家を出てコンビニ行って帰ってくるだけの話

あんび

やってしまった

講義と研究室でのプレゼン、更には無理矢理連行された飲み会とでへとへとになり、それでもなんとか身体を引きずりアパートへと帰って来た。


部屋の電気をスイッチを叩くようにつけ、鞄とコートをベッドに投げ、靴下もさっさと脱いでしまおうとした時に机の上の一点に目が行った。そこには、伝票を張られ、あとは出荷を待つだけになった荷物が置き忘れられていた。

中身はフリマサイトに出品していたCDである。確か取引相手には今日中に発送するというメッセージを送ってしまった。本当なら朝持ち出し日中の暇を見て集荷してもらうつもりだったのだ。時刻はそろそろ夜9時である。今更コンビニに持って行ってもすぐ集荷されるとは限らない。だが、BAD評価を相手につけられるのも極力避けたい。

暫く悩んだ末、靴下を直しコートを羽織った。そのポケットに鞄から取り出した財布とスマホをつっこみ片手には荷物を抱え、俺は渋々玄関へ向かった。


最寄りのコンビニはアパートから10分程の距離にある。一応町ではあるのだがここは一本入った路地の為人通りは少ない。指先がじわじわ冷えてくる。白い息が自分の顔にかかる。今日はコンタクトにしておいてよかったなとぼうっと思った。

コンビニに入ると立ち読みをしているサラリーマンらしき男性と一瞬目が合ってしまった。少々気まずいのだが数秒後にはそんな事忘れてしまう。棚の間を覗いたが店員がいない。仕方なく、空のレジの前に立ち俺は店の奥へと声を掛けた。出てきたのはバイトっぽい雰囲気の若い女の子だ。彼女は慣れた手つきでぱっぱと処理を終えてくれる。

手続き完了の証明書と領収書を渡されたのでそのまま帰ろうとしたところ後ろからあの、と声を掛けられた。

「お弁当とか、ご入用ではありませんか?」

「は?」

「あ、すみません!あと3時間位で賞味期限切れ扱いになっちゃう商品が棚にいくつかあって……割引きになってたりするので、その、よければ、どうぞ……」

俺の表情が不愉快そうに見えたのかもしれない、店員の声はどんどん尻すぼみになっていく。しかし、実際の所は願ったりかなったりな話であった。眠さと疲れと驚きで上手くリアクションできなかっただけだ。

飲みの席で出されたのは軽食ばかりでどうにも食い足りなかったのだ。多少の期限切れなど気にならないから、明日の食事の分も買っていこう。


お弁当3パック、更には総菜数品を買い込みコンビニを後にした。女の子は助かったとでも言いたげに笑っていたし、俺は安く食事を用意できた。win-winである。

歩きながら、ついでに買った微糖の缶コーヒーを啜る。特に見るものも考えることもないので何とはなしに空を見上げる。街燈と排気ガスのせいで星なんぞろくに見えない。輪郭の曖昧な、半端に欠けた月が雲間から薄っすら覗く。見えたのはそんな格好つかない空だったが、まあ、悪い気分ではなかった。

再びアパートに辿り着き扉を開ける。鍵を閉め、弁当の入ったポリ袋を台所に置き、とりあえずまずは取引相手に発送連絡メッセージを送ろうとスマホを取り出した。

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