第18話:王孫登場

「マリーナ女辺境伯殿、私と一曲踊って頂けませんか」


 エジャートン王家の第三王孫が優雅に誘ってくれます。

 未だにタマの姿を見ていないとはいえ、いい度胸をしています。

 単なる馬鹿という可能性もありますが、言動からは賢さが伺えます。

 それに、この状況になって愚者を送ってくるほど、エジャートン王家が愚かとは思えません。

 そもそも馬鹿ならば、カーネギー王国を挟撃できる立地のアリスナ辺境伯家に、一族を送り込んでくるわけがないのです。


「まあ、光栄ですわ、喜んでお受けさせていただきます」


 私が各国から注目されているのが嬉しいのでしょう、セバスが笑みを浮かべていますが、ここに入れないジュリアスは苛立っているでしょうね。

 カーネギー王家のウィルズ第四王子は恨みの籠った視線を向けきますが、そもそもの原因はウィルズ第四王子なのですから、恨むのは筋違いでしょう。

 それに、どうしても私の気持ちを手に入れたいのなら、勇気を出してダンスを申し込めばいいのに、タマが怖くて言い出せないのです。

 そんなウィルズ第四王子に、従者が冷たい視線を向けています。


「マリーナ女辺境伯殿、どうしてもお願いしたい事があるのだが、いいだろうか」


「何でしょうか、サザランド殿下。

 事としだいによっては、できない事もあると思うので、簡単には答えられません」


 何の前置きもなく、同盟してカーネギー王国に攻め込もうと言い出すとは思いませんが、王族の中には記憶力がよくても常識のない人がいます。

 王族以外の人間は、いくらでも使役すればいいと考えている者もいます。

 王族以外は、貴族も奴隷も関係ないような愚か者もいます。

 サザランド殿下はそんな人間には見えませんが、最悪を想定しておくべきです。


「いや、そんなに警戒しなくても大丈夫、難しい事ではないよ。

 色々と噂を聞いているのだが、魔虎王を見た事がないのでね、一度見たいのだよ。

 エジャートン王国の今後の方針を決めるには、魔虎王の実力を見ない事には始まらないからね、だから会わせてもらえないだろうか」


 ウィルズ第四王子の顔色が真っ青です。

 前回頭を喰われそうになったことを思い出しているのでしょう。

 国の事よりも自分の恐怖感を優先する愚か者ですね。

 いえ、強者を恐れる本能はどうしようもないのかもしれません。

 ですが従者は事の重大さに気がついていて、真剣な表情になっています。

 タマの戦闘力次第では、エジャートン王国はアリスナ辺境伯家と軍事同盟を結び、一緒にカーネギー王国に攻め込むつもりだと言っているのですから。

 

「ええ、いいですわよ、でも他の方々に許可をとらないと、皆様怖がっておられますから、ああ、でも、ウィルズ殿下の許可は不用ですわ」

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