第2話 裏切り者の誕生
「それでは皆さまのステータスを記録します。記録水晶に手を置いていただけますでしょうか?」
「記録水晶?」
篠宮の疑問にライザはスラスラと答える。
「はい、一度皆さまの状態を確認し、それぞれが最も輝ける立場と訓練の方法を考案いたします。アシュート王国では幾度と勇者召喚が行われているため、訓練や戦略の考案に関しては一日の長がございます」
「……分かりました。それじゃあ俺からやります」
「はい。……記録水晶をここへ」
ライザが手を叩くと、後方に控えていた男たちが簡易テーブルと水晶の装着された機械のようなものを持ってくる。青く輝く水晶に、一部の女子が目を奪われていた。
篠宮が水晶に近付くと、手を触れるように求められ、望まれるがままに手を乗せると、水晶は光を強める。
「もう大丈夫です」
「今ので分かったんですか?」
「はい、今のでステータスの力が水晶に記録され、専門の魔法師が読み取り、書き出します——と、出来たみたいですね。篠宮蓮さま……っ! これはっ!」
すわっと目を見開くライザ。周囲の男たちにもどよめきが走る。
「どうしたんですか?」
「し、篠宮さま。貴方は
「ぷ、ぷらちな?」
「はい、召喚された勇者様には申し訳ございませんがそれぞれランクが存在しており、
その言葉にクラスメイト達にもざわめきが起こる。女子は良く分かってない様子だが、イケメンがなんかすごいらしいということは伝わったようで。
「さすが篠宮くん!」
「カッコよすぎるんだけどぉ!」
オタクたちも『ま、まぁ、クラスのリーダーは最強ってありがちでござるから。でもかませでござるから』と認めているのかいないのか良く分からない反応をしていた。
続いて近くにいた生徒たちからどんどんと記録水晶に手をかざしていく。
「金級……っ! 白金級には届きませんが凄まじい能力です! それにこの職業『
「銀級! 全体的に高水準のため、万能で凄まじいです!」
「銅級でもこのステータス!? さすが勇者様です!」
王女様からキャバ嬢へジョブチェンジしたライザを睥睨しつつ、千司はどうするかと考え込んでいた。
と言うのも、どうやら記録水晶は能力値だけでなく、『職業』や『スキル』に関しても記録していたからだ。
そんな状況で『俺も受けるぜ!』と意気揚々と手を上げるほど千司は馬鹿ではない。少し考えた後、銅級と言われていた生徒の一人に近付くことにした。
幾人かと話しているうちに、残るは千司と田中太郎という生徒だけになっていた。田中に視線を向けると、ちょうどかち合い、顎で先に行けと伝えると、こくりと頷いて記録水晶へと向かっていった。
そして……。
「また白金級!? すでに二人出ていたというのに、三人目っ!?」
「まじかよ田中!」
「やったな田中!」
「すごいぜ田中!」
クラスメイト達からの喝さいを受け、田中はぼーっとした表情のまま「ああ」と告げて離れていった。個性があるのかないのか良く分からない生徒である。
そうしていよいよラスト、千司の番である。
近付いていくと、ふと、ライザが鋭く見つめてくるのに気が付いた。
ラスト一人なのだから当たり前であるが、それだけでは無い。彼女の視線には今までのクラスメイト達に向けられていた『期待』とは異なる『猜疑心』が籠っているのを千司は見逃さなかった。
視線を一身に受けつつ、千司は思考する。
これまでの会話の中でライザは何度も『過去の勇者』について口にしていた。この勇者召喚は何度も行っていることだとも。そして、ステータスを解析する機械まで存在している。
そのことから、『職業の内訳』についてもある程度把握していると考えられる。
つまるところ『裏切り者』という職業に関してもおそらくその存在を把握している。
これまで何度も勇者召喚を行って、実際に魔王を討伐してきたと語る彼女らの国が、よもや『裏切り者』という大きな不安材料をそのままにしているはずがない。
