2─異色─


 

 そこは美しい世界だった。

 

 そこにたどり着いた若者達は歓喜した。いずれくる繁栄に。作り上げれる栄光に。

 美しい世界が、牙を向いたのは、それから一月ひとつきすら経たぬ頃だった。

 

 間違いだったのだと、叫んだのは全てを失った最後の一人だろう。恐らく全てを奪われた最後の一人だけだろう。

 

 ─────────

 

 「本当にここに人がいるのか?」

 

 寒さに鼻が激しく痛みを訴える。まだ痛みがあるから良いが、痛みが感じなくなった時こそ、いちばん危うい時だろう。

 

 「さぁ? でもこの土地で生きれる者なんて魔物すらいないでしょ」

 「だが、探せとのお達しだ」

 「そもそも、探す人物すら教えてくれないのにお偉いさんはいっつも無理難題だよな」

 「…しかもお前と二人とは」

 「それ、僕のセリフじゃない?」

 

 呆れを隠さない茶髪の少年は隣で表情もなく立っている騎士姿の男をみあげる。顔まできっちり隙間なく鎧で隠した男は騎士と言うよりも歩く鎧と言った方がしっくりくるだろう。

 

 「「…」」

 

 憎々しげに睨み合い、すぐにそれすら嫌悪したのか目を逸らす二人は揃って吹いた風に巻き上げられた白に凍えることとなる。

 

 「そのよろぃ隙間少なそうだからぁ、あったけぇんじゃないの…」

 「残念ながら足元から冷たさが伝わって全身冷えている」

 「少なくともぉ、僕よりはあったけぇんだろうな、死ねばいいのに」

 「その小ささでこの美しい鎧がまとえるか? 残念だな、纏えるならば貸してやっても良かったものを」

 「減らず口が過ぎると女にもてねぇぞ、朴念仁ぼくねんじん

 「言ってろチビ」

 

 寒さでかじかむ手をすり合わせ少しでも温かくしようと足掻き歯を鳴らす少年と。鎧のせいで一切の表情が分からない大男。

 

 反対すぎる二人は嫌味を互いに吐きつけてからまたそろって肩を震わせた。

 

 ──────生き物全てが凍りつき、時が止まった土地キュラス。

 

 雪は絶えず降り続け、この土地を凍らせていくのだが。日々その範囲を広げており、二人が籍を置いている王国にも白銀世界が迫っていた。

 

 キュラス対策を迫られた王国は賢者に頼り、一つの情報を貰うことを成功させた。与えられた情報というのが、閉ざされた白銀世界にて一人の人物が“生きている”というものだった。

 

 「だべものもないごのとぢでなにぐっでんだか」

 「呂律ろれつが回って無さすぎて何言ってるか分からないぞ」

 「うっせぇ!」

 

 キュラスの謎の人物探索に乗り出したものの、極寒の地に足を踏み入れる度胸があり、また何らかの異常事態に対応出来る腕の立つ者となると限られてしまう。度胸があり、腕の確かな者は揃って権力を持っており、更に探索の人選は困難を極めた。

 

 そんな時運が良かったのか悪かったのか白羽の矢が立ったのは二人の若者だった。

 

 魔術の天才ルベリオン・メードゥ

 剣術の天才オーギュスト・モルア

 

 二人の名は国でもそこそこ知られている。悪い方でも、いい方でもだ。

 

 ルベリオンとオーギュストは同郷である。更には別の学科ではあったが同じ学園を卒業し、全く同じタイミングに王宮へ配属となった。

 

 所謂いわゆる腐れ縁の関係だ。

 

 そしてまた彼らはそれぞれ問題を起こし、罰として何の因果か二人が今回のキュラス探索に駆り出されてしまったのだ。

 

 

 

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