21─唯一の存在─
氷の花を作ってあの子にあげると喜んだ。
花の冠を大事に抱えて嬉しそうに飛んでみせた。その日々がとても大切だった。けれどそれ以上にキールが大切だった。
あの子では私の芯にはなれなかった。でもあの子もそれをわかっていたの。
「精霊術師?」
微笑むしかない。きっともう今の時代精霊術師は居ないのだろう。キールは木の精霊術師だった。火を吐くあいつとは相性が悪すぎて、簡単にやられてしまった。
「そう、精霊術師」
「なんで、僕生きてるの?」
「…眠ってただけだから」
「っじゃあ僕の家族や村の人たちも!?」
目を大きく見開き茶色い目を期待に輝かせる。ああ、この子の家族まで私は巻き込んでしまったのね。
「うん、大丈夫、白が消えれば…この雪が止めばそれが晴れれば」
そうすれば、止まっていた時は動き出す。
「…よかった」
「貴方に頼みがあるの、私と共に山頂へ向かって欲しい、もう目覚める頃だから、山頂の誰かが死ぬ前に」
終わらせなければならない。
長い時がかかった。許されない行為だった。流れゆく時を縛り付けた。
「もう、解放しなきゃ、みんな」
赤い鳥がゆっくりと羽ばたき、私の肩に止まる。仕方ないかとため息を吐き、山頂へ向かった。
キール、遅くなってごめんなさい。もう少し待っていて。必ず戻ってきて共に逝くから。
“行ってらっしゃい、僕のフィオナ”
ええ、待っていて私のキール。
幻聴だとしても良かった。都合のいい想像だと言われればそうだとしか言えない。それでも。
それでも私はキールなら待っていてくれると思っている。優しい私の愛しい人。
「貴方の名前聞いてなかったわね、名前は?」
「ルベリオンだよ、君が賢者様の言っていたキュラスで唯一生きる者?」
「まだ賢者と名乗っていたの、呆れた…でもそうね、きっと私の事だわ、私しかいないもの」
肩に乗る鳥を小突く。視線を逸らす鳥に溜息を吐けばルベリオンが首を傾げる。
それに微笑み返し、山頂を目指す。
永遠の時を終えるために。
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