8─1人の天才─
たった一人の白の世界だった。
愛しい人も居らず、親しい人も居らず、思い描く未来の
それでも少しの希望が彼女のそばに寄り添う。それはまるで幻を見せるように温かく、時をとめたように変わらない。
─────────────
おべっかには結構慣れた。魔術が上達する度に周りは褒めた。褒めて、彼を置いていく。
貴方は天才だからと彼の努力を認めること無く。天才故に出来たのだと。
彼はそれでも笑っていた。
彼はそれでも諦めず魔術を学び続けた。いずれ教えてくれる者が居なくなっても本で学び、それすら出来なくなった頃には自ら研究し新たな魔術を生み出した。
がちがちと歯が勝手に鳴る。やはり
オーギュストと歩いた時は憎まれ口を叩きながら体温をあげれた。けれどたった一人となった白銀の世界は無音で無機質で。
世界でただ一人になったような心細さが消えることがなかった。
「だいじょうぶ、かんたんだ」
ただ原因を特定して。
ただそれを止めればいい。
賢者が言うように誰かがいるのならその誰かを問えば良い。
簡単だ。簡単なはずだ。
そう言い聞かせるしかこの白を耐えれそうにはなかった。
───────
程なくしてルベリオンは足を止めた。見覚えがあったからだ。白に覆われた世界でも分かる塊は家なのだと確信めいて扉を掘り出し記憶に震えながらそれを開けた。
凍っていたが何とか開けられたその扉の向こう。
香る匂いが懐かしく、ツンと鼻を刺激し勝手に涙が溢れた。
「父さん、母さん…ルリアっ」
記憶よりも年老いた両親と。可愛く成長した妹。血の繋がった実の家族は仲良く三人ならんで眠っていた。
暖を取るように父と母がルリアを囲み、成長したといえどまだ幼いルリアはその間で安心しきったように眠っていた。
「ごめん、なさい」
溢れる記憶が涙をこぼさせた。あの台所で母が大きい包丁を持ち、いつも美味しいご飯を作ってくれた。壁にかけられた弓と剣で父が猟をする。そしてその横には父がいずれルベリオンが使うようにと
父と母とルリアの椀と…もうひとつの椀。
誰のかなんてすぐに分かった。
帰ることの出来ないルベリオンのもの。
「ごめんなさいっ」
天才だと言われた。天才らしくあろうと努力もした。けれど。
置いてきた家族に会おうともしなかった。お金だけ送り、手紙すらも出さず、だめだと言われたら足掻きもせず諦めた。
もうルベリオンに敵うものなど居ないのだ、だから周りの静止を振り切っても行けばよかった。きっと彼らはいつまでも待っていた。
家族を奪われた悲しさと寂しさが成長しても消えないルベリオンと同様に。息子を兄を失った彼らもまた消すことが出来なかった。
「父さん、母さん、ルリア……ただいま」
動かない三人にルベリオンは一人口を開き長い時を取り戻すように語る。
頑張って周りよりも魔術が得意になった。たくさんの女性に好意を持たれる様になり、けれど一人の
父が聞いたならきっとルベリオンの頬を殴ったことだろう。愛が深い人だった。
母が聞いたなら何も言わず慰めてくれただろう。無口で優しい人だった。
ルリアは…どんな子なんだろう。彼が覚えている最後のルリアはまだ話すことも出来ない乳飲み子だった。それでも可愛く笑うその顔が堪らなく好きでよくちょっかいを出しては母さんに怒られていた。
「ただいま」
何度帰宅を告げても返事はない。何度
ルベリオンはその日、その部屋で夜を過ごした。薪は全てオーギュストに押し付けたから火は付けられなかったが外よりも幾らか気温が高い気がした。寒さに震えはするがどうにか耐えしのぎ、眠りにつく。
止めなければならない。
キュラスの進行を。
これ以上この光景が広がらないように。
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