わたしの
かぼちゃ
わたしの嫌いな子
お父さんの仕事の都合で引っ越してから、友達が一人もできない。
休み時間に話してくれる子は一人もいない。
私と話すとイジメられるらしい。
お父さんが転勤族だから、今までにも転校はしてきた。
中学に上がってからはこれが初めてだけど、小学生の頃なんて四度も転校して、一回なんて転校してから三カ月後にまた転校っていうこともあった——この時はお父さんと初めてケンカしたけど。
初めて自分が転校生になって、クラスメイトの前で自己紹介をしなくちゃいけないって知った時は、朝ごはんを全部戻しちゃいそうなぐらい緊張したけど、それさえ終わっちゃえばなんてことはなかった。
話しかけてきた子と友達になって、だんだん友達が増えて、いつも学校は楽しかった。最初にちょっと緊張するだけで。
だけど、今度の学校はこれまでの学校とは全然違った。
今までの学校はいつも都市部だったけど、今度は田舎町。山の中でなにも無くって、周りにあるのは木ばっかり。
でも一番驚いたのは、全校生徒が私を入れて八人しかいないこと。
三年生が二人。二年生が三人。一年生が私が転校してきたから三人。
それだけしかいないからクラス分けもなくて、みんな同じクラスで授業を受けてる。
初めの頃は良かった。
都会から引っ越して来た転校生だから、私はみんなの注目の的だった。
休み時間にはみんなが私の机の周りに集まって、色々なことを聞いてきてくれて、私もそれが嬉しかったし、早く学校に馴染みたくて一生懸命に答えてた。
たまに言葉の意味が分からなかったり、なんて言っているのか聞き取れなかったりする時もあったけど、全然みんなと仲良くやれてた。
でも、三年生のケンタ君だけは違った。
いつも私のことを変な目で見てきて、ニヤニヤしたり、一人でクスクス笑ったりしてきて、すごく気持ちが悪かった。
すごい気持ちが悪くてお母さんに相談したら、一緒に学校の先生のところに相談しに行ってくれた。
でも先生は——色んな子がいますからねって言うだけで、なにもしてくれなかった。
ケンタ君は地元のお偉いさん家の子で、みんな強く言えなくて困ってたらしい。でも、きっと一番困ってたのは私だと思うし、学校の先生ぐらいは私のことを助けてほしかったのに……
その内にケンタ君の顔を見たくなくなって、嫌悪感で胸がいっぱいになった。
学校に行きたくないって何回もお母さんに言ったけど、いつも言うことは同じで、
「ここに住めなくなっちゃうから」
「お母さんも我慢してるの」
って、泣いてわたしに謝ってくるだけ。
お母さんが泣いてる姿は見たくなかったから、ケンタ君のことはいつも我慢してた。でもわたしだって我慢の限界だった。
それなのに……ケンタ君はわたしのこと好きだって言うんだから許せなかった。
帰ろうと思って下駄箱に行ったら、わたしの靴の上に手紙が置いてあって、周りの子たちがキャッキャッと囃し立てるから読まなきゃいけなくなっちゃった。
宛名は書かれていなかったけど、手に取った時から嫌な予感がしていて、開いてみたら案の定。
『体育館で待ってる』
スゴく嫌だった。
なんで私なのだろうって思った。
そんなことばっかりを考えてたけど、わたしの気持ちなんて少しも考えようとしない周りの子たちは、「絶対に告白だよ~」とか、やっぱり囃し立てるばかり。
どうして誰もわたしのことを考えてくれないんだろうって、みんなのことが本当に嫌いになりそうだった。
それでもやっぱり逃げるわけにはいかなくて、わたしはケンタ君の待っている体育館に行ったけど、体育館が近づいてくと胃のムカムカが酷くなってた。
だけど当たり前みたいに後ろから付いてきてたみんなは、わたしとは違ってスゴく楽しそうだった。
体育館に行ってみてビックリしたのが、ケンタ君は一人じゃなくてと友達を連れて来てたこと。一人が嫌なのはわたしの方なのに、なんで呼び出したケンタ君が友達を連れて来ているのか、本当に意味不明だった。
前の学校で呼び出してきた男子はみんな一人だった——そもそも呼び出してくる男子はみんな仲が良かったし、嫌いな子に呼ばれたことなんて一回もなかったのに。
「話ってなに?」
答えはすぐに返ってきた。
「俺と付き合え」
ケンタ君が言った途端、隣の友達たちが手を叩いて、口笛を吹いて、変な声を上げて、体育館の中は小さなお祭り騒ぎ。体育館の外からも黄色い声が聞こえてきて、余計にゲンナリしちゃってた。
やっぱりわたしは、ケンタ君のことが嫌いなんだって思った。
お祭りが落ち着くまで少し待ってから、「ありがとう。すごく嬉しいよ」って言って、それから「でもね」って。
嫌いだけどできるだけケンタ君のことを傷付けないように、慎重に言葉を選んだ。
「まだ引っ越してきたばかりでお互いのこともよく知らないし、まずは友達から始めてみよ?」
ついさっきまでのお祭り騒ぎはどこへ行っちゃったのか、誰も何も言わなくって、体育館の中にも外にも気まずい空気が流れてるのだけは分かった。
ケンタ君の顔を見れば、来た時には勝ち誇ったような顔をしていたのに、それがいつの間にか白い顔になっていて、何も言わずに走って出て行っちゃった。
「おまえ、なに言ってんだよブス!」
「調子にのんな、ブス!」
そう言って二人もケンタ君を追いかけて行って、体育館にはわたしが一人だけ取り残されてた。
「ブスに告白するな、バカ」
体育館から出ると、外にいたはずの子たちもいなくて……
それから次の日。
学校に行くと、誰もわたしとは口をきいてくれなくなってた。
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