第86話 どうせなら二人で初めてを



 落ち着かない。


 玲衣さんに、夜這いみたいに下着姿で迫られて、キスをした。


 その直後に、今度は夏帆と琴音の二人と同じ部屋で寝ることになったのだ。

 こんな状況で、普通に睡眠が取れるほど、俺は肝が据わっていない。

 

 しかも、二人は俺と同じ布団にいる。


「あの……夏帆、琴音」


「なに?」「はい!」


 夏帆と琴音が同時にこちらを向く。


「なんで同じ布団で寝てるの?」


「だって先輩を監視しないといけないですから。他の女の子と……こんなことをしないように」


 琴音がくすっと笑って、俺の腕に小さな胸をくっつける。

 琴音は薄いネグリジェのような寝間着しか身に着けていなくて、その胸の感触と暖かさがかなりはっきりとつたわってくる。


「だからって、同じ部屋にいるだけでも大丈夫なんじゃ……同じ布団で寝なくても」


「そうだよね。だから、あたしがそうしたいだけ」


 夏帆は小さな声で言う。そして、微笑み俺の額にキスをした。

 ちょっと子供っぽいパジャマを夏帆は着ていて、でも、胸元のボタンが一つ外れていて、胸の谷間が見えていた。


 俺が顔を赤くしたのを見て、琴音が俺をつんつんとつついた。


「佐々木先輩の……胸を見てました?」


「いや、そんなことしてないよ」


「嘘つき。やっぱり大きいほうがいいですものね」


 琴音はジト目で俺を睨んだ。

 小さいのも悪くないよ! なんて返したら、殺されそうな気がする。


 琴音は俺にますますひっついた。


「そんなに大きくはないですけど……先輩にだったら、ちょっとぐらい触らせてあげてもいいです」


 俺がぎょっとすると、琴音は恥ずかしそうに顔を赤くした。

 そして、ネグリジェの胸元を指で少し広げ、俺に示す。


「ね……先輩?」


 慌てたのは、俺よりも夏帆だった。


「ちょ、ちょっと待って! 抜け駆けは禁止でしょ!?」


「なら、佐々木先輩も晴人先輩に胸を揉んでもらったいいんじゃないですか?」


 琴音がにやりと笑い、夏帆が顔を真赤にする。


「そ、そんなこと……できないよ」


「意外と純情なんですね。下着姿で晴人先輩に迫ったり、『晴人の初めてをもらうのはあたしなんだから』って叫んだりしたって聞きましたけど」


「……そ、それは……」


「姉さんにとられちゃうぐらいだったら、いっそ私たち二人で晴人先輩の初めてをもらっちゃいます?」


 夏帆はぱくぱくと口を開けていて、俺もふたたびぎょっとした。


「それって、あたしと晴人と琴音と三人で……」


「セックスをするんです」


 琴音が真顔で言う。

 うろたえる夏帆に、琴音が言葉を重ねる。


「私は……いつでも平気ですよ? 佐々木先輩は覚悟ができてないんですか?」


「あ……あたしだって」


 夏帆はそう言って、いきなり起き上がると、パジャマを脱ぎ始めた。

 黒の下着姿のみになり、俺を見つめる。


「晴人は……あたしとしたい?」


「いや、えっと……」


「どっち?」


 俺が返事をする前に、夏帆は俺に覆いかぶさるように、強引に唇を奪った。

 甘い香りと、夏帆の下着姿が、俺をくらりとさせる。


 そして、夏帆はそのまま耳元に唇を近づけ、ささやいた。


「あたしじゃ……ダメ? やっぱり、あたしより水琴さんのほうがいい?」


 下着姿の夏帆が、潤んだ瞳で俺を見つめている。

 好きだった女の子にそんなふうに言われると、くらりとする。


 ふたたび夏帆が俺の唇を奪う。

 もし玲衣さんがいなければ。


 きっと俺は夏帆を選んでいたと思う。

 だけど……


 そのとき、俺の背後に柔らかい膨らみが押し当てられた。


「私のことも忘れないでくださいね……?」


 と言ったのは、琴音だった。

 玲衣さんがいなければ、きっと琴音と知り合うこともなかったし……こんなふうに同じベッドで寝ることもなかったはずだ。

 

 正面からは幼馴染の柔らかい口づけを受け、背中からは美少女の後輩に胸を当てられ。

 二人の甘い香りに、くらりとする。


「私としたくないですか?」


 背後から琴音がささやく。


「そんなわけには……」


「見返りなんて求めませんよ。まあ、姉さんから先輩を奪っちゃうかもですけど」


 くすっと琴音が笑い、俺の耳元に息を吹きかける。

 夏帆は頬を膨らませて、俺を睨んでいた。

 

 キスを終えると、夏帆は俺に抱きついた。

 完全に、前後両側から二人の女の子に挟まれる形になる。


「あたしがキスしてるんだから、あたしのことだけ考えてよ」


「そ、そう言われても、琴音が……」


「あら、先輩は佐々木さんより私のほうが好みですか」


 俺が反論しようと、琴音を振り返ると、そのすきに強引に唇を押し当てられた。

 琴音は顔を真赤にしていた。


 やがて琴音は俺から離れた。


「私、姉さんにも佐々木さんにも負けません。きっと先輩を独り占めしてみせます。でも、今は、三人でも我慢してあげます。だから……」


 玲衣さんに先を越されるぐらいなら、と言って、琴音と夏帆は二人で手を組むことにしたらしい。

 まずい状況だ。


 このままだと、本当に流されてしまう。

 そうなったらどうなるんだろう?


 夏帆と、琴音と、玲衣さんと、三人の美少女と一緒の退廃した生活を送ることになったら。

 戻れなくなってしまいそうだ。


 俺は勇気を振り絞って、二人を拒絶しようとした。


 そのとき、


「何をやってるのかな?」


 と言って部屋のふすまを開けたのは、すらりとした長身の美人女性だった。

 Tシャツ一枚しか着ていないみたいで、その大きな胸の膨らみの形がくっきりとわかった。

 そこにいたのは、俺の従姉の雨音姉さんだった。


「約束破りの悪い子達にはお仕置きしないとね」


 雨音姉さんは長い髪をかきあげ、にっこりと微笑んだ。

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