この事と今向けられている視線を合わせて考えると、この記録水晶を使っての確認は、表向きにはステータスを記録すると銘打ってはいる物の、その実『裏切り者』のあぶり出しが目的なのだろうと予想できた。
そして千司の番になるまで『裏切り者』は現れなかった。
(怪しんでるねぇ、あからさまに)
千司は乾いた唇をなめて湿らせ、緊張で首筋を流れる汗を袖で拭う。しかし視線や態度、歩幅や息遣いは演じる。唇の渇きや汗は生理現象なので仕方が無い。
水晶の前にたどり着く。すると、サッと退路を断つように王女が近づいてきた。
「あなたはいったいどのような能力なのでしょうか」
「さぁな、あんまり強くなさそうだったが」
そう述べて水晶に手をかざす。青白い光が溢れて、専門の魔法師がそれを読み取り、記録。完成した紙を王女に手渡す。
ライザは紙を受け取り、のぞき込んで——。
「銅級勇者……職業は『剣士』ですか」
「な、あまり強くなかっただろう?」
千司の問いかけに、ライザは一度大きく息を吐いてから、平静を装って答えた。
「……そんなことはありませんよ。確かにほかの『剣士』の方より少し防御の能力値は低いですが、知力、技術の能力値はぐんを抜いています。目覚しい活躍を期待しております」
「そうか、応えられるように頑張るよ」
千司は優しい笑みを浮かべつつ、ライザに背を向け立ち去る。
ライザは一つ咳払いをしてから、注目を集めるように手をたたく。
「それでは皆さまを部屋へとご案内いたします。皆々さまのためにそれぞれ個室をご用意しておりますので、お疲れでしょうからそちらで少し休憩を取った後、大広間にて歓待の宴を予定しております。ですので、どうぞこちらへ」
そう言って男たちを伴って踵を返すライザ。
クラスメイト達は個室と歓待の宴という心躍るワードに浮足立っている様子で彼女に着いて行く。千司も彼ら彼女らに倣いながら、ほっと胸をなでおろしていた。
(何とか誤魔化せたか。にしても、この『偽装』スキルは思ったより応用が利きそうだな)
部屋を確認したらいろいろと試行錯誤してみるとしよう、と考えつつ、先ほどの事を思い出す。
職業を記録水晶で看破されると知った千司は銅級と言われたクラスメイト数人に話しかけ、彼らのステータスの数値を訪ねていた。普段ぼっちの千司であるが、倫理観がないだけでコミュ障なわけではない。
「俺のステータスがどんなもんなのか、記録するより先に知りたいんだ」
普通なら「なんで?」と返されてしかるべき問いであるが、今は普通ではない。突如異世界に召喚されて、ステータスが云々と頭がパンクしそうな情報量が一気に流れ込んでいる状態だ。
故に、尋ねたらサクサクと答えてくれた。
特に日本人は自虐ネタを許容できる唯一の人種である。故に、最低ランクの勇者なら簡単に口を割ると判断したのだ。
結果は功を奏し、千司は『偽装』のスキルで自身のステータスを『偽装』した、というわけだ。
(バレるわけにはいかないからな。こんなに面白そうな……おっと、自分の命がかかっているんだからな)
千司はポケットに手を突っ込みながら、最後尾で召喚された空間を後にした。
扉が閉じられる寸前、隙間風が甲高い音を奏でる。
それはまるで『最悪』の誕生を嘆いているようだった。
(にしても、勇者間であれほどステータスに開きがあるとはなぁ。どうやって殺すか……)
ついでに教えて貰った篠宮のステータスを思い出しつつ、千司はクラスメイトの後を追った。
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篠宮蓮
Lv.1
職業:砲撃者
攻撃:560
防御:500
魔力:660
知力:480
技術:530
スキル:一斉掃射
状態:全ステータスに+200の補正。
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