10.

 蛇足かもしれないけど、その後の話をちょっとだけしなくてはならない。


 わたしと海来の清い交際を後押ししたキューピッドであるところの一夏について、わたしたちの認識は相当に甘かったと言わざるをえない。


 海来の部屋での和解から一夜明けた翌日。思い切って手を繋いで登校したわたしと海来を正面入口で待ち構えていた一夏は何も言わずにニッコリ微笑むとつかつかとっこちらへ歩み寄ってきて。


「えい」


「っひぐ!」


 海来と繋いでいない左手を思いっきり握り込みやがった。


「あら、治ったわけではないのね」


「ちょっとアンタ離しなさいよ! 遙華顔色悪くなってるでしょ!」


 慌てた海来が強引に一夏を引剥して、吐き気を伴う全身の鳥肌からどうにか解放される。


「でも海来に触れられるなら、3Pは大丈夫ね」


「さんぴー、ですと?」


 わたしが先程の寒気以上に戦慄を覚えているというのにこの変態の口は止まらない。


「私は海来をいじめるから、海来は遙華をたっぷり愛してあげてね?」


「何言ってるのかよくわかんないけど、わたしはいつでも遙華をあ――ぁ、ぃ、してるから」


「はーいごちそうさま」


 大学生にもなって3Pという言葉に一切ピンときていない様子の海来に情操教育を施さねばと思う一方、一夏と海来はなるべく引き離しておかなくては、と心に誓った瞬間だった。


「ふふふ、覚悟しておいてね二人共。こんなに苦労したんですもの、たっぷり味わわせてもらわなくっちゃ割に合わないわ」


 そう言って上品そうに微笑む変態女。ちょっとでもいい人だと思ったことを全力で反省したい。

 どうやら彼女もまた、わたしの日常から出ていくつもりはないみたいだった。

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