第56話 天狗が仲間に加わりました!

「やった! 竜が死んだぞ!」


 後方の天狗たちから喜びの声が上がる。


 そんな中、俺はすぐさまイリアに駆け寄った。


「イリア、大丈夫か?」

「はい! ヨシュア様が気を引いてくださったおかげです! 思ったよりは、柔らかかったですね」

「あ、ああ……まあ、それだけイリアと、鬼人の角が強いってことだろう」


 ファイアードラゴンの皮膚は分厚いし、それ以上に竜の骨は鋼鉄のように頑丈だ。

 それをここまで綺麗に一刀両断するとはな……


 俺は首を落とされた黒い竜を見て、少しぞっとした。


 シュバルツ騎士団だったら二百人、三百人は人員を要しただろう。

 その上、大量の死傷者がでていたはずだ。


「ともかく、早めに仕留められてよかった……天狗たちも喜んでいるようだな」


 これ以上の犠牲者を出さなくて済んだ。

 いや、まだ他の魔王軍がいるかもしれないが。


 ただ、さすがにこの竜をあと何体も魔王軍が持っているとは考えづらい。


 この山は見晴らしがいい。

 西の、南北に伸びる街道が見渡せる。


 ここを拠点に、強力な黒い竜を配置させ、人間の軍に備えようとしたのだろう。

 

 まあ、アンデッドをどこまで操れるかは分からないので、推測でしかないが。


 同様に、アンデッドの身体はどれだけの部分が使えるかも分からない。


 メルクが俺に訊ねてきた。


「これ、食べられそう?」

「腹を壊すどころじゃ、すまないんじゃないかな……ただ爪や骨は使えるかな……」


 竜の爪や骨は頑丈で、人間は鎧や盾の素材として用いることもある。


 だが、人間にとっては竜自体との遭遇が稀なので、滅多に市場に出回ることはない。

 一部の王族などが、家宝として所有しているぐらいだ。


 また、こいつは持っていないが、竜も種によっては鱗を持っており、それも大変価値のあるものとされていた。


 鱗も骨も、鋼鉄を遥かに上回る強度を持つ。

 比べられるようなことが起きるのは稀だが、アーマーボアの鱗や黒魔鉄よりも頑丈なはずだ。

 それでいて、同じ大きさの鉄よりも軽い。


 鬼角と比べると……どうなんだろうな。結果としてはイリアの鬼角のほうが優れていたことになると思うが。


「皮膚も使えるかもしれないが、肉は早く焼いたほうがいいだろう。腐らせるのも怖いし早めに解体したい、何より他の魔物に見つかると厄介だからな……解体はこっちで済ましていいかな、アスハ?」


 アスハは無言でこくりと頷く。


 周囲の天狗たちも異議を唱える者はいないようだ。


 俺はすぐに黒い竜を魔法工房へと送り込む。


 そうして竜の解体を始めた。


 まずは火で、その体を焼いていく。すると皮膚と骨だけが残る……はずだったのだが、一つ見慣れないものがあった。


 宝石のルビーのような色をした結晶だ。


「……これは魔石か?」


 赤い魔石は、火属性の魔力が上達しやすくなるんだったな。

 しかしここまで大きく、澄んだ赤色をしている魔石は初めてみた。


 イリアが俺に訊ねた。


「魔石? 以前、デビルスネークを倒した時に手に入れた、魔石ですか?」

「ああ、恐らくは。だが、今回は回復魔法じゃなく、火の魔法だ。この前倒したバーニッシュのような魔法を使えるようになるかもしれないな」


 俺は赤い石を見せて、イリアに答えた。


 メッテとメルクもそれを見て目を輝かせる。


「メルク、それも欲しい」

「いや、今度は私だ! メルクはもう、魔石の杖を貰っただろう?」

「メルクも炎をばばっと撃って、格好良く戦いたい」

「それを言えば、私も魔法を使ってみたいぞ!」


 二人が口論する中、俺はアスハに声を掛ける。


「アスハ。竜は倒せた。だが、これからも魔王軍はやってくるだろう……ここは、俺たちの同盟に加わらないか?」

「……同盟?」


 アスハは小さな声で訊ねてきた。


「フェンデル同盟……亜人が結束して、故郷を守る集まりだ。この村の再建と、道具や武器の生産を俺たちが手伝う。食料も提供できるようにしよう。代わりに、君たちも俺たちに力を貸してほしい……君たちが手を貸してくれれば、空から敵の侵入を察知できる」


 だが、俺の声にアスハは沈黙する。

 寡黙で無表情なアスハだが、今の俺の言葉には少し苦悩しているように見えた。


 俺たちをここまで案内した天狗は、そんなアスハに訴える。


「若君も、彼らの村を見たでしょう? 今度またあのような敵が現れた時、彼らのような武器や道具が必要です。お父上の遺言は確かに大事でありますが……何卒、ご決断を」


 周囲の天狗もアスハに決断を迫る。


 すると、アスハはこくりと頷いた。


「お願いします……あの」

「ヨシュアだ。こちらこそ、よろしくな。アスハ」


 俺はアスハに手を差し出す。

 アスハはその手をぎゅっと握るのだった。

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