第35話 羊が仲間に加わりました!

「メッメー……セレスが、倒れちゃったっす……」

「もう駄目っす! 俺たちも終わりっす!」


 モープたちは、口々に「メッメー」と嘆きだした。


 そんな中、俺はイリアの元に向かった。


 馬を下りると、イリアがいつもの顔で振り返る。


「ヨシュア様、いかがいたしましょう?」

「もう戦意はないようだ。話ができるようだし、ちょっと聞いてみるか」

「かしこまりました」


 イリアは鞘に刀を納めた。


 俺はモープのボス──セレスと呼ばれていたモープに回復魔法をかける。


「メッメー……これは回復魔法っすか……メッ!?」


 モープは何かを見て、もふもふの体を震わせた。


 視線の先にはイリアを恐れているらしい。


 俺は怯えるセレスに言う。


「安心しろ。俺たちは、お前たちを殺すつもりはない」

「そ、そうすっか。いや、ご、ごめんなさいっす。人間に襲われたばかりだったんで……」


 セレスはすぐに頭を下げた。

 他のモープも震えながら同様にする。

 皆、俺というよりはイリアを恐れているのかもな……


「そうだったか……君たちは、魔王軍の者なのか?」

「ま、まあ、そうすっね。でも、ずっと狭い小屋に閉じ込められていて、逃げることにしたんっす……毎日泥みたいな水と、腐った肉ばかりで……最悪だったんすよ」


 つまり毛と乳を得るためだけに、閉じ込められていたということだろうか。

 普通の羊は広い草原で育てられるわけだし、確かに最悪な環境だな。


 セレスは寂しそうに続けた。


「でも、逃げたはいいものも、どこも人間や他の魔物ばかりでとてもゆっくりできなくて……やっとここを見つけたと思ったんすが」

「なるほど。残念だが、このままどの方向に行っても、人間の領地だ」

「そうっすか……見つかったらまた襲われちまうっすね」


 セレスは途方に暮れたような顔をした。

 他のモープも、「メッメー」と悲しそうに鳴く。


 すると、イリアが俺の服の袖を引いた。


「ヨシュア様。もしよかったら、彼らを……」

「いいのか?」

「はい。盟主のヨシュア様にお任せしますよ」

「ありがとう、イリア」


 イリアの許可も得たので、俺はセレスに声を掛ける。


「セレス。だったら、この近くを住処にしたらどうだろう?」

「い、いいんすか? ここはあんたたちの土地じゃ?」

「その代わりと言っちゃなんだが、お前たちの毛や乳を分けてくれないだろうか? こっちも食事や、家を提供する。もちろん新鮮な草や魚を出すし、移動も自由にしてくれ」


 俺たちもモープたちの毛や乳が欲しい。

 とはいえ、彼らはそれが嫌で逃げてきたのだろうし、無理は言えないが。


 だがセレスは即答する。


「本当っすか? 家まで貸してくれるなんて! うちらは大歓迎っすよ!」

「そうか。こっちも実は、ちょうど毛が欲しくてさ。助かるよ、セレス」


 俺はセレスに手を差し出す。


「よろしくっす! えっと……」

「ああ、ごめん。俺はヨシュアだ。よろしくな」


 セレスは顔を明るくすると、前脚で握手してくれた。


 こうしてモープたちは、俺たちの仲間に加わるのだった。

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