第100話 無気力

優勝したにもかかわらず、立ち上がることができずに、そのまま病院へ緊急搬送されてしまった。


診断の結果、膝靱帯損傷ではないかとのことで、この日はそのまま病院に泊まり、翌日、精密検査を受けることに。


翌日受けた精密検査の結果は、膝靱帯断裂と半月板損傷。


「腫れが引き次第、手術をしましょう」と言われ、すぐに聞き返した。


「どれくらいで治りますか?」


「リハビリ次第で、日常生活はすぐできるようになりますよ。 スポーツは6か月から1年ほどですが、みなさん大体8か月ほどで復帰しています。 完全復帰してる方もおられますよ」


父さんと担当医はその後も話をしていたんだけど、なにも耳に入ってこなかった。



1年か…


梨花ちゃんと約束したのに、春の大会は出れないんだ…


陸上部の大会も無理なんだ…



考えれば考えるほど気持ちが沈み、ため息すらも出てこない。


ボーっとしたまま話を聞き流し、父さんは「ゆっくりしろ」と言い、がっかりした表情のまま病室を後に。



突然のことに、何も考えられず、何もすることがなく、ボーっとしたまま。


3人部屋の一番窓際のベッドに寝かされ、出された昼食を食べた後、薬を飲むと、睡魔に襲われ、気が付いたら眠っていた。



唇に柔らかい感触がし、ゆっくりと目を開けると奏介が優しく微笑んできた。


「おはよ」


はじめて言われた言葉に、久しぶりに胸の奥がキュンっと締め付けられる。


「ごめん。 気づかなかった…」


「いいよ。 ゆっくり休んでなよ」


カーテンで仕切られた空間の中、奏介はそう言いながら、私の手をギュッと握りしめてきた。


「足、痛む?」


「ううん。 今は全然痛くないよ」


「手術するんだってな」


「うん。 2週間くらい入院だって」


「毎日来るよ。 来週からテスト期間に入るし、ロードワークついでに来る」


「勉強しなよ」


「ここでするよ。 そういや、カズさんから預かってきた」


奏介はそう言った後、カバンからタブレットPCとワイヤレスイヤホンを出し、テーブルの上に乗せていた。


「新しいの買ったからあげるって。 おすすめの海外ドラマが履歴に残ってるから、それ見て暇つぶししてろってさ。 テスト対策サイトが、ブックマークに入ってるから、それ見て勉強もしとけって」


「…ありがと」


お礼を言ったまではいいんだけど、それを手に取る気力がなく、ボーっとタブレットを眺めていた。


しばらく黙ったままボーっとしていると、徐々に瞼が重くなり、奏介は「寝ていいよ。 寝付いたら行くからさ」と、優しく言いながら頭を撫でてくる。


「うん…」


そう言いながらゆっくりと目を閉じると、唇に柔らかい感触がし、優しいにおいが鼻をくすぐる。


「寝れないじゃん」


「勝ったらするって言ったじゃん。 それに、そんな顔してほしくないし」


「どんな顔?」


「何もかも終わったみたいな顔。 変えたくなる…」


そう言いながら顔を近づけ、カーテンの隙間から光が差し込む中、奏介を抱きしめながら唇を重ね続けていた。


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