第7話 宿屋に泊まりたいって?

 その、アンタの言う宿って何だい?


 泊まるとこ?


 金貰って一晩部屋を貸す商売?

 へぇ、聞いたことないねえ。


 教会の事かい?

 あそこなら誰でも泊めてくれるよ。異教徒や異端は無理だろうけど・・・


 いや、料金はとられないよ。まあ、は払うのがだろうけどね。

 だもん、そんな金とって部屋を貸す商売なんて利用する奴いないんじゃないのかい?


 人がいっぱいいる都会ならそういうのあるのかねえ?


 田舎はまず無理だと思うよ。

 教会があれば教会に泊めてもらうだろうし、地方領主の屋敷 ホールがある村ならそこに泊めてもらえるし、領主の屋敷なら御馳走付きだしね。


 だって、田舎の領主は他所の地方の話を聞きたがるもんだからね。

 あと、貴族ってのは自分がいかに裕福かアピールしたがるもんなんだ。

 だから、他の地方から来た旅人は歓迎して話を聞くし、代わりに御馳走を振る舞って如何に自分が気前のいい貴族かを他所で宣伝してもらうのさ。


 旅人の多い街道沿いの宿場町とかの領主じゃそんなことないけどね。

 それでも馬小屋みたいなとこで休ませるくらいはしてくれるんじゃないか?

 旅人の安全は領主にとって大事だからね。


 まあ、そんな宿場町ならどこぞの商会が商業会館構えて行商人泊まれるようにしてくれているから、アンタが行商人ならそこを利用するが良いだろうよ。

 アンタ、どっかの商会に加盟してたりしないのかい?


 あ、そう・・・


 そうでなくても、田舎ならどこぞの家を訪ねれば、どこの家でも泊めてくれるだろ?

 栄えた町じゃ廃れてしまってるが、一応旅人が来たら三日までは泊めてやるのが昔からの習わしだからね。


 いや、もちろんタダだよ。

 そんかし、食い物は期待すんなよ?


 そりゃ、旅人には精いっぱい御馳走するのは習わしではあるんだが、いかんせん自分たちが食うや食わずじゃ出せるモンが限られるからな。

 田舎の貧乏百姓の家じゃそんなもんさ。

 少しでもマシなモン食いたきゃなるべく大きくて裕福そうな家を探すしかないな。


 ああ、やっぱりアンタの言う「宿屋」って商売は無理だと思うよ。

 金払うくらいなら誰かの家にタダで泊めてもらう方がからなぁ。


 うん、だって旅人なんて一所ひとところに三日も滞在する事なんてないだろ?

 ただで泊めてもらえるのは三日までだ。

 三日以上泊まる客がいつもいるんでない限り、そういう商売も成立するはずないからなぁ。

 やっぱ、都会じゃなきゃ無理だろ。


 ああ、この辺の街じゃ無理だよ。

 野宿してる旅人だって見た事ないしなぁ。


 そんな部屋貸すだけで金が入るようなボロい商売があるなら誰だってするだろ?


 え?ボロくない?

 だって部屋貸すだけだろ?


 へえ、そりゃまあ掃除とかはあるだろうけどさ。


 え?ちょっと待て「観光案内」?

 「観光」って何だい?

 

 へえ、そんな物好きな目的で旅する人なんかいるのかい?


 いや、聞いたことないよ。

 旅人って言や、行商人か巡礼かだろフツー?


 まあ、確かに留学のためにって人もいるだろうけどさ。

 へえ、見物のためにわざわざ旅をねえ・・・

 そんなことすんのはよっぽど暇で金持ちな貴族様しかいないんじゃない?

 そんな貴族様相手の商売か・・・やっぱこんな田舎の街じゃ無理だな。

 貴族様の興味を引くような物があるわけでなし、貴族様自体少ないしなぁ・・


 え?

 貴族様じゃないの?


 平民で?

 そりゃ無いだろ。

 みんな自分の仕事で精一杯なのに、どんだけ金貯めたらそんな遊びで旅なんかできるんだい?


 え?

 そこまで大袈裟じゃないって、旅は大袈裟なことだろ?


 あ!

 あぁあぁ、分かった分かった。

 何だよアンタ、随分回りくどい事言うから分かんなかったじゃねぇか!

 なるほど、一夜の部屋を貸す商売ねぇ。


 あったよ、この街にも。

 うん、あったというか今もあるよ。


 あそこの十字路を右に曲がった奥にそういう店が並んでるよ。

 しっかし、アンタも昼間っから・・・


 え?

 決まったよめを持たない旅人おとこが一夜の宿おんなを借りるんだろ?

 上手い事言いやがって、そんな吟遊詩人みたいな言い方するから・・・


 え?

 違うの?

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