お前の姉ちゃん、焼きそばパンと等価なの?
アサガキタ
第1話 ポカリカラーの空の下
「おねえちゃん!」
突然ツレてた女子がコンビニでありえない音量を発する。
「あれ、
「あのね、この子クラスメイト! おねえちゃんのこと、めっちゃ好きなんだって! んなわけで、あとよろしく」
はぁ⁉
なに、この雑な紹介‼ しかも大音量で個人情報‼ うわ、おねえちゃん、めっちゃ見てるし‼
はい、好きなんだけどね、それはそうだけど、これはないわ~~
「わかった~~あと少しで休憩だからウラで待っててよ」
えっ、オレ? マジ⁇
「はい」
「後でね」
お姉さんは青いコンビニの制服を揺らして手を振った。
えぇ……ちょっと、マジ?
「なんだよ、さっきの雑なアプローチ」
「
この女子はクラスメイト。
オレがこのコンビニに通い詰めてることを察知し昨日話しかけて来た。
「キミ、あの店員さん好きなんでしょ? いいこと教えてあげる」
実はオレの激烈好みのオシ店員さん『
「マジかよ?」
「マジよ、マジ。そこで耳寄り情報をキミに――焼きそばパンでおねえちゃんのシフト教えたげる、お安いでしょ⁇」
ふん、シフトだと?
オレは食堂へ走った。
一心不乱に。
「ほらよ」
オレは残り僅かだった焼きそばパンを格闘の末ゲット、今に至る。
「うわっありがと! 私こんな彼氏ほしい! あっ、でも彼氏に望むとしたらあと黙っていちごオーレ、飲むか? なんだよな、そんなわけで、この話はなかったことで」
いやオレおまえに興味ないし、興味あるのチカねぇさんだから。
「――でシフトは?」
「ん? 何か口の水分根こそぎなんだけどな、のど越しスッキリぷりんとか付かない? オマケ」
「付かねえよ、プリンの方が焼きそばパンより高いだろ、そっちの方がセンターだろ、食玩かよ。それよかシフト!」
「はいはい、シフトね。うんとね、朝だいたいシフト入ってるよ」
はっ?
何このざっくり情報!それもう知ってる!
違うよ土日とか、午後とか夕方とかさ、出現率レアな時間帯知りたいんだよ!
「えっ、知らないわよ。そこまで。姉妹よただの? おねえちゃんが私の今日の3時間目何かを知らないように、私も午後からのシフト知らない」
きれいで細い人差し指を『ぴょん』と立てて、世の中の常識を語るように『シッタカ』な表情を浮かべた。
おい、教えたげるって言いましたよ?
さっき、やっぱ下位互換に聞いたオレがダメな子だったわ。
「そんなの直接聞きなよ、紹介したげる」
そして、コンビニで個人情報ただ漏れにしやがったのが、今だ。
「それじゃあとは若いふたりで」
いやいや、何帰ろうとしてます?
いろよ、もう少し。
「いやぁのど越しスッキリぷりん付いてたらね、ふたりの仲取り持つエンジェル早紀になってたけどね、流石に焼きそばパン1個じゃ過剰サービス。
三文芝居を見せられ店裏に放置されたのが、オレ
この春地元の進学校に入学、それなりに進学クラスに入ったものの、そこでは並。
スポーツは可もなく不可もなく、見た目は伸びしろいっぱいの162センチ。
まぁ、特筆すべきものはなし。
そんな「並盛り」セットなオレがここにいる。
今、出待ち。
スト―カ―じゃない、たぶん。
「おまたせ! アレ早紀帰ったの? 冷たいな、恋の援護射撃くらいしろっての。ね?」
そう言ってタレ目で笑いながら、ジ―ンズの後ろポケットから小箱を取り出して口に白い棒状のモノをくわえた。
「タバコ吸うんですか?」
「ん? タバコに見えた? やったね。でもこれラムネ。タバコ吸うのってかっこいいけど、赤ちゃんにね。君も食べて」
はぁ、差し出しかたがまるでタバコだ。
えっ、赤ちゃん?
「赤ちゃん⁉」
「ヤダ、ごめん、ごめん、言い方悪かった~~いないよ? 将来よ、将来。驚かせた? 君、名前教えてよ」
「
「
「今月中?」
「そう、今から言う質問をパスしてくれたら来月からは『チカ』で呼ぶこと、いい?」
「質問?」
ごくり。
「さっそく行く? 君。確認だけど、
「えっ、あ、はい」
「はいはい、質問は3つね。1つでも外れたらアウト、その先はないよ? だからって無理に合わせないこと、いい?」
「わかりました」
「はい、よく出来ました。早速ひとつめの質問。君は原付は好き?」
「原付? 2輪の」
「そうそう、好き?」
「ん、まぁ、乗ってみたいかなぁ」
「じゃあ、
えっと呼び捨てなんだ。
なんか新鮮……
ん?
うちの学校?
「あっ私一緒よ、学校。中退したけど。免許取る気ある?」
「許可出たら取ります、あと親は大丈夫」
「ほうほう、チカちゃんのために第1関門突破と。第2関門はちょっと重たい女の子だけど、いい? 引かない?」
「それは聞かないと」
「だよね~~えっとね、私は決めてるのよ。付き合う人はひとり。一生にひとり。だから夏希が『やっぱなしで』になるとお姉さんね、一生処女なわけ。だから『妻になってくれ』くらいの心構えほしいなぁ、重いよね~~? ここで挫折もありよ? でも、体目当てだけはなしね? だって、お姉さんウブだから(笑)」
「えっと、それオレと付き合うこと前提なんですか? いいんですか? まだ何にも知んないじゃあ……」
「そうよ、なんで? 因みに誰にでもしてる話じゃないからね。はじめて話するのよ。早紀が私に紹介する子でしょ? 信用してるから。で、どう?やめとく?」
あぁ……チカさん。
あなたの信じる妹君は『焼きそばパン』で買収されましたが?
さすがに言えねぇなぁ……
「あ、オレいろんな人と付き合いたい訳じゃないし、チカさんのこと好きなんで。いいんですか? こんなんで?」
「いいよ、そっか『妻になってくれ』でもありか。へぇ~~ちょっと、驚いたなぁ。私も捨てたもんじゃないわけか。あっ、でも最後の質問を突破しないとだよ?」
「最後の質問は?」
ごくり……
「私の夢を一緒にかなえてほしいの」
「チカさんの夢?」
「ポカリカラーわかる? ブルーに白。言わずと知れたスポーツドリンク」
「わかりますよ」
「私ね、ポカリカラ―の空の下に君と行きたい、原付で。探すのよ、あの空を、原付で。それでね、お互いに恋するの、あの真っ青な空の下で。だからそれまでは恋人未満だけど、あのブル―と白い雲に包まれて行くの。原付でどこまでも、どう? これ私の夢なの、ズレてる? でも行きたいのあの空の下、そこで恋したいの、ね? ダメ? 行こうよ、夏希、ぜったい楽しいって‼」
なんだろ、圧倒されてる、めっちゃめっちゃきらきらしてる。
ポカリカラ―?
あの青か、好きな色だな。
あの空の下でチカさん見たらもっと今よりきらきらなんだろな、変だな一生の話だよな。
なんだろここで決めてもいい、決めたい、決めたら楽しいこと沢山できるだろな、そんな決め方でもいいよな。
「チカさん、行こうよ。ポカリカラ―の空の下に、原付で」
チカさんのタレ目が一層タレてうなずいた。
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