第16話 戦略を練りました!

 人狼が来た夜、俺は自分の天幕に戻っていた。


「なるほど。やはり人狼も襲われていたのか」


 俺の声にイリアは頷く。


 メルクたちマリティス族の村は、ここから北に五時間ほど歩いた場所にあったそうだ。

 だが昨夜、二百名程の奴隷狩りの集団が村を襲い、天幕という天幕を焼き払われてしまう。


 先程倒した奴隷狩りはそれとは別の隊で、たまたま遭遇したところを追われたとか。


 結果、千名ほどいた一族の半数が囚われの身となり、その他はメルクたちのように逃げた。散り散りとなったため、まだ合流できてない者もいるとか。


 うむ……思っていたよりだいぶ、奴隷狩りは多いようだ。


 そこまで大規模な集団となると、どこかに拠点のようなものを構え、そこに奴隷を収容しているはずだ。

 数が揃い次第、各地へと売りに出るのだろう。


 あるいは自給自足ができるような拠点で、そこで奴隷を働かせている可能性もある。亜人の奴隷売買は大陸各国で非合法だし、大部分は農場やらで働かせているかもしれない。


「できれば、解放したいが……」


 しかし拠点がどこにあるかも分からない。

 それ以上に、彼らの拠点を落とす戦力を俺たちはまだ持っていない。


 イリアは深刻そうな顔で頷く。


「我らフェンデル族も、この一年ですでに十名近くが捕えられていまして……」


 そうだ、この周囲にも奴隷狩りが多数出没している。

 北のマリティス族がやられたのなら、次は南のここが焼き払われてもおかしくない。


 打って出るにせよ、守りに徹するにせよ、より防備を固める必要がありそうだ。


「そうか。なんとかできるよう、俺も頑張るよ。人狼たちは、しばらくはここに?」

「できればとお願いされてます。私としては迎えいれたいのですが、家が……」

「天幕が足りないってことか。そこは任せてくれ。いくつか、簡単な小屋を建ててくるから」

「本当ですか? それでしたら、皆納得するかと思います! あっ」


 イリアの胸で寝ていた小さな狼、メルクが目を覚ました。


「おはよーイリア……じゃなかった」


 とても間の抜けた喋り方だ。

 昼はまだしっかりしていたと思うが、これがメルクの素の喋り方なのかもしれない。


「ふふ、イリアで大丈夫ですよ。起こしてごめんなさい。疲れてるでしょうから、まだ寝てて大丈夫ですよ」

「そーする」


 再びメルクはすやすやと眠りについてしまった。


 すると、イリアは寂しげな顔でメルクを撫でる。


「両親は奴隷狩りに殺されてしまったようで……一族は、メルクさんに後を託したようです」

「そうだったか……」


 すぐにでも奴隷狩りを止めないと、同じような悲劇が繰り返されるだろう。


 だが、先も言ったが俺たちの戦力はまだまだ貧弱。

 装備を整えるのには、もっと素材が必要だ。


 今日見る限り、鬼人たちは木材を集め、ヘルアリゲーターも十匹ほど狩ってきた。


 これなら更に櫓を増やしたり、皮の鎧や盾も作れそうだ。

 

 あと必要なのは、やはり金属だな……


「なあ、イリア。この近くに鉱山……洞窟はあるかな? なるべく広いか、誰かが掘ったような場所だといいんだけど」

「それなら、南方にあります! 四角く掘られた穴で、誰かが作ったのだろうと言ってました! ぴかぴかの石もあるようです」

「鉱床……廃鉱で間違いなさそうだな。どれぐらい、かかりそうだ?」

「三十分もあれば、到着するかと。明日、ご案内いたします!」

「そうか、それは助かる」


 馬も手に入れたし、十分もかからないだろう。


 その日俺は、十五軒ほどの小屋を建ててから眠りにつくのだった。

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