4.

 上谷を筆頭とした友人たちと距離が開いたことが寂しかったかと自分に問えば、きっと寂しかったんだろう、という結論に至る。もっとも、そんな風に友人たちとの距離が開いた時は、そんなものだろうと思って気にしていなかったのが本当のところだ。寂しかった、というのは振り返ってみればそうだったような気もする、という程度のことで、少なくとも俺は関係を懐かしみこそすれ取り戻そうとは露ほども思わなかったし、そのための努力、関係を繋ぎ止めるためのどんな行動も放棄していた。我ながら実に薄情なことだ。


 そんな緩やかに遠ざかっていた俺達の距離が、明確に開いたと思えたのは高二の秋に行われた生徒会選挙の時だった。


 我が校の生徒会選挙は、一言でいえば地味だ。これといった盛り上がりもなく、事前の選挙運動的なものもなく、申し訳程度に全校集会で行われる投票前の演説以外では候補者の姿を見ることも滅多にない。しかも立候補者も事実上生徒会顧問の先生からの指名みたいなもので、対抗馬が並ぶことも滅多にない。見事にないない尽くしで、イベント性は皆無というわけだ。


 俺も一年生の頃はまるで見覚えのない先輩に信任の丸をつけて投票しただけのさして印象にも残らない行事だったのだが、見知った人間がそこに立つとあっては多少なりとも気にかかるものである。


 適度に怠けていた俺と違って素行も優良で成績も良かった上谷が教員推薦で生徒会長に立候補したのは、考えてみれば驚くようなことではなかったのかもしれないが、実際のところクラスメイトの雑談からそのことを耳にした俺はかなり動揺した。


 どのくらい動揺したかといえば、半年近くほとんど挨拶以上の会話がなかった上谷のクラスに駆け込んで確かめたほどだ。


 その時俺はなんと声をかけ、上谷はなんと答えたんだったか。


「会長なんて、大任じゃないか」


「成り行きでな。言うほど大したことじゃないだろ」


 所詮は高校生のまとめ役だよ、と苦笑いしていた気がする。そんな余裕しゃくしゃくというか、とても自然体での物言いに、俺は自分と上谷の間にはもはや埋めようのない価値観の差が横たわっていると感じた。


 頑張れよと声をかけ、上谷はおうと短く答えた。それは俺なりの激励であると同時に、別れの挨拶のつもりだった。立派になったお前とは、もう関わることはないだろうと、そういう意図を込めてだ。


 そこで、俺もこいつに並んでやろうと奮起できないのが俺であり、どこまでも怠惰な俺と上谷との決定的な分かれ道だったわけだ。

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