2話 DQN事変・・中

レッツ!リハイドレイト!!








  







 









  




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る