第102話 ショック

学校に着き、久しぶりにみんなのいる教室へ入ると、早苗と美奈は心配そうな顔で「もう大丈夫なの?」と切り出してきた。


「歩く分には問題ないよ」とだけ言うと、二人は安心したような表情をし「無理させてごめんね」と謝罪。


「謝ることないよ」とだけ言い、二人の話を聞いていた。



終業式を終え、帰宅しようとローファーに履き替えていると、徹君が駆け寄り「これから陸上部のみんなでボーリング行くんだけどいかない?」と切り出してきた。


ボーリングはやっても良いかわからず、「行かない」とだけ言うと、徹君はいきなり私の手を掴み、「行くよ!」と言い、無理やり手を引っ張って駆け出そうとした。


が、その瞬間、1歩を踏み出すことができず、その場に転がり込んでしまった。



『あんなちょっとも走れないとか…』


膝から流れる血を眺め、呆然としていると、駆け寄る足音が聞こえ、奏介の心配そうな声が聞こえてきた。


「大丈夫か?」


「…うん」


「徹、お前何してんの?」


「奏介、いいよ」


徹君に食って掛かる奏介を止め、ゆっくりと立ち上がった後に歩き出そうとしたんだけど、擦りむいた膝が痛いせいで、片足を引きずって歩き始めた。


「保健室行くか?」


「ううん。 帰る」


奏介は私の肩を抱き、支えるようにしながら歩き始め、バス停につくと同時にベンチに座らせ、切り出してきた。


「じいちゃんちでいいのか?」


「うん。 制服、着替えなきゃ…」


「ジムあるし、家まで送るよ」


黙ったまま頷き、血の滲んでいる膝を眺めていた。



おじいちゃんの家につき、ドアを開けようとしたんだけど、ドアが開かない。


普段なら、絶対にどちらかがいるはずなのに、インターホンを鳴らしても、何の反応もなく、ドアの前で困っていると、奏介が「どうした?」と切り出してきた。


「いないっぽい」


「カギは?」


「いつもいるから持ってない」


奏介は私の言葉を聞くなり、スマホを取り出し電話をし始めた。


奏介の話す内容で、父さんに電話をしていることが分かったんだけど、奏介が電話を切ったことを確認した後、「父さん?」と切り出した。


「うん。 老人会のクリパ行ってんじゃないか?って。 すぐ迎えに行けないから、夕方まで俺の家に居ろって。 トレーニングは明日に変更」


「そっか。 なんかごめん」


そう言った後、足を引きずりながら歩き、肩を並べて奏介の家に向かっていた。



奏介の家に入ってすぐ、奏介は擦りむいた膝を消毒してくれたんだけど、消毒を終えた後「そんなに凹んでんなって」と言い、頭をグシャグシャと撫でてくる。


「…あんなちょっとも走れないんだって思ったらさ」


「今までが走りすぎだったんだよ。 ショック受けるのも無理ないけどさ。 1年経ったらまた走れるんだし、それまでのんびりしてろよ」


奏介はそう言った後、絆創膏を張り、消毒液を片付けていたんだけど、ボーっと膝を眺めていた。


何も考えられないままに、ボ-っと膝を眺めていると、突然視界にラッピングされた箱を差し出される。


「クリスマスプレゼント。 いろいろありすぎて、今日、クリスマスだって忘れてただろ?」


「え? そうなの? ごめん、すっかり忘れてた」


「いいよ。 開けてみ?」


奏介に切り出され、箱を開けると、中には赤いタータンチェックのマフラーが入っていた。


「千歳、前は走って学校に行ってたから、必要なかったかもしれないけど、今は走ってないし、寒そうだなって思ったんだけどさ…」



品物よりも気持ちがうれしくて…


奏介の小さな優しさが、何よりも嬉しすぎて…


奏介に抱き着き、激しく唇を重ねていた。


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