第80話 機会
翌朝、いつものように奏介に電話をすると、奏介は起きていたようで「サンキュ」とだけ言い、電話を切ってしまった。
トレーニングの後、おじいちゃんの家に行き、支度をしてから玄関を出ると、奏介が待っていたんだけど、考え事をしているようで私に気づかない。
奏介に駆け寄ると、やっと気が付いたんだけど、奏介は「あ、気づかなかった。 悪い」とだけ言い、学校に向かってしまう。
結局、何も話さないまま学校に着いたんだけど、早苗に大会に参加することを話すと、早苗は歓喜の声を上げ、いきなり抱き着いてきた。
放課後、部活に行ったんだけど、奏介は部活中も思い悩んでいるようで、ボーっとしていることが多かった。
部活を終えた後、二人並んで歩いていたんだけど、おじいちゃんの家の前に着くなり、奏介がいきなり切りだしてきた。
「話したいことがあるから、うちに寄ってくんない?」
『昨日のことだろうなぁ…』
そう思いながら了承し、おじいちゃんの家で着替えた後、父さんに電話。
「奏介が光君の件で相談に乗ってほしいみたいなんだけど」と言いかけると、父さんは「あんまり遅くなるなよ?」とだけ。
急いで玄関を飛び出し、黙ったまま二人並んで奏介の家に向かっていた。
奏介は家に入るなり「光君のこと、お願いしたほうがいいかな?」と切り出してくる。
「当たり前じゃん。 だって専属で付いてくれるってことでしょ? 父さんじゃ見えないところも見えるだろうし、絶対にレベルアップすると思うよ?」
そう言いながら奥に入って座ると、奏介は隣に座り、思い悩んだように切り出してくる。
「けどさ、俺の専属になったら、英雄さんに教わる機会が減るし…」
「だとしても、いろんな人の意見を聞いて、自分のスタイルを作り上げていけば良いじゃん。 まだ高校生なんだし、機会があったら、それにチャレンジしてみるべきだと思うけどなぁ。 今しかできないことじゃん?」
「じゃあさ、こうしようぜ。 お互い隠し事はしないで何でも話す。 もし、光君になんか言われたりされたりしたら、すぐ俺に言って。 その場で専属解消するから」
『やっぱりそこか』と思いつつも、「わかった。 すぐに言うね」とはっきり言い切ると、奏介は私の肩を抱いて顔を近づけてくる。
優しく唇を重ねながら押し倒されてしまい、慌てて奏介の体を押し返した。
「ちょっと待った!!」
「は? なんで? 今しかできないことだろ?」
「それとこれとは話が違う!!」
「違くねぇだろ? 部屋で二人っきりなんて絶好の機会だと思わね?」
誘うような眼をしながら、奏介は顔を近づけてくる。
「待ってってば! 試合!! 父さんが言ってたけど、試合の1か月前はあらゆる誘惑を断つんだって!! それを反動にすると、闘志がさらに上がるって!!」
「今6月だろ? 千歳の大会が8月だから問題なくね?」
「ほ、ほら! うちら高校生じゃん? 試験って、言い換えれば試合みたいなもんじゃん!!」
「じゃあ聞くけど、7月のテストの後、8月には陸上の夏季大会があるよな? 9月には俺の大会がある。 10月は陸上の秋季大会だろ? 11月はキックの試合で、12月はまた試験がある。 どんだけ待たせようとしてんの?」
「…半年くらい? つーか、無理強いはしないって言ってたじゃん!!」
はっきりとそう言い切ると、外からカズ兄のバイクの音が聞こえてくる。
奏介は大きくため息をついた後、私を起こし、抱きしめながら唇を重ねてきた。
外から階段を上る音が聞こえると、奏介はゆっくりと唇を離し「12月の試験終わったら覚えとけよ」と…。
小声で意味深なことを言った後、カズ兄が家に入ってきたんだけど、カズ兄は私の顔を見るなり、父さんのことを聞き「もうちょいだな」とだけ。
その後、少しだけ話しをし、バイクで送ってもらっていた。
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