木洩れ陽の詩

@halunatuakihuyu

第1話 つばめ

 ある日ある所で…


 春の木洩れ日の中…

 おばあさんが、玄関の軒先を見上げながらため息をついている。


 見上げたその先では、南の空から帰って来たツバメの夫婦がせっせと巣作りをしている。


 その様子を見て、ため息を付くおばあさん。


 おばあさんは、倉庫から長い長い箒を持って来て、出来るだけの背伸びをして、ツバメが巣作りのために運んできた泥や枯れ枝を払い落としている。


 それを見ていたおじいさんが、

「何もそこまでしなくても…」

「何言ってんですか。こうしないと、玄関先にフンをされて、大変な事になるんですからね。本当に、毎年毎年、大変なんだから」


 明くる朝、デイサービスに出掛けたおばあさん。

 夕方、帰って来ると、再び軒先には、出来掛けのツバメの巣が…


 カッとなったおばあさんはまたまた箒を持ち出して来て、巣を払い落とす。


 ツバメたちは払い落とされた巣の場所で、戸惑いながら羽根をパタパタ…


 その様子を、物陰から見ていたおじいさん、

「何もそこまでしなくても…」


 見かねたおじいさんは、手作りの鳥箱を拵えると、裏庭の柿の木にその鳥箱を乗せた。

 ちゃんと、“つばめ”と書かれた表札も付けて。

 そして、飛び交うツバメたちに向かって、

「こっちへおいで。ここなら、安全だから。ここでゆっくり子育てしなさい」

 と、語り掛ける。


 ツバメは忙しそうにおじいさんの上を飛び交っている。


 そんなある日のこと…

 おばあさんとおじいさんの娘さんから、

”無事に赤ちゃんが生まれたよ”

 という知らせが届く。

 

 数年前に結婚した娘さんが、二人目の子供を無事出産。

 今度は女の子。

 二人共、居ても立っても居られず、直ぐ会いに出かける。


 都会に住む娘夫婦。

 こちらは子育ての真っ最中。

 二つ上のお兄ちゃんは、ヤンチャ盛り。

 おばあさんたちが来てくれて、お兄ちゃんはますますハイテンション!

 パパさんの言う事なんか聞く気無し。

 もはや、コントロール不能。

 「仕方がない。あの娘が赤ちゃん連れて帰って来るまで、ここでお世話をしましょう」

 と、おばあさんとおじいさんは、パパさんとお兄ちゃんの面倒を見ることに…

 恐縮するパパさん。


 パパさんが仕事に行っている間、おばあさんはお家の掃除や食事の準備。

 おじいさんはヤンチャなお兄ちゃんと公園でかくれんぼ。


 おばあさんもおじいさんも大変だけど、何故か楽しそう…


 一週間ほどして…

 娘さんが、まるで天使の様な可愛い赤ちゃんを抱いて帰って来た。

 みんなで大歓迎。

 赤ちゃんを抱かせてもらい、おばあさんは幸せそう。

  

 それから、十日ほどして我が家に帰って来たおばあさんは、

「アッ‼」

 と、思わず声を上げた。


 玄関の軒先には、ツバメの巣がすっかり出来上がっていた。

「ありゃりゃ…」

 と、絶望的なおばあさん。


「やれやれ…」

 と、とうとう観念したおばあさんは、倉庫から大き目の段ボールを持って来て、ツバメの巣の下に置いた。

 そして、巣の中にちょこんと収まっているツバメの夫婦に、

 「ちゃんとこの上にしておくれよ」

 そう言いながらツバメの巣を見上げるおばあさんは…優しい目になっていた。


 一方その頃…


 裏庭の柿の木に乗せたおじいさんの巣箱には…

 いつの頃からかムクドリのつがいが…


 おじいさんが、それを複雑な表情で見上げていた…


                                 おしまい




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