第28話 罠を巡らせました!

「よし、完成だ」


 俺がそう呟くも、すでに周囲はとっくに驚きの声を上げていた。


「い、石の壁が……」

「ひ、一人で作ったんだよな、あれ?」


 エントと同盟を組んでから、俺は城壁を造り続けた。


 イリアは、エントが森に住むにあたって、エクレシアと色々取り決めをしている。

 重要なのは木をどうするとかだろう。そこはイリアに任せることにした。


 城壁だが、村全体ではなく奴隷狩りがよくやってくる北側を中心に囲んだ。


 戦いの際は皆にこの中へと避難してもらう。


 もちろん、村全体を覆いたかった。

 だがいつ襲来するかも分からないので、急ぎ砦を築いたのだ。


 あとは塔の上に兵器を作るか。


 塔に向かう途中、エントたちの傷を杖で癒しているメルクに出会う。


「メルク。俺の代わりに悪いな」


 俺は一刻も早く城壁を造る必要があった。

 だから、メルクにエントたちを治療してもらったのだ。


 杖の効果はやはり良いのか、エントたちはだいぶ元気になっている。


「ヨシュアは悪くない。せっかくもらった杖だから、使ってみたかった。それに治療するの楽しい。猪狩りと同じぐらい」

「そうか、引き続き頼む。なあ、メルク……話は変わるんだが、人狼の足の速さを見込んで頼みたいことがあるんだが」

「いいよ。皆も協力したがってる」

「ありがたい……実はここからまっすぐ北に行って、奴隷狩りを探してほしい。見つかったら距離を取りながら、あの北の城壁の前に誘導してほしいんだ」


 あらぬ方向から来られると、こちらも困ってしまう。


 北に砦を築いたからには、北に来てもらう必要があるのだ。

 そこに罠も設置したい。


 間を置かず、メルクは首を縦に振った。


「わかった。足の速いのに頼んでみる」

「よろしく頼む。命がけの仕事だが、どうしても必要なんだ」

「大丈夫。全て任せる」


 メルクは力の抜けた声で応じると、すぐに人狼たちを集めた。


 それから塔の上に行くと、メッテが鬼人たちに何かを教えていた。

 胸壁に姿を隠す訓練をしてるようだ。


「火や矢が見えたら、すぐに体を下げるんだ! ……お、ヨシュアじゃないか? 何か用か?」

「いや、ここに兵器を作りに来ただけだよ」

「へい、き……ああ、平気ってことか! もちろん、平気じゃないとな!」

「あ、ああ、確かに」


 俺はメッテにそう答えると、塔の上に木製の土台を作った。


「これで平気の儀式をするのか?」

「いや、武器だよ……クラフト──カタパルト」


 俺が唱えると少しして、土台の上にカタパルトという巨大な弩砲が現れた。


 それはクロスボウと形が似ているためか、メッテがこんなことを呟く。


「ま、また随分と大きなクロス棒だな。台に乗ったクロス棒というか」

「ああ、これはカタパルトって言ってな。クロスボウより、もっと大きな矢や石を飛ばすことができる」

「へえ。撃ってみてもいいか?」

「もちろんだ。矢を作るよ。その間に、後方のそのレバー……棒を倒してくれるか」

「こうか? おお、弓とクロス棒と同じように、弦が動いたぞ」

「いっぱいまで引いたな。そしたらこれを置いて」


 俺は太めの槍を作成し、それをカタパルトに置いてみる。


「そしたら、撃ちたい方向へ動かす。一人より二人のほうが動かしやすいが。いや何の心配もいらないか」


 メッテはカタパルトを軽々と動かしてみた。


「あとは、後ろの引き金を引くだけだ。好きな場所を撃ってくれ」

「分かった。あの岩を狙う」


 メッテは草原にある岩を指さすと、引き金を引いた。


 ビュンという大きな音が響き、土台に振動が走る。

 カタパルトから放たれた槍は見事岩に当たった。


「おお。これはこれで面白いな! 槍が太いから、大きな獲物も仕留められる。何が来ても平気……だから、平気というわけか」

「まあ、そんなところだな。それにこれは槍だけじゃなくて、石を撃つこともできる。それとあれも……」


 俺は南方に顔を向けた。


 すると、続々と向かってくるスライムたちが見える。


 俺は塔の下に行くと、スライムたちが運んできた黒い物体を回収した。


 そしてそれを細かく念入りに粉々にする。


 それから俺は、エクレシアにも協力を要請した。

 奴隷狩りを倒すためにだ。 


 その夜、人狼の遠吠えが北から響くのだった。

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