第121話 ドン引き

父さんと秀人さんの試合があった数週間後。


学校の文化祭があったんだけど、ボクシング部は珍しく試合がなく、ブースを作ることになっていた。


けど、先週行われた他校での練習試合のせいで、準備時間を設ける事ができず、男子陸上部と合同で、執事喫茶を手伝うことに。


陸人と学も執事姿になり、学が「どうっすか?」と聞いてきたんだけど、「ふーん」と言うだけ。


「いやいや、もっとなんかあるっしょ!?」


「ふーん」


「…泣いていいっすか?」


「泣いたらドン引くだけだからいいよ」


そのまま学と話していると、学の背後から執事姿の奏介が現れていた。


奏介の執事姿を見て、かっこよすぎるあまり、思わず目をそらしてしまったんだけど、奏介は私を見て「メイドは?」と切り出してきた。


「あれは女子陸上限定だよ」と言うと、奏介は無言で部屋を後にし、メイド服を着た千夏ちゃんを連れてきて「今、福岡たちが探してくれてるから着て」と切り出してくる。


千夏ちゃんは陸人の姿を見るなり、顔を真っ赤にして俯き、陸人も顔を赤くして俯く始末。


「学と違って陸人はシャイだねぇ…」


「俺だってシャイっすよ? ジャージ着た千歳さんには話しかけらんないっすもん。 かっこよすぎてマジ緊張するんすよ」


「それビビってるって言うんだよ」


ため息交じりに言うと、早苗に呼ばれ、早苗のもとに行こうとすると、千夏ちゃんが腕に絡みついてきた。


『ボディガード?』と思いながら早苗の後を追い、陸上部の部室に行くと、美奈が『待ってました!』と言わんばかりにメイド服を渡してきた。


「嫌だ!」


「嫌じゃない! 奏介君が見たがってるんでしょ!? 着てあげなよ!」


「なんで!?」


「卒業したら行っちゃうんでしょ! 2年も会えないんだから、最後に貴重な姿、見せてあげなよ!!」


美奈に怒鳴るように言われ、何の反論もできないまま、部室でメイド服に着替えたんだけど、胸元が大きく開いている。


『絶対怒られる…』


そう思いながらも振り返ると、美奈と早苗は「エロ! これヤバくない?」と嬉しそうに声を上げるばかり。


早苗がピンを使い、髪をポニーテールにしてくれたんだけど、髪が出来上がったころには諦めていた。


『もうどうにでもなれ』


半ばやけくそになりながらも、そのまま4人で教室に行こうと階段を上っていると、

奏介が階段を降りてきた。


階段の踊り場で、奏介は私を見るなり固まった後、私の前に歩み寄ってきたんだけど、階段下から徹君の「めっちゃ可愛いじゃん!」と言う声が聞こえ、イラっとしながら切り出した


「は? その前に言うことあるんじゃないの?」


「何のこと? あ、もしかして告られたい系?」


「ふざけてる? 誰のせいでギプス生活になったと思ってんの?」


「試合のせいだろ? 俺には関係ないし」


奏介が抑えようとする中、あまりにも無責任な発言にブチっと来ると、千夏ちゃんが私の前に立ち、パーンと言う音を立てながら、徹君の頬を振りぬいた。


「あなたが引っ張ったから悪化したんです! あなたが強引に千歳さんの腕を引っ張ったから、転んでも引きずったから、膝が悪化したんです!!」


泣きながら怒鳴りつける千夏ちゃんを見ていると、怒りをどこにぶつけていいのかわからず…


『立場…』と思っていたら、徹君はいきなり泣き出し「俺だって千歳ちゃんが好きだったんだよぉ!」と号泣。


「は?」


「俺だって千歳ちゃんが好きなのに… 奏介が『千歳に近づくな』って脅すし… ああでもしないどふだりになでないだど!!!」


『うわキモっ! 何言ってるかわかんないし、マジキモイんすけど…』


目の前で号泣する徹君に、ドン引きすることしかできなかった。

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