第2話
現実逃避するわけではないのですが、再び物語を読み進めることにしました。
その時、外からガシャンという陶器が割れたような音がしたような気がしました。
気になったわたくしは侍女に言ってロフトに続くドアを開けてもらいロフトに出ました。
わたくしの部屋は王城の2階になります。
ロフトの端から階下を見下ろすと、ちょっとした人だかりができていました。
中心には白いローブを身に纏った女性が座り込んでいます。
ここからでは顔まではわかりませんが、その服装からわたくしが輿入れしたのとほぼ同時期に賓客として滞在している大聖女ローザリア様です。
トルマリン王国ではラピス教が強く信仰されています。ラピス教は創造神ラピス様を信仰する一神教で、王国中に教会の支部が存在しています。
王都の大聖堂にある教会本部には教皇様がいらっしゃいますが、王国に絶大な発言力をお持ちで巷では政教一体などと言われているそうです。
大聖女ローザリア様はそのラピス教会に所属されていて、わたくしとそう歳の変わらない若干15歳にして神秘の力により王国を悪しき者から守護しているそうです。
悪しき者というのが良く分からないのですが、王国の外には魔族という者達がいて、代々の大聖女様が結界を張らないと侵略してくると言い伝えられています。
トルマリン王国の建国以来の約700年間そのようなことは起こっていないので、かなり古い文献にしか記載されておらず、本当にいるかどうかもわかりません。
また、大聖女様にはどんな傷や病も癒す力があり、神秘の力は代々ひとりにしか引き継がれないらしいので権力のある方しか癒してはいただけませんが、それらの大聖女様の力がラピス教会の立ち位置に強く関わっています。
わたくしはそう家庭教師から教わりました。
ローザリア様は昨年に先代の大聖女様が亡くなられる前に、ラピス様の神託により大聖女になられたばかりです。
最近になって大聖女としての勉強を終えられたらしく、王城に滞在して王家の方々と顔合わせをされています。わたくしも一度だけお話させていただきました。
元々平民のご出身だそうですが、儚げで美しい容姿で、とてもそうは見えません。とてもおっとりした優しそうな方で、わたくしもとても好感が持てました。
ラピス教は聖職者の婚姻を禁じておりませんので、第二王子様のお相手になるのでは、などとも噂されています。
大聖女様が王家に嫁ぐのは珍しいことではなく、実際に先代の大聖女様は王太后、つまり現国王様のお母様に当たります。
むしろ、国を守護する大聖女様を妃に迎えるということは次期国王への近道と言えるかもしれません。
そんなローザリア様が地面に座り込んでいるのです。ここからでは見えにくいのですが、近くでツボのようなものが砕けていました。先程の音はそれでしょう。
ローザリア様の側には王太子様や第二王子様とその側近達が集まっていました。
誰かがこちらを指差しています。
王太子様が差し出した手を借りてローザリア様は立ち上がりました。
良かった、特に大事ではなかったようです。大聖女様に何かあったら大変です。
ローザリア様が立ち上がる際に王太子様とローザリア様が見つめあっていたように見えたのが少し気になりましたが、わたくしは読書の続きを始めようと部屋のソファに戻りました。
部屋の外の廊下が騒がしくなってきました。複数の足音が近づいてきます。
ドンドンと乱暴にわたくしの部屋の扉が叩かれました。王太子妃であるわたくしの部屋にそのようなことをするのは余程のことです。
わたくしは慌てて侍女に扉を開けるように言いました。
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