【全7話】神回避 〜聖騎士団を追放されたが、覚醒した回避スキルで最強勇者へ〜
コータ
第1話 追放
「失礼致します。騎士団長ドグマ、副騎士団長レイモンド、以下団員代表四名、昨日発生した襲撃事件の報告に参りました」
騎士団長ドグマの声が謁見の間に響き渡る。聖騎士団員代表の一人である俺、シエルも彼と同じくひざまずいていた。我らがハーティア国の王様に、とある事件の報告に来たわけだけれど。
ドグマは俺より一つ年上の二十歳で、金髪の美男子であり貴族出身のエリート。前団長が戦死した時から、後任は彼しかいないという話になっていて、実際にそうなった。
もう何度も来ているけど、王様と姫様がいるこの部屋はとにかく緊張する。お腹が痛くなりそうだ。
「うむ。全てを包み隠さず、あるがままに報告せよ」
王様の声がいつもより冷たく感じた。その厳しさみなぎる声色で、きっとみんなも緊張していることだろう。
「は! 昨晩、王都に突如として凶悪な魔物が侵入してまいりました。事前情報が全くなく、我々は完全に虚を突かれた形となります。損害は、」
ドグマは説明を続けていたが、いつもの流暢さがない。まあ気持ちはわかる。
彼の話を簡単に説明すると、昨日の夜巨大な一匹の魔物に急襲されて、警備に当たっていた騎士や兵士数十名が死傷してしまった。王都は大変な騒ぎになったものの、結果的に増援がやってきて討伐できたという話だ。
特に俺はしんどかったね。何しろずっとソイツと戦っていたから。
ドグマの説明が一通り終了すると、王様は白くて長い髭を弄りながら、じろりとこちらを睨んできた。
「して、この度の失態は何が原因か。ドグマよ、肝心なところが答えられておらぬぞ」
「は! も、申し訳ございません。原因究明には今しばらく時間が掛かります。近日中に原因と、今後の対策をご報告致しますゆえ、何卒ご容赦を」
「今回のお前の報告は、ただ被害を受けた数字を伝えたに過ぎぬ。できる限り早い段階で再報告をせよ。良いな?」
「……はい。承知致しました」
いつにも増して重々しい雰囲気に、正直帰りたくて堪らなくなった。でもそんな空気の中、周りとは明らかに違う華やかな声がした。
「あの、お父様。私からも一言だけよろしいでしょうか」
国王が座る玉座の隣にはもう一つ玉座があって、そこに姿勢正しく着座しているのが、一人娘であるルル姫様。薄い桃色の長髪は貴族達からして『絶世の美女姫様』とか『悲劇の姫ルミナの再来』などと呼ばれている。
ちなみにルミナ姫とは、今は亡き亡国トラウエンの最後の姫だった人。五百年ほど前、この大陸で二つの国家が戦争を起こした。ハーティアとトラウエンという二国が戦争を起こし、勝利したのがハーティア国だったというわけ。実は、この城は元々トラウエン城跡地があった所に建てられたものなんだけど。
ちょっと話が逸れてしまったけど、妃様が病気で亡くなられて以来、国王様は誰とも婚約をしなかった。実はこの国にはたった一人しか王の血筋を継いでいる者はいないわけで。ルル姫様は、王様からとても溺愛されている方なんだ。
「おお。どうしたのだルル。構わん、言ってみなさい」
王様の声がとても優しくなる。ドグマの時とは正反対だ。
「この度の襲撃事件によって、沢山の皆様が帰らぬ人となってしまいました。本当に悲しく残念なことです。私も微力ながらお手伝いできればと考えています。至らない身ではありますが、何かありましたら遠慮なくおっしゃってください」
「は! ありがたきお言葉、身に滲み入る思いであります」
即答するドグマ。でも、正直姫様に何も頼めるわけない。彼女は自分の身分について、少し認識が足りないところがある。彼女の後ろには、常に怖ーい王様の目があるのだ。
「それから、この度最も勇敢に戦われたという、騎士シエル様。誠にありがとうございますっ」
え? いきなり名前を呼ばれて、俺は思いっきり挙動不審になる。しかも、ドグマがチラリと背後の俺を睨んできたような……。
「ほほう。お主か。最後まで魔物を引きつけて戦い続けていたという騎士は。発言を許すぞ」
王様からもうながされた。もう何か言わないとヤバイ。心臓が叩かれているような気分だ。
「は……はは! 勿体ないお言葉、誠にありがとうございます! 私としましては、無我夢中だったので、なんとも。なんとも、言えずでございます、はい。あ! えー。仲間の助けがあったからこそ、踏ん張ることができました」
「うふふふ」
やばいー。緊張のせいでロクに喋れない。なんか姫様が笑っているんだけど。国王様への報告だったり、いろいろ城へ呼ばれた時に話す機会はあったが、こんな厳粛な場所でも声をかけられるのは想定外過ぎるって。
「ほほう。仲間のおかげというわけか。では話はここで切り上げるとしよう。ドグマよ、今後絶対に魔物の侵入を許すな! これにて解散とする」
「はっ!」
帰り道の気まずさといったらなかった。ドグマはそれはもう俺の返答にカンカンだったからだ。
あーあ。まったく騎士って奴は、つらい職業だよなぁ。
◇
次の日、いつもどおり勤務についていた俺は、唐突にドグマに呼び出された。
聖騎士団長室への扉をノックし、中へ入って一礼をすると、彼は面倒くさそうに睨みつけてくる。
「もたもたしてないで、さっさとこっちに来い。いつも動きがトロくせえんだよ」
「すみません、ただいま」
足早に団長のプレートが置かれたテーブル前に来ると、ドグマは机にどかりと足を放り出した。これが聖騎士の態度かよ、なんてことは当然言えない。
「シエル。今日をもって、お前を聖騎士団から追放する」
「は! 承知しま……え?」
あれ。何か聞き違いでもしたかな。追放って言った?
「全く。本当にとろくさい野郎だなぁてめえは! 追放すると言ったんだ!」
「お待ちください団長。俺……私は何も追放されるようなことは」
「しているんだよ。お前は先日、魔物の侵入を許したばかりか、大勢の騎士達を犠牲にした張本人だ。本来ならば事件の責任をとり、投獄もしくは即処刑ということになるが、国王の慈悲により追放するという話でおさまったんだ。感謝しろ」
何を言ってるんだ? 俺は開いた口が塞がらなかった。何がどうして、騎士達を犠牲にした責任が降りかかってくるのか、見当もつかない。
俺は最前線で戦い、最小限度の犠牲でことを済ませたはず。それに現場での責任者はそもそも他にいた。報告書にもしっかり状況は記載しており、目前にいる男は全て目を通したはずなのに。
「仰っている話が見えませんが、何か誤解をされているのではないでしょうか。先日の報告書には目を通していただけ、」
「黙れ!」
強くテーブルを叩きつけ、ドグマは立ち上がると額をくっつける勢いで近づけてくる。目が血走ってるんだけど。
「まだシラを切ろうというのか。お前は最前線で敵を押さえていたのではなく、尻尾を振って逃げ出していたそうではないか。上長の指示に従わなかった貴様のせいで防衛陣形は崩れ、あろうことか街への侵入を許してしまったのだ! それが真実だ」
「……違う」
とんでもない誤解だった。いや、これはでっち上げだ。俺は震える拳を握りしめ、とにかく反論する。
「私は決して逃げてなどいません。むしろ、ずっと魔物を引き留め、攻撃を続けていました。証人だってちゃんといますし、」
「黙れ! 黙れ黙れ! まーだ解らんのか? 貴様のような魔法も満足に使えない低級庶民風情が、生意気にも我が報告に誤りがあるだと? ふん。もともとお前を採用した前団長の目も、節穴だったということだな」
この時、一気に湧き上がった炎みたいな怒りを忘れられない。とにかく自分を抑えることで必死になっていた。前団長は恩師であり、誰よりも優れた人格者だった。目の前にいる姑息な男とは全然違う。
「話は終わりだ。荷物をまとめてとっとと失せろ。今日中にな」
「……失礼しました」
声に怒気がこもっていたかもしれない。でも別にいいや。
ドグマは無茶振りな命令ばかりで、部下の騎士達を散々苦しめていた。そのくせ自分では何もしない。俺も騎士団で彼にこき使われているのは、きっと限界だったんだ。
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