第103話 幸せ

数時間後。


スマホの鳴る音で目が覚め、手探りでカバンからスマホを取り出した。


電話に出るなり父さんの「今から行くから、奏介に泊まる準備しておけって言ってくれ。 明日は朝からトレーニングするぞ」と言う声が聞こえる。


「わかった」と言った後、電話を切り、腕枕をしながら横になっている「父さんが泊まる準備しとけって。 朝からトレーニングするって」と切り出した。


奏介は私の髪を撫でながら「ん… わかった」とだけ。



数十分後に父さんから電話が来て、二人で玄関に向かうと同時に唇を重ねる。


『バカップル』


自分でそう思いながらも、奏介と二人で父さんのもとに向かっていた。



父さんは、私の膝に貼ってある絆創膏を見て「こけたのか?」と切り出してきた。


奏介が事情を離すと、父さんは眉間にしわを寄せ「週明け、病院行ったときにちゃんと話せよ。 奏介、その男、ぶちのめせ」と、恐ろしいことを言っていた。


奏介は「そんなことしたらライセンス取れないじゃないっすか」と、どこか余裕な感じで笑いながら言うだけ。


3人で車に乗り込んだ後、自宅に向かったんだけど、自宅の階段を上ろうとすると、奏介はハラハラした様子で私の後ろを歩いていた。


「大丈夫だって! いつも階段使ってるし!」


「さっきこけたじゃん! 何かあったら怖いし!」


階段の途中で「本当に大丈夫」と言いながら振り返ろうとすると、足が滑り、奏介の胸に飛び込んでしまった。


「ほら見ろ。 こけたじゃん」


奏介はなぜかどや顔でそう言い切り、不貞腐れることしかできなかった。



夕食を取った後、部屋で薬を飲んでいると、奏介が部屋に入ってきたんだけど、すぐにカズ兄に呼ばれてしまい、寝るときは部屋で一人。


しばらく眠っていると、布団の中に冷たい風が入り込み、奏介がぴったりとくっついてきた。


「布団敷いてあるよ?」


「こっちの方が暖かいじゃん」


「父さんにばれたら殺されるよ?」


「酔いつぶれてるから大丈夫」


そう言いながら唇を重ね、奏介の腕に包まれていた。



翌朝、アラームの音で目が覚め、奏介を起こすと、奏介は優しく口づけてきた。


「やばい幸せなんだけど…」


眠そうな顔のまま、幸せそうに微笑む顔に、胸の奥がキュンっと締め付けられる。


「早く行かないとストレッチできないよ」


「だな。 行ってくるかぁ」


奏介はそう言った後、勢いよく起き上がり、トレーニングウェアに着替え始める。


一通りの流れを説明した後、リビングに行き、ストレッチをする奏介を眺めていた。



『こんな風に見えてたんだ…』


奏介は私と全く同じメニューを、淡々と熟していく奏介を見ていると、自分の姿が被って見える。


すると父さんがリビングにきて「行けるか?」と切り出してきた。


奏介は「はい! お願いします!」と返事をすると、どこか嬉しそうで、幸せそうに玄関へ向かっていた。


『あんな嬉しそうな表情はしない』


そう思いながらも、二人を見送り、自室にこもっていた。

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