第14話
「ん〜、おいしー!」
パフェを食べる小鳥遊さん。その顔はとても幸せそうで、こちらまで幸せになれそうだ。……まぁ、全く幸せになれない状況なんですけど。
なんと小鳥遊さんが食べているパフェ、驚異の五つ目。しかもこれ、俺の奢りだ。
「あ〜、奢るよなんて言わなきゃよかった……」
「んー?何か言ったー?」
「いや、なにもー……」
小鳥遊さんは、俺が「奢るよ」と言った時、めちゃくちゃ止めてくれたのだ。それを押し切って好きなだけ食べていいなんて言った結果がこれだ。
ぼーっとパフェを眺めていると、突然口元にスプーンが差し出された。
「食べるー?」
「え、あ、いやぁ……むぐっ!?」
口を開いた途端口にスプーンを突っ込まれ、口の中にスプーンに乗っていた生クリームといちごの味が広がる。
「おいしー?」
「あ、あぁ……」
めちゃくちゃうまかったけど……めっちゃ強引……。有無を言わせない早さで口に突っ込まれたわ、しかもちゃんと喉に刺さらないように配慮されて。
「うん、そうだよねー!今日来てよかったー!」
俺の口からついさっき引っこ抜かれたスプーンが器の中のアイスクリームをすくって、小鳥遊さんの口の中に入っていった。……ん?口の中……?
……あれこれ、間接キスじゃね……?
「あ、気づいたー?顔真っ赤だよー?」
こっちを見て、ケタケタ小鳥遊さんが笑う。気づかれたせいで、もっと顔が熱くなる。
この人、どうしても優位に立てない。別に優位に立ちたい訳じゃないけど、完全にペースに呑まれたままはまずい、精神衛生的に。
「間接キスぐらいで照れるとかウブだなー」
「な!?別に平気だわそれぐらい!ただ急に食べさせられたから──」
咄嗟に出た反論に後悔した。これだと覚悟ができてればどうって事ないって言ってるようなもの。目の前でめっちゃニヤニヤしてる小鳥遊さんが次に言ってくる言葉も分かったようなもの。
「じゃあ、急じゃなければいけるんだー?」
ほらやっぱり!逃げ場なんてあってないようなものじゃん!断ったらまた煽られてその隙にまた口にスプーン突っ込まれるところまで読めた。この人なら絶対やるね、お金賭けれる。
「ほらほらー、どうしたのー?」
あーん、と言って小鳥遊さんがスプーンを近づけてくる。相変わらずニヤニヤしながら。
覚悟を決めろ、小野寺詩乃。ここで上手く立ち回れば立場の逆転とは言わずとも同等ぐらいには立てる。そのシュミレーションもできてるんだ、やれるぞ俺!
「あ、あーん……うん、うまいな」
やばい超恥ずかしい。もうさっきと違って全然味わからん。周りめっちゃ見てるし緊張してやりずれぇ……考えた作戦も全然周りのこと考えてなかったし……!あーでもやるっきゃない!
「あー、と、じゃあ俺も、小鳥遊さんに食べさせてあげるよ。俺に食べさせてくれたお礼に」
「へ!?」
やっぱり無理かー。余裕そうだったし、こんなのが効くわけ……って、は?
いや、顔真っ赤ですよ小鳥遊さん。あんだけ煽って自分はできないとか言わんよね?
「あれ?無理とか言う?」
「べ、べべ別に無理じゃないよー!?ほら、どーぞー!?」
パフェとスプーンを押し付けてくる小鳥遊さん。……これは、勝てる。
スプーンの上にはいちごジャムと生クリームがかかったアイスクリーム。スプーンの上で小さなパフェのようになっている。
「ほら、叶恵、あーん」
近づいてきていた小鳥遊さんの顔が止まって、更に真っ赤に顔が染まる。
「ん?小鳥遊さんどうしたの?」
クソ恥ずかしいが、ここで俺がそれを見せたら小鳥遊さんにまた手玉に取られる。だから、余裕を持って接しなければ……!
「い、今か、叶恵って……!」
「ん?それがどうしたの、叶恵?ほら、あーん」
「あ、あーん……」
名前呼びを諦めたのか慣れたのか、二回目は顔は真っ赤だったがちゃんと食べてくれた。
「おいしい?」
「味わかんないー……」
顔を引っ込めた小鳥遊さんは両手で顔を隠しながらそう言った。……てか待って、この人こんなかわいい人だったの……?イケメン女子とまではいかないけど、適度にいじわるなのがいい、って人気な人だったよな……。いや、それを崩した俺が言うことじゃないけどさ……。
「……味わかんなかったから、もう一回ー」
「え」
「やってくれないのー、詩乃ー?」
「あ、いや……」
名前呼び捨てだったの初めて……じゃなくて、言動変わんないのに態度が百八十度変わって、甘えるみたいにこっちを見てくるのはやめてくれ、めっちゃドキドキする……。
「……わかった、ほら」
結局女の子のおねだりに弱い俺だった。……はぁ、男子からも女子からも敵認定されそう……。
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