第7話 更なる強敵を狩りました!

「し、しまった! 私はまた……」

「いや、音というか、血の匂いで異常を察知したのかもな……」


 アーマーボアは肉食ではないが、とても好戦的で、目に入った動物はなんでも殺しにかかる。

 戦いの匂いを嗅ぎつけたのかもしれない。


 しかも、結構大型だ。

 俺の背丈よりも体は高く、正面からは馬二頭ほどの体複がある。角に至っては、一べートルはありそうだ。


 メッテは慌てた様子で俺に言う。


「す、すまない! 私が囮になるから、ヨシュアは逃げてくれ!」

「大丈夫だ、メッテ。魔王軍はこいつらを飼いならしていてな……子供のとき、戦ったことがある」


 俺はそう言って、アーマーボアの前に向かった。


「む、無茶だ!」


 メッテがそう言うも、こいつぐらいなら何とか倒せる。


 いや、子供のとき倒せたんだ。今、倒せなきゃ、昔より衰えたことになる。


「──アブソーブ」


 俺は地面に手を向けると、岩を吸収した。


 そして猛スピードで突進してくるアーマーボアに、犬一匹の大きさに固めた岩を放つ。


 アーマーボアは頭を下げると、角を前に更に足を速めた。


 がしゃんという、岩が崩れる音が響く。


 アーマーボアはその角で岩を砕いたのだ。


 すると、突如アーマーボアは咳きこむ。


 岩の中には砂状にした岩を仕込んでいたのだ。

 砂埃がアーマーボアの口と目を襲う。


 これは俺は前線で戦っていたとき、生産魔法を活かすため編み出した戦術だ。


「今だ……クラフト──スチールブレイド」


 俺は鉄の刀を生成し、それを手に走る。


 砂埃が収まると同時に、俺は刀でアーマーボアの口を突いた。


 見ると、刃の先が口から頭を貫いていた。


 俺が刀を抜くと、アーマーボアは大きな地響きを立て、倒れる。


 メッテが震えた声で呟く。


「う、嘘? ……アーマーボアを、殺したのか?」

「魔王軍のやつより、単純だったよ。鍛えられたやつは、途中で止まることを覚えるからな」

「そ、そういうものなのだな……と、ともかく、すまなかった。これからは気をつけるよ」


 メッテは俺に、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「いや、気にするな。それよりも、クロスボウの威力は分かってくれたな?」

「あ、ああ。本当に素晴らしい武器だよ……」

「残りの鉄を考えると、三十丁は用意できるかな。帰ったら、早速つくろう」

「そ、それはありがたい! これなら、一族の者も簡単に狩りができるはずだ! 頼む!」

「任せとけ。とりあえずは、このアーマーボアとヘルアリゲーターを持ち帰るとしよう」

「ああ。今日はいっぱい肉が食える! 一体は私が持てるが……一度、村から人手を」

「いや、俺も運ぶよ。吸収(アブソーブ)」


 俺はアーマーボアと、四体のヘルアリゲーターを魔法工房へと吸収した。


 メッテは目をぱちぱちと瞬かせる。


「え? 消えた?」

「さっきも枝や糸が消えるのを見ただろう? これも魔法だよ」

「す、すごいな……」


 たしかに、俺も全ての魔物を吸収するのは無理だと思っていた。

 昔だったら、一体の吸収すら難しかったはずだ。


 これも魔力の扱いが上手くなったからかな。ともかく、昔より成長してるのだろう。


「……よし、帰ろう。皆、腹を空かせてるだろうし」

「あ、ああ!」


 俺とメッテは、フェンデル村へと帰った。


「どうだ! ヘルアリゲーターだぞ!?」


 メッテはフェンデル村に帰るなり、アーマーボアと四体のヘルアリゲーターを地面に並べ、村人たちに見せた。


 村人たちは、久々の大収穫なのか声を上げる。


「すげえなおい! 全部メッテがやったのか!?」

「ああ! この、ヨシュアがつくった……クロス、棒のおかげでな!」


 メッテは自慢するようにクロスボウを皆に見せつける。


「く、クロス棒……すごい棒だ」

「こんな棒で、こいつらを狩れるなんて……」


 村人たちは、まるで神像を崇めるようにクロスボウに目を輝かせた。


「さっ、ともかく今日は皆で肉を食べよう! 早く処理しなければ、虫がたかる」


 そう言うメッテは、やはり尖った黒曜石を取り出した。


「待て、メッテ。ナイフならすぐ切り分けられるだろうが、ナイフでもこの量だと解体に時間がかかる。俺が肉と皮に分けるよ」

「それはありがたいが……できるのか?」

「ああ。魔物の死体も素材として処理してたからな……」


 俺はすぐにアーマボアとヘルアリゲーターを再び魔法工房へと送り、食肉、皮、骨に分解する。アーマーボアはそれに加え、鉄のような鱗も取り出す。


 それを巨大な切り株の上に召喚してみると、メッテが声を上げた。


「な、もう肉に!?」

「焼くこともできるぞ。保存のために凍らせることも」

「そ、そんなことまで。魔法とは……ずいぶん便利なものなんだな」

「結構、練習しないといけないけどな」

「へ、へえ。相当、練習したんだな」


 メッテは感心するように言った。


 俺は生産魔法を十年使い続けたが、他者と比べてどうなのだろうか。

 人並み以上にはなっているといいが。


 メッテは肉を手にすると、血だらけになり言った。


「よおし! とりあえず今日は肉だ! 皆、食べるぞ!!」

「おお!!」


 鬼人たちは皆嬉しそうに、焚火で肉を焼くのだった。

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