第16話:警告

「ギャッアアアアアア」


 カーネギー王国のウィルズ第四王子が絶叫をあげて腰を抜かしました。

 よほど怖かったのでしょうが、それも仕方ありません。

 特技の隠形で姿を隠していた魔虎王が、ウィルズ第四王子の背後にいたのです。

 姿を現した時には、大きく開いた口がウィルズ第四王子の頭を覆っています。

 そのまま口を閉じれば、ウィルズ第四王子の頭は簡単に喰われてしまいます。

 私が前世で知る、象以上の巨体の虎に喰われそうなのですから、その恐ろしさは想像を絶するモノでしょう。


「あら、あら、あら、どうなされたのですかウィルズ第四王子。

 タマはウィルズ第四王子の事がとても気に入ったようで、甘えているのですよ。

 そのように怖がらなくても大丈夫でございますよ」


 情けない事です、ちょっと脅かされただけで失禁ですか。

 女の尻ばかり追いかけて、ろくに武芸の鍛錬をしてこなかった報いです。

 王族だからこそ、常に己を鍛えて有事に備えなければいけないと思います。

 ノブレス・オブリージュという言葉はとても大切なのです。

 私はずっと自分を厳しく律して生きてきました。

 だから、ウィルズ第四王子のような堕落した王侯貴族が大嫌いなのです。


「ウィルズ第四王子の従者はいますか、粗相をされたようなので、部屋に案内してあげてくれますか、頼みましたよ」


 私の嫌味にウィルズ第四王子の従者が凄く恐縮しています。

 従者とはいっても、高貴な場所にも入れるように下級貴族の子弟が務めています。

 だからこそ、舞踏会場にいる貴族達の嘲笑に満ちた視線が理解できるのです。

 まず間違いなく、ウィルズ第四王子の失禁話は大陸中に広まります。

 カーネギー王家は大恥をかくことになるでしょう。

 逆恨みで侵攻されては困りますから、警告しておきましょう。

 戦争を始めるためではなく、戦争を回避するために魔虎王を表に出したのです。


「私の可愛いタマの事はよく母国に伝えてくださいね。

 あの子が一声かけたら、魔虎が幾千も集まってきますから、餌が大変なのです。

 カーネギー王家の方々や、王宮にいる方々が餌になるなんて、私も嫌なのですよ。

 でも、来てもらった以上空腹で返すわけにはいきません。

 大切な領民を餌にする事なんてできませんから、そうなると、分かりますでしょ」


 私が何を言いたいのか、従者もよく理解したのでしょう。

 まるで首振り人形のように首を縦に動かしています。

 あら、こまりましたね、舞踏会場中の人間が顔色をなくしています。

 誰もが皆、自領に魔虎の群れが押し寄せる事を思い浮かべているのでしょう。

 私は善良な人間ですから、心配しなくても、平和に暮らしている魔虎をこちらの都合で呼び寄せたりはしませんよ。

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