第78話 琴音とシャワー

 監禁されてから一週間が経った。

 俺も琴音も解放される見込みがないけれど、とにかく琴音に危害が加えられなくて良かった。


 ただ、困ったのは琴音と一緒に寝る事を約束させられてしまったことだ。

 毎日俺たちはベッドで抱き合って寝ていて、もちろんそれ以上のことは何もしていないのだけれど、俺はどぎまぎしてしまってゆっくり眠れない。


 反対に、琴音は俺の腕に抱かれていると安心するのか、無防備にすやすやと寝てしまう。

 三日前には、俺が琴音に何かしてしまいそうだから、やっぱり床で寝ると提案した。

 けれど、琴音は「襲ってくれていいんですよ?」と微笑むだけだった


 明らかに琴音は俺に好意を持ってくれている。

 最初の日だけとはいえ、キスだってしてしまった。


 でも、これ以上のことはできない。

 琴音は玲衣さんの妹で、俺は玲衣さんのことが好きなのだから。


 今朝も琴音がキスをするように迫ってきたから、俺は慌てて浴室へと逃げ出した。

 さすがにシャワーを浴びていたら、琴音も入ってこないだろう。


 けれど、その認識は甘かった。

 ガシャ、と浴室の扉が開く。


 振り返ると、そこには琴音がいた。

 羽織っているのは、バスタオル一枚のみだった。


「こ、琴音!?」


「私もシャワーを浴びに来ちゃいました」


 琴音はくすっと笑うと、俺を上目遣いに見つめた。

 その顔は恥ずかしそうに赤色に染まってる。


 さすがに裸ではないのは、そこまで思いきることができなかったということだろう。

 でも、シャワーを浴びるということは、いずれはタオルを取ることになる。


「だ、ダメだよ」


「私は気にしませんよ?」

 

 琴音は浴室に立ち入り、俺のすぐ目の前に来た。

 俺が浴室から逃げ出そうにも、狭い浴室だから、琴音が入り口をふさいでいる。

 ただ、このままでまずい。


 俺は裸で、琴音もほとんど裸。

 なにか起こる前に琴音には出ていってもらわないといけない。


 俺はシャワーの温度を冷水に変え、琴音の足元に向けた。

 ひゃっと琴音は小さく悲鳴を上げ、頬を膨らませて俺を睨んだ。


「先輩の意地悪……」


「えーと、ここから出ていってほしいな。そうじゃないと、次は琴音の身体全体に冷水をかけることになる」


 ふふっと、琴音は笑った。


「先輩はそんなことしないでしょう?」


「俺は本気だよ」


「先輩は優しいから、私が風邪を引くようひどいことをしたりはしないはずです」


 琴音の言うことは、図星だった。

 足にかけるぐらいはともかく、さすがにバスタオルごと冷水をかけたりするつもりはなかった。

 ただの脅しだと見抜かれてしまったのだ。


 琴音は目を輝かせて、俺に迫った。

 俺は思わず後ずさろうとして、そして床の洗面台に足をひっかけた。

 

 シャワーヘッドが手から滑り落ち、思わぬ方向へと向く。

 狙ったわけでもないのに、冷水が琴音に直撃した。


「きゃああああああああああああ!」


 琴音が悲鳴を上げる。

 俺は慌ててシャワーを止めたけれど、その頃には琴音はもうずぶ濡れだった。

 

 俺は琴音を見て、どきりとした。

 水を含んだバスタオルが琴音の体にぴったりとくっついて、身体のラインをほとんどそのまま露わにしている。


 琴音はがたがた震えていた。

 もともと冬なのに、冷水を浴びれば当然だ。


「ご、ごめん」


「先輩がわざとやったわけじゃないのはわかりますけど、さすがに寒いです……」


「ええと」


「責任をとって、先輩が暖めてくださいね?」


 琴音は震えながらもいたずらっぽく笑った。

 俺はシャワーをかなり熱い温度にしてひねった。


 それと同時に琴音が水に濡れたバスタオルを脱ぐ。

 俺は琴音の裸を見てしまい、慌てて目をそらした。


 琴音は恥じらいながらも、俺の耳元に口を近づけた。


「さっきから先輩、私の身体に目が釘付けでしたよね」


「そんなことは……」


 えいっ、と琴音は俺に正面から抱きついた。

 形の良い胸の膨らみが、俺に押し付けられる。


 目の前を見ると、琴音の胸が俺の胸板にあたり、たわんでいた。

 ひんやりとした心地よい感触がする。


「先輩の身体、温かいです」


「早く熱いシャワーを浴びたほうが良いと思うけど……」


「私は、こうしていたいんです」


 そう言って、琴音は俺に顔を近づけ、頬ずりをした。

 幸せそうな顔の琴音は、そのまま俺にささやきかけた。


「先輩、キスしてください」


「さっきも言ったけど、それはダメだよ」


「私に冷たいシャワーを浴びせたお詫びにです! そうしないと許しませんし、先輩から離れませんから!」


 このまま琴音がひっついたままだと、俺の理性がもたなさそうだ。

 俺の身体は熱を帯び、今すぐにでも琴音をどうにかしてしまいそうだった。


「は、る、と、せ、ん、ぱ、い♪」


 琴音が俺の名前を呼ぶのと同時に、俺は琴音の唇に自分の唇を重ねた。


「んんっ……!」


 くぐもった甘い声を琴音はもらし、俺にされるがままになっていた。

 舌と舌がからみ合う。


 びくん、と琴音の身体が跳ねる。

 そうすると俺と琴音は密着したままなので、琴音の胸の柔らかみが俺の胸板とこすれる。

 

 やがて俺たちはゆっくりと離れた。


「先輩のエッチ」


「ぜんぶ琴音が言い出したことだよ」


「姉さんともいつもこういうことをしているんでしょう?」


 俺は否定しようとして、実際に玲衣さんと二度もお風呂に一緒に入ったことを思い出し、顔を赤くした。

 琴音は俺の様子を見て、頬を膨らませる。


「やっぱり! 私、姉さんには負けませんから。だから……」


 そう言うと、琴音はふたたび俺に向けて身体を寄せた。

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