俺達が俺達になれる日。
香珠樹
俺達が俺達になれる日。
俺の高校では毎年ハロウィンの日の放課後に、生徒が集まってハロウィンパーティーをするのが慣例となっている。もちろん、有志かつ強制などは無いのだが。
それでも大抵の生徒が参加し、毎年盛大な催しとなっていることは容易に想像がつくことだろう。なんなら主催団体は半年近く前から企画をしたりしているとか。
とまあ、多くの人にとって楽しみかつ特別な日である今日。例に漏れず俺にとっても――そして「彼女」にとっても楽しみかつ特別な日だ。
学校が終わり俺は自らのコスチュームに着替えて、校門の前で「彼女」を待つ。
女子と男子の着替えや準備にかかる時間はやはり違うのか、俺から十五分程度遅れて「彼女」が来た。
「ごめん……待った?」
「気にするな。今来たと言っても過言ではない程度の時間差だ」
「そう? ならよかった!」
そう言ってニコッと笑う「彼女」。
この笑顔に、やられたんだったか……我ながら、単純なものだな。
「よしっ! じゃあ早速、行こっ!」
「……そうだな――っと、その前に」
俺の手を取って走り出そうとする「彼女」を一度引き止めて、俺は慣れない言葉を紡いだ。
「……それ、似合ってるぞ」
「あ、ありがと……」
一気に頬を赤らめて、恥ずかしそうに感謝の言葉を述べる「彼女」。それに、なんというか……こういう言葉を言うのは、こちらも恥ずかしいものなんだな。それでも、徐々に慣れていくべきなのだろうが。
ちなみに、彼女の着ているのは吸血鬼の衣装だ。と言っても、羽が付いたりしているような姿ではなく、マントを羽織り、肌が少し青白くなっていたり犬歯が鋭くなっているといったものだが。
「……キミだって、似合ってるよ」
「そうか。……ありがとう」
「お揃いだもんね、私達。……ちゃんと本物に見えてる?」
「ああ、正真正銘の、本物だ」
「ふふっ、それは良かった。キミだって、ちゃんと本物に見えてるよ」
「まあ当然だが……お揃い、だな」
「うんっ!」
そして、今度こそとばかりに「行くよっ!」と言いながら俺の腕を引っ張っていく「彼女」。余程この姿で学校を回るのが楽しみらしい。
「おお、お二人さん。もう来てたのか」
しばらくパーティー会場である学校内をまわっていると、一人のクラスメイトに出会った。狼男の仮装をしている。
「そっちだって、もう来てるじゃないか」
「ははっ、まあな。俺達は今年は運営側に回ったからな。意外と楽しいぞ?」
「……もう機会無いだろ」
「確かにな!」
すると、ガハハ、と豪快に笑う彼の横から一人の少女が出てきた。こちらは魔女のコスチュームを着ているようだ
「やほー! お二人さんは今年、吸血鬼の姿なんだねー」
「うん、そうなんだ。 お揃いなのっ!」
そしてこのタイミングで、「彼女」は俺の腕に抱きついてきた。突然のことに、俺は動揺してしまう。
「……おアツいこったな」
「うるせぇ」
『まもなく、ハロウィンパーティーの開会式を始めます』
その時、開会式がそろそろ始まるという旨の放送が入った。
「おっと。そろそろ俺達は行かなくちゃだわ」
「そうか。……じゃあ、また後でな」
「おう」
「ばいばーい!」
「また後でね〜!」
挨拶を交わし、先程の二人は離れていった。
「俺達もあそこ行くか?」
近くの窓から、開会式の会場が見えている。思っていた通りかなりの人が密集している為少し気が引けているのは否定できないが。
とはいえせっかくのパーティーだ。騒ぐということだってパーティーの一つだろう。
「……ううん、ここで二人で見よ」
「わかった」
そういうことで、しざらく人の少なくなった校内の廊下で徐々に集まりつつある開会式会場を見下ろしていると、不意に「彼女」が口を開いた。
「……もう半年も経つんだね。キミが私のこと襲ってから」
「うっ……その節は本当に、すまない……」
「あははっ。全然気にしてないよ。あれのおかげで今こうして二人一緒に楽しく過ごせてるんだもん。……まあ、かなりびっくりしたけどね」
「彼女」からしたら何気ないのであろうその言葉に、俺は少しだけ照れてしまう。
あの日は自分の中でも最上位にくい込むであろう失敗体験だ。それを肯定してしまう優しさも、「彼女」の良いところの一つなのだが。
そうして、開会式が始まった。
運営の代表が観衆に「早くしろ」と急かされながらもいくつかの連絡事項を言い、残すは開会宣言のみとなった。
『5、4、3……』
カウントダウンか聞こえてくる中、再び彼女の方から、キラリと輝く犬歯を見せながら口を開いた。
「……ねぇ。―――――いい?」
「――ああ。いいぞ」
『2、1――』
そして、俺達は少しずつ顔を近づけていき――
『――開会します』
――ぷすり。
外が歓声に包まれる中、「彼女」は俺の首筋に、吸血鬼特有の鋭くとがった犬歯を突き立てた。
俺達が俺達になれる日。 香珠樹 @Kazuki453
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