第105話 訪問
奏介が居候をしてから数日たち、年末年始を迎える。
相変わらず奏介は、父さんと光君の指導の下、汗を流し続ける日々。
お正月になり、トレーニングは一時中断していたんだけど、それと同時にいろいろな人が挨拶に来ていた。
光君は奥さんと子供を連れて挨拶に来たんだけど、子供がかわいいとしか思わなかった。
桜ちゃんや凌君、智也君と元部長も挨拶に来ていたんだけど、桜ちゃんは父さんとカズ兄、そしてヨシ兄と智也君の5人でお酒を飲み、父さんをからかって遊んでいた。
みんなはそれを見て笑っていたんだけど、だんだん居心地が悪くなってしまい、部屋に籠った。
桜ちゃんはすぐに私を追いかけ、隣に座って切り出してきた。
「元気ないじゃん」
「そんなことないよ?」
「そう? 去年は一緒になってからかって遊んでたじゃん」
「覚えてないや」
「田島弥生は覚えてるでしょ? 千歳の決勝戦相手で、前に私が広瀬でやりあった相手。 永久追放になったってね」
「マジで?」
「主審が裏で『あのフックは肘うちを狙ってたのか?』って問い詰めたら、キレて主審を殴って永久追放。 田中の親が、田島の上司なんだってさ。 言うとおりにしないと親の首が飛ぶって噂だよ」
「くっだらね」
吐き捨てるように言うと、インターホンが鳴る音が響き渡り、下から母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
桜ちゃんと二人で1階に降りると、そこには梨花ちゃんとどこかで見たことのある中年男性の姿が。
「あれ? えっと…」
「久しぶりだね。 中田秀人って覚えてないかな?」
「ああ!! そうだ!! ご無沙汰してますってなんで?」
「東条ジムの新オーナーになったんだよ。 お父さんいるかな?」
二人をリビングに案内すると同時に、どよめきの様な歓声がリビングに響き渡る。
凌君と智也君は「やべぇ! 秀人さんだ!!」と言い、奏介は「マジか!! 嘘だろ!?」と、興奮していた。
秀人さんが「ご無沙汰してます」と切り出すと、父さんは「この前、キックの試合で会ったろ?」と、笑いかける。
その後、いろいろと話をしていたんだけど、秀人さんは突然切り出してきた。
「ところで、千歳ちゃん、卒業後の進路は決めた?」
「まだ何も…」
「知り合いがスポーツ用品の会社を立ち上げたんだけど、そこに就職しない? ボクシンググッズに特化した会社なんだけど、梨花も卒業後はそこに行くんだ。 実際に使いながら商品開発をしてほしいって話なんだよね」
急な話に驚き「検討しておきます」とだけ。
『商品開発か…』
そう思いながら考えていると、カズ兄が「いいんじゃないか?」と切り出してきた。
「お前はプロ並み… いや、それ以上の根性があるんだし、いつまでもウジウジしてないで、違う方向にシフトチェンジしろよ。 どうせ、ヨシみたいにプロになる気はないんだろ? だったらプロ志望の、奏介みたいなやつらをバックアップする立場になってもいいんじゃないのか?」
「…バックアップか。 真剣に考えてみる」
はっきりとそう言い切ると、光君がクスっと笑い「やっと生き返ったな」と切り出してきた。
「ずっと生きてたよ?」
「いや、ずっと目が死んでたよ。 小さい時から見てたし、生きてるか死んでるかくらい、見ればすぐわかる」
まっすぐ見つめながらそう言われ、思わず目をそらし続けてしていた。
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