7─白き絶望─
長きに渡り距離を取り続けた二人は心の内を語り、少し互いの事を好きになれた。そんな夜をこえた朝。
…いや変わらず白が降る朝だと思う時間にルベリオンはすんなりと目が覚めた。いつもなら女性と夜を共にし寂しさを紛らわせたものだが、好きな人について語るオーギュストが
胸の内に溜めていた後悔を吐き出したからか、少しだけ肩が軽くなり、気を引き締めキュラスを進もうと眠ったままのオーギュストを起こそうとした。
鎧のまま眠りコケる。オーギュスト。
寝る時も鎧なのかと呆れつつもそれを揺すろうと手を触れさせルベリオンはすぐに顔色を悪くした。
鎧は冷たかった。
キンっと痛さすら感じるその冷たさは
「おい、おいっオーギュスト!」
すぐに気を取り直し冷たくなりすぎている鎧を揺する。その間ルベリオンの頭にはキュラスに入ったばかりの昨日の会話が蘇っていた。
“「残念ながら足元から冷たさが伝わって全身冷えている」”
その言葉が嫌味ではなくそのままの通りだったなら。
「おい!
どれだけ
「火よ!」
明日用に取っておいた
仕方なくオーギュストの鎧を脱がそうと頭部に手をかけた所で初めてオーギュストが身じろいだ。
「うる、さ」
「馬鹿じゃねぇの!?そんなに寒いなら鎧脱げよ!!」
「ぬぐ、訳にはいかない」
「
進まなければならないとオーギュストが立ち上がる。キュラスの原因をつきとめ止めなければ。
愛しきものの手が取れぬのだと。
「やめろって! 本当に死ぬぞ!」
「どけっ」
「オーギュスト!」
起きている時はまだ良かったのだろう。だが寝る時に生き物は総じて体温が下がる。その下がったままの体温に外気に冷やされた鎧がさらに追い討ちをかけ、立ち上がったとしてもオーギュストの意識は刈り取られる寸前だった。
よろよろと、歩むオーギュストはどう見ても頼りなく、このまま色のない世界に足を踏み出して生きていられる気がしなかった。
寝床に選んだ
鎧とて、同じはずだ。むしろ鎧の方が通気性が悪い分酷い可能性だってある。どうして気づかなかったんだ。
どうして言わなかったんだ。
死にかけていることくらい分かってるだろうに。
馬鹿じゃないんだ、このままだと好いた女を嫁にするどころか、その顔すら見れなくなると分かっていただろうに。
「オーギュスト、悪い」
ルベリオンは昔家族から引き離された事が理由で今も夜はその寂しさがあると、寝れなくなってしまう。
「ルベリオン…!」
けれど、彼は魔術の天才。
誰もが魔術に置いて
「火よ風よ格子となりて足を止めよ」
オーギュストの身体が風で吹き飛びルベリオンの横を過ぎ洞穴に戻される。叩き付けられた痛みに息をつきながらオーギュストが顔を上げると──洞穴の入口でルベリオンが笑っていた。
「僕が進む」
「ルベリオン!」
「お前はここで体温を戻すんだ、僕がいなければ鎧を脱げるだろ、薪は全て置いていくから火が消えないよう気をつけろよ」
「ルベリオン!!」
「あと、無理に出ようとしてもこの魔術はとけないと思えよ? オーギュスト」
「それじゃお前が…っ!」
「魔術の天才舐めんなよ、ばーか」
そうしてルベリオンは白い世界へ一人戻る。魔術によって閉じ込められたオーギュストはそれを見送ることしか出来ず、耐え切れない
ルベリオンは天才である。
女好きで、寂しがり屋で、考え無しで。けれど心優しい。
「それじゃ、お前が…死んでしまうだろう…っ」
この白銀の世界に来る前までは親の仇のように嫌悪しあっていた。だが、昨日語ったそれぞれの思いを
それだけでルベリオンは一人雪の中に進む決意をしてしまえるほど、彼はお人好しだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます