第55話 竜と戦いました!
俺たちは村を出ると、南東の廃鉱を目指し進んだ。
廃鉱の入り口がある上には、急峻な山が広がっていた。
その頂上が天狗の住処となっているらしい。
ここを上るのは、なかなか大変そうだな……
しかし、俺たちにはゴーレムがいる。
乗せてもらえば疲れることなく登れる。
ゴーレムたちは俺たちを肩に乗せると、山を登り始めた。
天狗の一体が、驚くような声で言う。
「しかし、あなた方はいつの間にかこんな道具の数々を……村のほうも、人間のような建物ばかりで見違えましたよ」
その声にイリアが答えた。
「全てヨシュア様が作ってくださったのですよ。それより、あなた方はあまり私たちと関わりませんでしたが……」
「一族の掟でしてな。必要最低限の食料を得る以外には、山の下に行ってはいけないという決まりがあったのですよ。そして誰かと会っても、決して話さず、争ってはならぬとも」
天狗がそう答えると、イリアとメッテは納得したような顔をした。
会うことはあっても、争いになることはないと言っていたな。
この前やってきたアスハという天狗も、掟に忠実で無口だったのかもしれない……うん?
山を登っていると、頂上から数体、翼を広げた者たちがやってくる。
先頭の者は、俺が作った人工の翼をつけていた。
あれはアスハだ。
俺たちを案内にしていた天狗は、そんなアスハに向かって飛んでいく。
「若君! 面目ございません……北へ向かうのは失敗してしまって」
アスハは俺たちが助けた天狗の翼を見ると、頷いた。
天狗はアスハの返答を待たず喋る。
「ええ。彼らが助けてくださったのです。若君を助けてくださったのも、彼らだとか」
アスハがうんうんと頷くと、またもや天狗は一方的に話した。
「え? 帰っていただけと? し、しかし、彼らはかの黒い竜を倒す策があるようでして……危険だ。天狗以外の者に、助けを乞うわけにはいかない……た、確かにそれが掟ですが」
「あれ、聞こえているのか……?」
メッテは一方的にアスハに喋る天狗を見て、呟いた。
確かにアスハは何も喋らないので、会話には見えない。
しかし、天狗はアスハに「助けていただきましょう」と必死に訴え続けている。
アスハは俺たちを帰そうとしているが、俺が救った天狗たちは力を借りるべきだと対立しているようだ。
これでは埒が明かない。
俺とイリアはゴーレムから下りて、アスハの元へ向かった。
「アスハ。こうしている間にも、君たちの仲間が危険に晒されているんじゃないか? この前アロークローの肉を取った時もそうだったが、食料も満足に集められないのが現状じゃないのか?」
アスハは無言で、俺に視線を向け続ける。
「差し出がましいかもしれないが、掟に固執するのは得策じゃないと思う……君も部族の長なんだろう?」
「そうです。関わりが少なかったとはいえ、我ら鬼人と天狗は隣の部族同士。どうか、私たちを頼ってください」
俺とイリアの言葉に、アスハは沈黙する。
だがしばらくすると、俺たちにお辞儀をしてみせた。
そして山頂の方へ飛んでいく。
他の天狗たちは、俺たちに頭を下げる。
「若君はどうも無口でしてな……お願いしたいと申しております。どうか、よろしくお願いいたします」
「ああ、任せておけ」
俺たちは天狗の案内で、再び山頂を目指した。
一時間ほど経っただろうか、ようやく山頂が見えてきた。
ゴーレムだから直線的に山頂を目指せたが、徒歩なら蛇行するように上らなければいけないので五、六時間はかかったかもしれない。
振り返ると、村が見えた。
「おお、村だ!」
メッテが声を上げる。
小さいといえば小さいが、城壁に囲まれているのではっきりと認識できた。
「な、なんだか怖いな……姫の怒った顔を見た時と同じような……ひっ」
「メッテ、今から戦いなのですよ。それとも、敵に怖気つきましたか?」
「ま、まさか……姫と比べれば、この高さも竜も怖くありません」
メッテの返答にぴくっとイリアの眉間が動いた気がしたが、俺たちはそのまま山頂の付近へと到着する。
すると、山頂にはちょっとした平地があって、そこに黒焦げの建物が見えた。
恐らくは枝と、羽のようなもので作られていたのだろう。
鬼人たちよりも、もっと質素な生活をしていたのかもしれない。
「天狗たちは……横穴か」
山頂付近にはいくつか横穴があり、そこに天狗たちは隠れているようだ。
アスハは俺たちを見ると、指を一本立てて、静かにするように促した。
どうやら、近くにいるらしい。
俺は、忍び歩きで山頂へ進むアスハたちに付いていく。
すると、次第に巨大な黒い竜が見えてきた。
体長は十べートル近くあるか。
やはりと言うべきか、皮膚がただれている。
アンデッドで間違いない。
魔王軍はこんなのも投入してきたか。
いや、南の都市が簡単に落ちたのは、こいつのせいかもしれないな。
「よし、仕掛けるぞ……ゴーレムたちは二体ずつ別れて、イリア、メッテ、メルクに付いてくれ」
俺の命令通り、十体いたゴーレムたちは二人ずつ別れ、イリアたち三人に付いた。
残りの四体は、二体ずつ別れ、俺の護衛と予備兼天狗の守備を任せる。
「それじゃあ……三人は竜を囲むように動いてくれ。まずはイリアとメッテ、お前たちが竜の頭を狙うんだ。その矢で」
イリアとメッテには、特別な矢を持たせている。
矢じりに、エントの葉をすり潰したものを混ぜた鉄を使っているのだ。
「分かった。なあに、一撃で仕留めてみせるさ」
「ええ。必ず、当ててご覧にいれます」
「頼んだよ。その後は、矢をありったけ撃ち込んでくれ。メルクは杖で竜に回復魔法をかけてもらう。くれぐれも近づこうとはしないでくれ」
「分かった。大人しくしてる」
「よし、ならあとは大丈夫だ。えっと、アスハ……君たちは少し離れていてくれたほうが」
しかしアスハは首を横に振った。
俺たちを案内してくれた天狗の一体が言う。
「我らにも何かやらせてください! あなた方だけを危険な目に遭わせるわけには!」
「そうか……なら」
俺は魔法工房から袋を十個ほど取り出した。五個ずつに分けて、離れた場所に置く。
「二つ、頼みたい。一つはこっち側の袋。これはあの二人……イリアとメッテが矢を竜に当てた後、上空から竜へとばらまいてほしい」
これはエントの葉と回復効果のある植物を粉末にしたものを入れた袋だ。
皮膚に触れれば、竜は痛がるだろう。
傷口に上手く入ったり、口から吸い込めば、苦しむはずだ。
「分かりました。上空から放てばいいのですね」
「ああ。そしてもう一方だ。これには砂が入っている。竜が炎を出したらその炎に向け、撒いてほしい。その後はすぐにこの場から離れること」
もう一つは消火用の砂。
火を消すのに砂をかけるというのは、人間がよく使う手段だ。
俺の言葉に、天狗たちはうんと頷く。
アスハも袋を持った。
「よし、行動開始だ……皆、位置についたな」
俺はイリアとメッテ、メルクがそれぞれ竜の周囲に展開するのを確認した。
俺が手を上げるのと同時に、イリアとメッテが竜に矢を射かける。
二本の矢は見事、竜の頭に深く突き刺さった。
その瞬間、竜は断末魔のような悲鳴を上げる。
上空からは、天狗たちがエントの葉の粉末を降らせてくれたようだ。
竜は悲鳴を上げながら、その場で暴れだす。
だが、やはりそう簡単には死なない。
「よし、効いてるな! 俺たちも行くぞ!」
同時に俺は、ゴーレム二体を前にして、竜の前へと駆けだした。
囮は俺。
その間に、イリアとメッテの矢で弱らせる。
矢はすでに、五本ほど竜の身体に突き刺さっていた。
さすがに暴れまわっている相手に、頭だけを撃つのは難しい。
メルクの杖も竜の各所へ回復魔法を掛けている。
順調に攻撃出来てるな。この分なら楽勝か……いや。
竜は一番近くにいる俺に向かって、口から黒い炎を吐き出す。
「クラフト──サンド!」
俺はとっさに、岩を砂にしたものを炎に向け放つ。
天狗も指示通り、炎に砂をばらまいた。
だが炎の勢いは弱まらない。
「駄目か……クラフト──ウォール!」
俺はとっさに、厚い石壁で炎を防ごうとした。
だがそれはバターのように溶かされ、結局はモープの毛の盾を持ったゴーレムがそれを受け止めた。
しかしそのゴーレムに通用しないと分かったのか、竜は火炎を全方位へ向け吐き出していった。
イリアたちはすぐに後退し、その炎から逃れる。なるべく避けるよう命じたからか、ゴーレムも一緒に火炎を避けた。
少し甘く見ていたな……あの炎はモープの盾でようやく防げるぐらいか。
しかも今炎を受け止めたゴーレムの盾を見るに、長くは防げない。今のを三回も喰らえば、盾は壊れてしまうだろう。
加えて、竜は旋回しながら炎を吐き出し、攻撃をなかなか止めようとしない。
このままでは、イリアたちも攻撃のしようがない。
以前のように石炭を周囲に振りまくか?
……いや、元はファイアードラゴンだろうし、炎は効かないだろう。
となると、やはりエントの葉を使うしかない。
攻撃がいったん収まったら、口に向けて放ってみるか……うん?
イリアは天狗へと手を振った。
するとアスハはその元へ向かう。
「何をするつもりだ……いや」
イリアはアスハの腕を掴むと、そのまま空へと上げてもらった。
どうやら、イリアは上空から下りて、刀で竜を斬るらしい。
刀にはエントの葉の粉末を振りかけている。
随分と無茶をするな……だが、この状況を打開するには上空からしかない。
俺は竜の注意を逸らし、イリアに斬るための時間を与えることにした。
「ゴーレム! 前進だ!」
俺の声に、ゴーレム二体は盾を前に前進していく。
それに気が付いた竜は、俺たちに火炎を集中させた。
同時に俺はありったけの岩を砂にして、その火炎に降らせていく。
竜も必死なのか、炎は更に勢いを増していった。
しかしその時、天狗によって刀を振り上げたイリアが、竜の首に向かって勢いよく放り投げられる。
イリアはその勢いを借り……竜の長い首に刀を振り下ろした。
首を失った竜が地響きを立て倒れると、天狗たちから歓声が上がるのだった。
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