第12話 幸子との和解と愛人1.5号
幸子との関係は、幸子の母親の病気の件で微妙になって来ていた。
「母が、癌で手術しなければ成らなくなり、しばらく実家に帰って看病をします。」と何故か、未だに寝室を共にしている、幸子が、誠司にすり寄りながら言ってきた。
「僕の母も、癌で、ああ父の前妻で、僕らの産みの親だけど、亡くしたからその気持ちわかる気がする。でもまだ小さかったけどね。」と言いながら誠司は幸子の髪の毛を優しく撫でていた。
「暫く会えないかもしれませんが、私が強引に昔の復縁を迫ってしまい、ご迷惑おかけしてしまった事・・・」誠司は、そんな幸子を見て、初めてしおり以外の女を感じていた。耳たぶや、うなじや、唇、しおりとは違う女の存在がそこにあり、しおりとは違った愛しさがそこに有った。
「また、御縁があれば、私を抱いて下さい。」と別れの言葉の様な言い回しで
「ここでの、誠司さんと過ごした日々は、一生忘れません。」と言いながら誠司の胸に顔を埋める幸子を、シッカリと抱きしめながら、
「僕も、幸子さんと過ごせて楽しかったよ。」と言いながら、キスをしようとしたが、幸子の弱みに付け入る様で、出来ずに抱きしめながら朝を迎えていた。
幸子は、翌日鎌倉に帰り、誠司には、何時もの日常が戻った。後で、叔父から、弥生が時々幸子を訪ね遣って来ていた事を聞き、彼奴も幸子の事を心配していたんだな、と考えながら、幸子が残した荷物を整理し始めた冬の日だった。そんな、すこし重い冬の日々を過ごした後、底冷えのする、京都の町中にも春の兆しが、舞い込んでくるように成ったと思った頃に、慌ただしく、新しい年度が始まり出した。
大学院への進級も無事に済んだ誠司が、久々に学食で昼食を取っていると、弥生がおもむろに近づいてきて、
「となり、いいですか、先輩?」と声を掛けた。
「ようー、久しぶり。どうだ、研究の方は、順調か?」と聞くと
「構造解析に一寸手こずっています。SPring-8(大型放射光施設)にでも持っていかないとダメかもしれないですね。」と言いながら、女子からぬハンバーグ定食を食べ始めていた。
「ラマンは試したか?高分子は、何時も動いているからな。」と誠司が聞くと、
「ほー、その手がありましたね。動的挙動からアプローチできるかも!」と納得してから
「先輩、私、良いもの手に入れちゃいました。」といって、何時も持っているズック生地に適当にキルトがパッチワークされたカバンから、大判の写真を取り出した。勿体ぶりながら、一枚目の写真を見せると。
「しおりさんの、モデル写真ですよ!欲しいでしょう?」といって、更に数枚の写真を見せた。
「男装の写真も素敵ですけど。これなんかたまりませんね!」とほぼ、セミヌードの写真を見せたので、誠司は慌てて、手で隠し
「バカ、人の妹の裸体を、人前に晒すんじゃんねえよ!」と小声で言うと
「嗚呼すみません。気を付けます・・・・でも欲しいでしょう。」
「生の方が。もっと凄いからな!」と言ったが、内心、誠司は、ネガを寄こせと言いたい気持ちであった。
「幸子から、貰ったのか?」と誠司が聞くと、
「直接、麗佳さんからです。」と意外な言葉が帰ってきた。
「先輩のシスコンの行方と、麗佳さんとの軋轢を探ろうかと思い、幸子さん経由で、麗佳さんにお会いしました。」
「はあー、大丈夫だったか?」
「ええ、噂とは違い、とっても優しいお姉様でしたよ。」
「それって、弥生が女だからだろう?」
「ふーむ、そうかもしれないけど・・・で、色々と話してくれましたよ。先輩の事、もしかしたら、麗佳さんて先輩の事、好きなんじゃ無いですか?」
「やめろ、悪寒が走るから。」
「で、・・・先輩て重度のシスコンを通り越して変態だったんですね。」と弥生に言われて、言葉に詰まっていると
「まあー、男女の機微は昔からありますから、我が家の先祖でさえも、当時60,70の一休禅師が、二十歳にも満たない、森盲女に恋をして、愛人にしてしまうぐらいですから、今なら犯罪ですよね。だから、先輩の変態ぶりを責める気はしません。でも、現実問題として、妹さんとの間にできた子供さんは誰が面倒みるんですか?」と弥生が切り出し
「そこで、提案なんですが、正妻はとりあえず幸子さん、愛人1号は妹さん、でも妹さんは、お兄さんと半分ずつなので、愛人0.5号ですよね。で、私が愛人2号となって、0.5の分を頂いて愛人1.5号になります。」
「はあー、なんだそれは?」
「だから、私も愛人にして下さい。正直、あの写真を見せられたら、正妻の座の闘争には勝目がないなーと思いましたが、しおりさんがあくまで愛人の立場であれば、私も立候補できるかなと。しおりさんとの子供は、私が面倒みますから、まさか、正妻に愛人の子供を面倒見ろとは言えないでしょう。そのかわり、私も、先輩との子供がほしいです。将来的には!」
誠司がポカーンとした顔でいると。更に
「結構、今まで私なりにモーションを掛けてきた積りでしたが、全く、無視されてきたので、先輩は、女の人に興味が無いのかとさえ思いましたが、最近、謎が解けて、要するに、頭の中には、しおりさんしか居なかったんですね。どう言う変態行為をしようかと思案を巡らしていたとか?」
「一寸、それは酷い言い方だな。でも、半分は当たっているかな。」
「だから、もうその事は問いません。でもこれからは、しおりさん以外の女性の事も見てください。幸子さんとか私とか。」と弥生の説法が終わってから
「また今度デートして下さいね。」と言って、去っていった。
誠司は、あれってデートだったのかと思い直してから、研究室に戻った
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