第123話 準備

文化祭を終えた後から、瞬く間に月日が過ぎてしまい、あっという間にクリスマスを迎えていた。


クリスマス直前にミサンガが完成し、それを奏介の左足につけると、奏介は嬉しそうに笑い、頭をグシャグシャッと撫でてきた。


クリスマス当日には、二人で買い物に行き、奏介が欲しがっていたグローブとマフラータオルをプレゼント。


奏介からは、新しい赤と白の手作りミサンガと、小さなポーチをプレゼントしてもらっていた。



普段以上に慌ただしい日々を過ごし、本当なら、バイトに復活するはずだったんだけど、就職先の会社に行くことが増えたため、結局早い段階で辞めることに。


オーナーと沙織さんは「急なお願いだったし、いろいろ大変だったけど、また遊びに来てね」と言い、ケーキをプレゼントしてくれた。



あっという間に月日が過ぎ、奏介は徐々に荷造りをはじめ、部屋の中には大きなスーツケースが準備され始めた。


それを見るたびに『本当に行っちゃうんだ…』と思っていたんだけど、今更『行かないで』なんて言える訳もなく、本音を押し殺すばかり。



お正月にはいろいろな人が訪問してきたんだけど、奏介はずっと父さんに捕まりっぱなしだった。


『寂しくなるのが嫌なんだろうな…』


毎日のようにそう思いながら、父さんと話す奏介を眺めていた。



奏介の出発数日前。


夕食を食べる直前、急に玄関の方から足音が聞こえ、ヨシ兄が帰宅していたんだけど…


ヨシ兄は父さんを見るなり「東条ジムに移籍するわ」と切り出した。


父さんはこれに驚き「は? なんで?」と声を上げたんだけど、ヨシ兄は「世界チャンプ狙うから。 じゃ!」と言い、逃げるように家を後に。


父さんの顔は見る見るうちに赤くなり「…奏介、準備しろ。 スパーするぞ」と…


奏介はすぐに立ち上がり「うっす! すぐ着替えます!!」と言い、階段を駆け上っていた。


カズ兄はそれを見て「あいつ、頭大丈夫なのか?」と…


「大丈夫じゃないし、放っておけば」と答えたんだけど、父さんと奏介の二人はジムに行き、数時間後、奏介は顔を腫らして戻っていた。



部屋で座りながら顔を冷やす奏介に「出発前に何してんの?」と呆れながら言うと、奏介は「やっと2発入れられた」と、満足そうに言っていた。


「『帰ってきたらまたやろう』って、英雄さんに言われたよ。 そういやさ、千歳がいつもしてた赤いリストバンドあるじゃん? あれ貸して欲しいんだけどいい?」


「いいよ。 今持ってくるね」


そう言った後、自室に行き、リストバンドを持って行くと、奏介は黒いリストバンドを差し出してきた。


「2年後、会ったらお互い返そう」


「うん。 わかった。 なくさないようにする」


「あとさ、どうしてもお願いっていうか頼みなんだけど、もし、他に好きなやつができたらすぐメールして。 2年って長いし、途中で帰ってこないし… 絶対に待ってろとは言えないからさ。 その時はリストバンド捨てていいから」


「何言ってんの? それはこっちのセリフだよ。 向こうの方が綺麗な人いっぱいいるし、誘惑も多いでしょ?」


「俺は平気だよ。 千歳以外興味ないし」


「私だって同じだよ。 奏介以外興味ないし…」


お互い同じことを言い合った後、思わず吹き出してしまい、笑い合っていた。

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