3.

「おう、待たせた」


「や、そんなでもないよ。五分そこそこだな」


「具体的な数字を出すなよ、なんかほんとに待たせたみたいじゃんか」


 ……ほんとは一時間近く待ってました、と素直に申告したらどんな顔をされるだろうか。引かれるどころか家で嫌なことでもあったのかと心配されかねないので黙っておこう。


 待ち合わせたのは駅近くの公園。クリスマスイブというだけあって、かなりの人が待ち合わせに利用していたが、そうは言ってもそこは都会ならざる地方都市。かなり、といっても視界が人で埋まるようなことはなく、俺達はスムーズに合流することができた。


「んじゃ、ぼちぼち行こうか」


 公園の時計をちらりと見れば時刻は夕方六時過ぎ。待ち合わせが六時だったので、適当に口にした五分くらい、というのは妥当な待ち時間だったようだ。


 並んで歩き出した上谷の様子を横目で窺う。今日の上谷はベージュのロングコートに暗いグレーのマフラーという、高校生としてはいささか大人しい色味の冬着姿だ。地味というべきか大人びているというべきか悩ましいところではあるが、この手のシックな色味が上谷によく似合うのは確かだ。


 一方俺はと言えば大きめの黒のダウンジャケットに下は穿き古しのジーパンと普段着丸出しの格好である。洒落た服など持っていない、というのもあるが、男同士で出かけるのに相応しい勝負服が何であるのか見当もつかなかった、というのが理由の大部分を占める。


 ……いやいやそもそも何だ勝負服って。男友達と遊びに出かけるのに勝負も何もあるまいに。でもなぁ、上谷の大人しくも大人びた服装と並ぶとなんとも不格好な気がしてならない。ダサいと思われてたらどうしよう。いやダサいのは事実なんだろうけど、隣を歩く以上もう少し上谷と釣り合う格好を模索すべきだったかもしれない。


「なんか懐かしい感じだな」


「え?」


「吾妻と出歩くのは久しぶりだ。ここ最近は生徒会室で顔は合わせてるが、いつもは制服か、せいぜいジャージだしな。私服のお前と学校の外で会うのは懐かしい」


「あー……そうだな」


「ああ、そうだ」


 俺のアホ。何が「そうだな」だ。もうちょっとマシな返しがあっただろう。俺達が間違いなく親友だった頃の話なんて、まさに俺が期待していた話題だったろうに。


 何のひねりもない俺の返事に、上谷はくすくすと含みのある笑い声を立てる。


「なんだよ、その笑いは」


「いや、素っ気ないところは変わってないんだな、と思って」


 安心したよ、と微笑まれる。珍しく皮肉の混じらない素直な笑顔を直視できず、俺は慌てて上谷から視線を逸らした。

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