コイ×コイ!

アキサクラ

Chapter1

第1話

———「実はね、私ずっと、佐藤くんのことが好きだったのっ!」


私がそう言いきると、佐藤くんはポッと頰を赤らめる。なんて言われるのかが怖くて、握った拳がぷるぷると震えている。

「俺もお前のこと、ずっと好きだった」

窓から差し込んだ西日が、優しく私達を包み込んだ。

そして。

ゆっくりと互いの顔を、近づけていった——。

             END



なーんてこと、私の身には起こったことがない。そもそもここでENDなんてあり得ないし。

そう思い、本を閉じた私——小夏雪月こなつゆづき——は屋上に続く階段から立ち上がった。



親の都合で中学入学と同時に、新潟から東京都にあるここ、桜坂さくらざかに引っ越してきて、近くの公立の中学校、桜坂中学校に入学した。入学してから一ヶ月がたったものの、私は今でも一人のまま。小さい頃から人見知りで、友達を作るのが下手くそだった。

案の定、知り合いのいないこの中学で友達なんてできるはずもなく。授業間の休憩時間や昼休みは高校二年の姉、満月みつきに借りた本を読みふける毎日だ。

‥‥‥とはいえ、お姉ちゃんの本、恋愛系多すぎる。私、そんなに好きじゃないんだけどな‥‥‥。文句言える立場じゃないから言わないけど。



教室に戻り、席についたと同時にチャイムが鳴り、少し遅れて先生がやってきて、数学の授業が始まった。



HR終わりのチャイムが鳴ると同時に教室は騒がしくなる。私はいつもにように手早く荷物をまとめ、教室を出た。

私は部活に所属していない。入りたい部活がなかったからことと、新しい人間関係を築くことにおっくうになっていたからだ。



マンションのオートロックを解除し、エレベーターと少し迷ったが運動不足を感じ、五階まで階段で登ることにした。


「ただいま」


玄関を開け、そう声をかけるが返事はない。

私の家は共働きで、帰るのが遅い。お姉ちゃんはまだ学校から下校しておらず、ひとつ下の弟、夢月むつきは、遊びに行っているのかいなかった。



「今日の夕飯当番は、私か」


うちは両親の仕事が忙しいため、三兄弟、日替わりで夕食を作る人が決まっている。

さっと制服からいつもの服に着替え、買い物カバンを持って家を出た。


「今日は確か、鶏肉が安いんだよね‥‥‥」


今日の夕飯を考えつつスーパーに向かう。

確かここを曲がったら、スーパーへの近道なんだよね。

この前お母さんが言っていたことを思い出し、右手に曲がる。しばらく進むが、一向に大きな道に出る気がしない。



「‥‥‥あれ、ここ、どこだろ」


気がついたら、小さな店の前だった。


「『能力屋 〜超能力、多数取り揃えております〜』?」


私は看板に興味を持ち、誘われるように店の中に入った。

小さな店の中には、沢山の石のようなものがある。


「いらっしゃいませ‥‥‥って、あれ、小夏さん、だよね」


店員さんを見ると、同じクラスの‥‥‥、


高城たかじょう、くん?」

「そうそう!俺、高城蓮翔   れんと!」


確か、野球部に所属していたと思う。運動神経がよく、勉強もまあまあできたんじゃないだろうか。


「もしかして買いに来た?能力」


もしかして、本当に‥‥‥?


「能力が、買えるの?」

「当たり前だろ!能力屋だもん!欲しい能力は何ですか?」


私は商品をじっと見つめ、選んでいく。


「‥‥‥私が欲しい能力は——」



高城くんにスーパーへの道を教えてもらった。

無事買い物を終え、スーパーを出ると、もう空が淡い赤色に染まり始めていた。


「能力、か」


私は胸元にある小さな石に手を当てた。

もともと石だったのものを、高城くんがネックレスにしてくれたのだ。



「ただいま」

「雪月、遅い。腹減った」


いつの間に帰って来ていたのか、夢月が出てきて文句を言う。家には夢月しかいないみたいだ。時計を見ると、六時半を回っていた。靴を脱いで夢月の横に立った。

‥‥‥夢月、大きくなったな。気がついたらもう、身長抜かれてる。ひとつしか変わらないから前まではそんな変わらなかったのに、今じゃどっちが上か分かんないや。呼び方も気がついたら呼び捨てになってるし。

私はキッチンに入り、夕飯を手早く作る。


「よし、できた」

「ただいまー」


できたと同時に帰ってきた、お姉ちゃんの声だ。


「ご飯、できたよ」


そう声をかけると、汗だくのお姉ちゃんがやってきた。

‥‥‥まだ五月なのにその汗、すごい。

とりあえず風呂はいる、とお姉ちゃんは言い、私と夢月で先に食べ始めることにした。


「「‥‥‥」」


お互いの間に痛い沈黙が流れる。

年が近いとはいえ、小さい頃から仲がいいわけではなかった。性格が真反対で、馬が合わないから、どちらかというと、お姉ちゃんと夢月が仲が良かった。


「はー、さっぱりした!!今日のご飯は雪月が当番か。どーりで盛り付けがきれいなわけだ」

「どーいう意味だ、満月」


どーもこーも。夢月の盛り付けは、お世辞にもきれいとは言えないからなあ。

私は苦笑いしながら箸をすすめる。


「いっただっきまーす!」


少し遅れて食べ始めたお姉ちゃん。急に食卓が騒がしくなる。


「‥‥‥あの」


私は会話の切れ目にふと問う。


「超能力が手に入ることって、あると思う?」


夢月もお姉ちゃんも、箸を止め、まじまじと私の顔を見つめる。


「あ、あの‥‥‥?」


いたたまれなくなって私は味噌汁を一口飲む。


「急に雪月がそんな事言うなんて」

「驚きだ」


二人は顔を見合わせて呟く。あのね、聞こえてるからね、普通に。

お姉ちゃんたちに言ったのが間違いだった。


「あたしはあると思うよ」

「俺はないと思う」


二人は同時に答える。

私は何も答えずに流しへ皿を置き、自室へと向かった。



私は胸元にしまっていた石を取り出す。

部屋の明かりに反射して、キラキラ光っている。



ピンク色の光を放って。

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